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■見出し
1.はじめに
2.クリントン政権におけるローラ・タイソン
3.タイソンの「戦略的管理貿易論」
4.「誰が誰を叩いているのか」の問題点
5.日本の採るべき対応策
■はじめに
戦後世界の貿易システムは、自由・無差別を原則とするGATT(関税貿易一般協定)によって支えられてきた。言うまでもなくGATT体制を主導してきたのは、覇権国アメリカであり、一方日本は、同体制の下で最も大きな恩恵を受けた国の一つであった。世界経済の発展も、また日本経済の驚異的な復興・成長も、こうした安定的な自由貿易体制の存在なくしてはありえなかったことである。
しかしながら、覇権国としてのアメリカの地位が揺らぐとともに、世界貿易におけるGATTの主導力は翳りを見せるようになった。これは、一つには、経済の発展とともにこれまでのGATTでは想定されていなかったような様々なグレー・ゾーンが拡大してきたことによる。しかし同時に、そもそもGATTのような多角的機関では、それをリードする覇権国の存在が不可欠であるという点も無視できない。いずれにせよ、保護貿易措置の拡大、地域経済ブロックへの傾斜等々、80年代を通し自由無差別な貿易体制を揺るがすような、いくつかの動きが顕著となってきたのである。
こうしたなかでクリントン政権は、日本に対し数量目標を明示した、管理貿易的色彩の強い要求を行なっている。世界のGNPの4割を占める日本とアメリカ二国間で管理貿易が強化されれば、それはとりもなおさず世界の自由貿易体制が大幅に後退することを意味する。したがって、包括経済協議等を通して交わされる日米間の交渉は、日米二国間の問題にとどまらず、21世紀に向けた世界の貿易システムを規定することとなるだろう。アメリカの管理貿易要求に対し、日本がどのような対応を採るか、世界から大きな注目を集めているのである。
本論では、アメリカの管理貿易要求の背景と、日本の採るべき対応策について議論する。具体的に、クリントン政権の通商政策は、CEA委員長に抜擢されたローラ・タイソン(全力リフォルニア大学パークレー校教授)の戦略的管理貿易論を応用したものと考えられる。そこで先ず、タイソンの著書「誰が誰を叩いているのか」を中心にその基本的考え方をレヴューし、その上で日本としての反論のポイント、および具体的な日本の政策対応について考えることにする。結論として、自由貿易を維持するため、コメの自由化を含む日本の「行動主義」(activism)の必要性を明らかにしたい。
(1993年08月01日「調査月報」)
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竹中 平蔵
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