コラム
2002年03月04日

日本企業の収益性

日向 雄士

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1.事業利益でみた日本企業の収益性

図表1 総資本事業利益率(ROA)の推移(2001年第3四半期迄) 日本企業の収益性は、長い間低下し続けてきたといわれている。図表1は総資本事業利益率(ROA):(営業利益+受取利息等)/(他人資本+自己資本)の推移を見たものである。80年代には日本企業のROAは概ね6%あったが、バブル崩壊後低下し、2001年には4%程度となっている。

このように、ROAだけをみると、企業の収益性の低下は明らかである。

しかし、企業を、外部から調達した資金などを生産活動に利用し、超過利潤を獲得する存在と考えると、企業の収益性は、資金調達コストとの比較で判断する必要があるのではないか。
図表2 借入金利子率考慮後ROAの推移(2001年第3四半期迄) そこで、図表1のROAから企業の借入金利子率を引いた借入金利子率考慮後のROAを考えた(図表2)。これは、企業の資金調達コストは他人資本と自己資本の加重平均コストであり、自己資本の資金コストは倒産リスクを負うため他人資本コストを上回るはずであると考えると、企業の資金調達コストの最低水準は、借入資金コストとなる。そこで、ROAがこの最低限の資金調達コストを上回っているか見たものである。

これによると、現在の日本企業は、景気後退に伴い収益率が低下しつつあるものの、依然として借入資金コストを上回る利潤を上げていることがわかる。95年度以降、景気変動に関係なく図表2がプラスを維持しており、日本企業の収益力が上がってきていることがわかる。

2.最終利益でみた日本企業の収益性

図表3 税引前利払前総資本当期利益率-借入金利子率 の推移 図表1と図表2は、利益をいわゆる企業の本業による利益を中心にした事業利益で考えていた。しかし、企業が資本家(株主)から求められる利益は、最終利益である。そこで、企業努力と無関係な税制の影響を除くため、税引前利払前当期利益を考え、税引前利払前当期利益/(他人資本+自己資本)を税引前利払前総資本当期利益率とし、これから借入金利子率を差し引いた数値の推移を求めた(図表3)。

これによると、本業だけで見た企業の収益性(図表2)は既に回復しているにも係らず、最終利益でみた収益性はいまだ、最低限の資金調達コストさえ下回っていることがわかる。

3.海外企業の収益性

事業利益と税引前利払前当期利益との違いが営業外損益や特別損益であることから、図表2と3の差は、90年以降続く、資産価格の下落や企業年金の積立不足などが原因である。そのため、資産価格の下落が止まるなど、こうした一時的な損失処理に目処がつけば、日本企業の最終利益でみた収益性も回復に転じる可能性は高い。

しかし、これまで日本の金融機関は、業績が悪化した企業の業績回復を助けるため、優遇金利を適用するなど支援を行ってきた。そのため、現在の借入金利が本来あるべき金利水準より低くなっており、結果として図表2で企業の収益性が高く現れている可能性もある。現時点で本業である程度の超過利潤を上げていても、そのことをもって、日本企業の本業の収益性が十分回復したかどうかはまだわからないという意見も多い。
図表4 英・米企業の借入金利子率考慮後のROAの推移 そこで、英国と米国の上場企業において、図表3と同じ計算を EBIT/TOTAL ASSET から借入金利子率を引いて行った。それによると、両国企業の利益率は、業績が悪化した90年代初期でさえ、最低限の資金調達コストをほとんど下回っていない(図表4)。また、好業績時の超過収益率が4%程度あるなど、日本企業に比べると、両国企業の収益性は非常に高いといえる。

資本家(株主)の要求に応えるためには、海外企業の収益性を目標に、日本企業はより一層収益性を高める必要がある。
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