2002年03月25日

労働分配率の計測方法について -思ったほど上昇していない企業部門の労働分配率-

日向 雄士

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1.
90 年代に労働分配率が大幅に上昇し、企業の人件費負担が過大になっているという議論が多くみられる。実際に、通常利用されている計算式に従って労働分配率を計算すると、このことは簡単に確認できる。しかし、これらの計算式には、国民経済計算のデータに企業部門以外のデータが含まれていたり、法人企業統計の労働分配率の計算に減価償却費が含まれているものといないものとが混在しているなど、企業部門の労働分配率を計測・分析するという観点からは、問題点が少なくない。
2.
労働分配率の計算式は 雇用者報酬/付加価値 であり、この付加価値には固定資本減耗を含んだ粗付加価値と、固定資本減耗を含まない純付加価値とが使われる。そして、この粗と純とでは、導き出した労働分配率の意味が異なり、両者を区別しない労働分配率の解釈には問題がある。
3.
国民経済計算を用いて企業部門の労働分配率を計算する場合には、家計の持ち家データを計算から除くなどいくつかの概念調整が必要である。しかし、概念調整の中でも、個人企業の混合所得に関する調整は難しく、企業部門の労働分配率の分析を行うには、他の統計も併用する必要がある。
4.
国民経済計算を補完する統計として法人企業統計が考えられるが、法人企業統計には季報と年報とがある。年報に比べ季報は90 年代のデータに問題が多く、分析には年報を用いる方が望ましい。法人企業統計年報を使い、会計基準の変更などにより生じたデータの非連続性を調整した労働分配率を求めると、国民経済計算の企業部門における労働分配率と近い動きとなる。
5.
この二つの統計から求めた企業部門の労働分配率は、純付加価値ベースと粗付加価値ベースとでその推移が異なる。純付加価値ベースでは90 年代の労働分配率は過去に比べ大幅に上昇している一方、粗付加価値ベースの労働分配率は、90 年代に上昇してはいるが、2000年時点で過去最高水準を超えるには至っていない。
6.
企業活動の基本は、あくまで生産活動にあることから、労働分配率は粗付加価値ベースで考えるべきである。純付加価値ベースの分配率にしたがって人件費を削減すると、削減が適正量を上回り、経済に悪影響が出る可能性もある。

(2002年03月25日「ニッセイ基礎研所報」)

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