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コラム
2003年05月19日
1.急速に進むドル安 5月15日の東京市場では円高が進み、ついに1ドル115円台に突入した。このところのドル安に対して財務省は覆面介入を行なっている模様だが、これが国際的な協調介入に発展する可能性は極めて低いだろう。12日に開かれたユーロ圏12カ国の財務相非公式会合では、記者会見した議長国ギリシャのクリストドゥラキス財務相は会議の総括として「強くて安定したユーロはユーロ圏と世界経済の利益にかなう」と述べたと報道されている。現在のユーロ高を支持する姿勢を表明したものと言えよう。仏や独からはユーロ高に対して不協和音も聞こえるものの、そもそもドル安の当時国である米国のスノー財務長官が、ドル安を容認するような発言を繰り返しており、ドル安の流れは簡単に変わりそうもない。 2.ドル高は米国の国益にあらず 1990年代後半の米国は高成長が続いていたため、需給の逼迫や失業率の低下による賃金上昇が物価上昇圧力となっていた。インフレを押え込むためには、通常は金融政策を引締めて景気を減速させなくてはならない。しかし、ドル高になれば輸入物価が下落するので、景気を減速させることなくインフレが抑制できる。おまけに強いドルは海外からの資金流入を促し、株価の上昇を支え資産効果による家計の消費拡大をもたらす。ドル高は米国にとって良いことだらけであり、正に強いドルは米国の国益にかなっていた。 しかし、6.5%だったFFレートを1.25%にまで引き下げても期待したように景気が回復してこない米国経済にとって、状況は全く変わってしまっている。イラク戦争が終結して原油価格が下落した現在、インフレの抑制はもはや最重要課題ではない。5月6日のFOMCの際に発表された声明では、FRBが米国経済がデフレに陥るリスクを懸念していることを示唆する表現が盛り込まれている。ドル安による輸出の増加と輸入の減少は国際収支の赤字縮小に役に立ち、景気の回復を後押しすることになる。 今や米国にとってドル高政策を維持するメリットはほとんどなくなり、ドル安の方が望ましい状況となっている。唯一の心配はドル安によって米国への資金流入が細って、米国債の金利上昇や株価の下落を招くことだけだろう。この心配がある以上、米国は明示的にドル高政策を放棄したとは口に出して言えないが、スノー財務長官が為替市場への介入に否定的な発言をしているように、ドルの下落を放置するという実質的なドル安政策は既に始まっている。 3.円安に期待はできず 日本ではデフレ脱却の方法の一つとして円安を主張するエコノミストが多い。米国債などの外貨建て資産を継続的に購入して、マネーサプライを増加させるとともに円安が発生することを期待する声も多い。デフレ状態にある日本経済にとって円安は様々なメリットがあり、円売りドル買い介入をするために必要な円は日本の意志でいくらでも供給できるが、だからと言って実際に円安を実現できるとは限らない。 FRBのバーナンキ理事は、米国でデフレが発生してしまった際の対応として、外国の政府債務(外債)の購入や留保付きながらドル安をあげている。日本がやろうとしているのと同じことを米国もやろうとしているわけだ。しかし、円高ドル安とドル高円安は同時にはできない。国際的なルールからしてドル安と円安のどちらに軍配があがるかといえば、大幅な国際収支の赤字を抱えている米国を救うドル安の方だ。3月の米国の貿易収支は435億ドル(季節調整値)の赤字となり史上二番目の赤字幅となった。 為替レートはその国のファンダメンタルズを反映するのだから、米国経済に比べてパフォーマンスの悪い日本経済の円が高くなるはずがないという意見はよく耳にする。しかし、経済パフォーマンスの良い国の通貨が高くなるのは、その国の通貨が買われ為替市場の需給が逼迫するからだ。ところが2002年の米国の経常収支赤字は5000億ドルを超えている。1ドル=120円で換算して約60兆円にも上る資金が米国に流入し続けなければ、ドル安の圧力が高まるのである。つまりはドルが売られる必要はなく、今までほど買われなくなるだけでドルが下落するのに十分なのだ。 ITバブルが崩壊して米国経済が期待したほどの回復を見せないという状況は、米国経済が前よりも魅力的でなくなることを意味している。2002/09/20号 「それでも地球は動いている」でも述べたように、円安による輸出主導の景気回復が期待できる状況にはなく、ドル安の懸念がはるかに大きいだろう。 |
(2003年05月19日「エコノミストの眼」)
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