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1. 成長力維持に求められる労働市場改革
6月中旬に決定される予定の政府の「基本方針2007」では、労働市場改革が経済成長率引き上げのための主要政策のひとつとなることになっている。4月に経済財政諮問会議の労働市場改革専門調査会は「働き方を変える、日本を変える」と題した第一次報告書を発表した。この中では、働く意欲がある人への就職支援を通じた就業率の向上と、家庭と仕事を両立できる働き方の実現が、労働市場の改革の二つの柱とされている。
報告書には女性や高齢者の就業率の引き上げについての数値目標が示されており、その実現可能性を巡って論議も呼んだ。高齢化によって労働力人口の減少が見込まれる中で、日本経済の活力を維持していくためには就業率の引き上げは欠かせない要素であり、報告書の目標数値が達成できそうかどうかはともかく、達成に向けて官民をあげて協力していくことが必要だ。
2. 求められる効率的な働き方
報告が掲げたもうひとつの数値目標は、フルタイム労働者の労働時間の1割短縮である。諮問会議では、「そういうことをやると、日本はキリギリスの国になるんじゃないか」という批判もあったようだ。労働力人口が不足していく中でさらに労働時間を短縮してしまえば、人数×時間で決まる日本全体の総労働時間はもっと減ってしまう。報告書は一見矛盾することを主張しているように見えるだろう。しかし、女性や高齢者の就業率を引き上げると同時に、労働力人口減少の根源にある出生率の改善を図るには、フルタイム労働者の働き方を変えなくてはならない。
1980年代後半以降に政策課題とされていた労働時間の短縮は実現し、日本の労働者の年間実労働時間は1993年の1920時間から2006年には1811時間になった。しかし、実は労働時間の短縮はパート労働者が増加したことが主因であり、フルタイム労働者は今でも年間2041時間も働いている。近年は極端に労働時間が長い正社員も増えているという。
もっとも、キリギリスの国になるという懸念ももっともで、労働市場改革の目指しているのは労働時間を単純に減らすだけではなく、働き方の効率を改善することである。前述の報告書は、「特定の労働者に長時間労働が偏っているのは、時間を有限な資源と考え時間を効率的に活用する問題意識が欠如していること」と、現状について手厳しい批判をしている。
3. 人口減少が迫る働き方の改革
今後は、人手が足りなくなるので日本社会全体として効率よく働く必要があるというだけでなく、効率的な働かせ方をしなければ企業には優秀な人材が集まらなくなる。好むと好まざるとに関わらず、労働力人口の減少が雇用主側にそうした改革を迫ることになるだろう。若年労働者の減少は特に深刻で、就職氷河期などという言葉はもはや死語と化している。厚生労働省と文部科学省が発表した2007年3月の卒業者の就職状況では、大学卒の就職率は96.3%、高等専門学校(男子学生のみ)の就職率は98.8%という高いものとなっている。人使いの下手な会社には、若年労働者が集まらなくなる恐れが大きい。
長時間労働の元凶とされる、つきあい残業や目的のはっきりしない会議など、われわれの身の回りには働き方の効率を改善する余地はまだまだたくさんある。長期的な視点からものを見ることができる経営者には、今後は人材の無駄な使い方はできなくなるということは浸透しているが、問題は目先の結果に追われる現場をどうやって変えていくかである。
現場の状況を変えることができるのは、経営者だけだ。経営者には、中間にいる管理職に対して、結果の評価だけではなく、どのように人を働かせて成果を出しているのか、というプロセスの評価も求められることになるだろう。
(2007年06月04日「エコノミストの眼」)
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