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コラム
2005年10月24日
1.変わる国際収支構造 中期的な日本経済の先行きを展望すると、対外経済関係では二つの大きな変化が予想される。ひとつは、経常収支の黒字幅が縮小していくことだ。日本の高齢化が進み家計貯蓄率が低下していくと国内の貯蓄が減少していくが、国内の貯蓄投資バランス=経常収支という関係から、経常収支の黒字は縮小していくことになる。これに伴って、経常収支の中身もかつての貿易・サービス収支の黒字から所得収支の黒字に移っていく。2010年代半ばには貿易・サービス収支は赤字化してしまい、経常収支の黒字は所得収支の黒字によるものになるはずだ。日本経済にとって、過去の蓄積である対外純資産から得る利子や配当などの所得が重要性を増す。対外資産から高い収益を得るために、金融業の役割が重要になっていくということは、以前にもこのコラムで指摘した通りだ。(2004年10月25日号「赤字化する貿易・サービス収支」) もうひとつの変化は、日本の貿易相手国が米国中心からアジア中心へと変化していくことである。日本の輸入元は、既に中国が米国を抜いて第一位になっているが、このまま経済成長を続けていくと、輸出先としても中国がウエイトを高めていくことになる。日本の貿易相手国を見ると、かつては米国との貿易量が圧倒的に多かったが、近年では中国をはじめとしたアジア各国との貿易量が急速に増加している。日本の輸出金額の地域別構成比を見れば、1963年には米国向けの輸出が27.6%で、欧州向けは6.1%、中国向けは1.1%に過ぎなかったが、2004年には米国向けが22.4%、欧州向けが15.5%、中国向けが13.1%となっている。 2.円安=ドル高ではなくなる こうした貿易相手国の変化が日本経済に及ぼす影響は色々あるが、中でも為替レートの見方に与える影響が重要ではないだろうか。日本経済にとって対米貿易の役割が大きかったこともあって、為替レートと言えば円とドルの交換レートと同義語になっている。このため、円高と言えばドル安のことであり、円安はドル高を意味することになってしまった。しかし、日本の貿易相手国が変わってきたことで、為替レートは円とドルの関係だけでは見ることができなくなっている。貿易の決済にドルが使われていることが多いため、短期的には円とドルのレートは輸出価格や輸入価格に大きな影響を与える。しかし長期的には、米国だけに限らない、主要な貿易相手国の通貨と円との関係が重要になってくる。 こうした点を、ドル、ユーロ、元の三つの通貨に対する円の交換レートを使って考えてみよう。日本からの輸出に対する影響を見るために、米、ユーロ、中国それぞれの地域への毎年の輸出金額で加重平均した連鎖方式で、円の実効為替レートを予測してみた。まず、日本からの輸出の伸びを輸出先の経済成長率で説明する簡単な試算を行えば、日本から米国、ユーロ圏、中国それぞれの地域への輸出の比率は、2005年の米国42.8%、ユーロ圏30.2%、中国27.1%という割合から、2015年には米国29.6%、ユーロ圏26.6%、中国43.8%になると見込まれる。これを使って、2007年以降、円が対ドル、対ユーロで徐々に上昇するが、中国元が円よりも速い毎年2%というペースで米ドルに対して切上げられていくという仮定を置くと、図のように円の実効為替レートは緩やかな円安傾向となることが予想される。 このように日本とアジア各国との間の貿易が増加することによって、今後は円ドルで見た為替レートの動きと、日本経済が経験する実効為替レートの動きとの間の乖離が無視できなくなる。円ドル、円ユーロでは緩やかながら円高傾向が続いても、中国元や韓国ウォンなどアジア通貨に対して円が下落することが見込まれ、実効レートでは円安となる可能性が高い。 日本の高齢化が進めば円安になると言われることが多いが、この円安の意味は必ずしもドル高やユーロ高を意味しないということには注意が必要だろう。 |
(2005年10月24日「エコノミストの眼」)
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