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コラム
2002年11月15日
1.華やぐ街 夜の表参道、原宿あたりに出かけて行ったのは何年ぶりのことだろうか、クリスマス前の街は若者であふれ華やいでいた。久しぶりにインドネシアから日本を訪れた友人は、人ごみでにぎわう赤坂の街を見て、「この国が10年以上も経済的な不振で苦しんでいるというのは信じられない」と言った。実際この情景から、365万人もの人が仕事がなくて困っているという状況を想像することは難しい。ほんの数年前までは失業率が5%を越える経済状況などというものは想像することすらできなかった。実際に失業率が5.4%という状況が何ヶ月も続いているものの、それを実感することはあまりない。 しかし終電間際の新宿駅西口ではバブルのころには見かけることがなかった、ホームレスの間を縫うように歩かなければ、地下鉄から私鉄の駅に行くことができない。日本社会のどこかに多くの失業者がいるのだが、普段の生活では目に入らないだけなのだ。 2.大恐慌のアメリカ 「大恐慌のアメリカ」(林俊彦著、岩波新書)を始めて読んだ時に、実は一番印象に残ったのは「国民の三分の一が困窮しているのなら、三分の二の国民は悪い状態におかれていなかった」というくだりだった。大恐慌と言えば世界中の人々が経済の低迷に苦しめられたと想像するが、実はそうではなかったようなのだ。 子供と一緒に見ていたディズニーの「白雪姫と七人の小人たち」のアニメーション映画は、大恐慌の最中の1937年に初上映されたものだという。ビデオのおまけについていた試写会の様子は、華やかなハリウッドの社交界の一端をうかがわせてくれるもので、とても大恐慌の最中とは想像できない華やかさだ。仕事があり安定した収入さえあれば、物価が下がることは決して悪いことではないからだ。 3.ウォーム・ハートとクール・ヘッド 日本経済は低迷を続けているが、このマイナスは実は一部の人にしわ寄せされている。日本人の全ての人が平等に5%ずつ貧しくなっているのであれば、事態は深刻ではあるもののこの痛みに耐えることができるだろう。実際にはそうではなくて、95%の人々は所得が減少したとしてもわずかですんでいるが、5%の人々が職を得られず所得をすべて失うという状況なのだ。極端に言えば95%の人々はほとんど痛みを感じていないが、5%の人々に経済低迷の痛みが集中している。 経済学、特にマクロ経済学を学んだ方の中には、アルフレッド・マーシャルのこの言葉をどこかで耳にし、感銘を受けた人も多いだろう。しかし、最近の経済政策に関する論議を聞いていると、とても自分の受けた感銘を共有しているとは思えないものが多い。もし自分の身に失業という痛みがやってきたとしたら、果たして自分はその痛みに耐えられるだろうか?自信をもって「YES」と答えられる人は多くないのではないだろうか。 |
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(2002年11月15日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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