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- 介護サービスにおける公と民の役割に関する経済分析
1.本稿の趣旨
本稿では、介護サービスにおける公と民の規範的な役割に関する考察を行う。供給面からは「誰(自治体・非営利団体・企業)が介護サービスを供給すべきか」、財政面からは「誰(公費・利用者)が介護費用を負担すべきか」といった命題に対する分析を試みる。
2.日本の公民役割分担の定性分析
わが国における公民役割分担は、(1)供給面からは、公的部門と民間非営利部門が中心となっており、民間営利部門は参入規制や公費アクセスの制限等により、周辺的・補完的な地位に止まっている。(2)財政面(需要面・費用負担面)からは、公的サービスは大部分が公費・民間サービスは全額私費となっている。
3.ニホンの公民役割分担の定量分析
供給・財政両面での公民の構成比を推計した。(1)供給面からは、施設介護サービス(以下、施設)では公的部門16%・非営利部門78%・営利部門6%、在宅介護サービス(以下、在宅)では同46%、・47%・7%となり、非営利部門が大きく営利部門は小さい。(2)財政面からは、施設では公費95%・私費5%、在宅では公費90%・私費10%と、何れも公費負担が中心となっている。
4.国際比較
日本と欧米諸国の公民構成比を比較した。(1)供給面からは、営利部門の構成比が、施設においては7カ国中最も小さく、在宅でも6カ国中2番目に小さい。(2)財政面からは、わが国の公費負担基準は、各国に比べ比較的寛容といえる。
5.公民の役割(供給面)に関する考察
供給主体として、公民のどちらが優れているかを検証した。(1)費用に関しては、営利部門は利潤動機により効率性を高く(生産費用を低く)することができるが、監視や規制等の必要性から社会的な取引費用は高くなる。一方、公的(非営利)部門は、X非効率性により生産費用は高くなりがちだが、社会的な取引費用については低くて済む。(2)品質に関しては、営利部門は利潤動機によりコストの過剰削減→品質低下の懸念があるが、柔軟性・多様性に優れる面もある。一方、公的部門は最低(標準)品質は恐らく保証されるが、品質向上インセンティブは働きにくい。既存の実証研究からは、生産費用に関する営利部門の優位性は確認されたが、取引費用や品質に関しては、公民どちらかの明確な優位性を実証するデータは得られなかった。
6.公民の役割(財政面)に関する考察
財政面からは、市場の失敗の防止、外部性の存在、アクセスの公平性確保等の理由により、ナショナル・ミニマム部分に関しては公費負担が望ましい。ただしモラルハザードやただ乗りの除去、国庫負担の軽減などのために、所得・要介護度・サービス内容等に応じて適度な私費負担を導入すべきである。
7.望ましい政策
以上より、次のような政策が望ましいと考えられる。すなわち、品質面での規制や監視体制を整備し、利用者に選択の自由を保証したうえで、公費負担によって成立した市場において、公的部門・非営利部門・民間部門などの多様な供給主体が、同一条件下で自由な競争を展開する。こうした政策により、財政面で公平性を確保しつつ、供給面で効率性を追及することができる。
8.現行制度と公的介護保険制度の政策評価
7.の観点から、現行制度と公的介護保険制度を政策として評価した。現行制度は、(1)供給面からは、公民サービス間の価格差等により、公民間の公平な競争が実現していないことなどが問題だが、(2)財政面からは「大部分が公費負担、一部私費負担」という基本構造は評価できよう。公的介護保険制度は、(1)供給面からは、在宅においては公民間の競争条件(価格等)が同一化される点は評価できるが、施設においては参入規制などにより公民間の公平な競争は困難である点は改善の余地があろう。(2)財政面からは、需要創造効果などが高く評価できよう。
(1998年10月13日「ニッセイ基礎研所報」)
郷 一尚
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1998/10/13 | 介護サービスにおける公と民の役割に関する経済分析 | 郷 一尚 | ニッセイ基礎研所報 |
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