2000年03月25日

政策危機と経済論議

竹中 平蔵

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1.
90年代の日本経済に対しては、「失われた十年」という表現が聞かれるようになった。この十年間の経済メカニズム、政策過程などに関する包括的評価を行なうことが急がれている。「政策危機」という視点で90年代を振り返ると、次のような二つの重要な節目があったと判断される。
2.
第一は、90年代前半の時期に、資産デフレによる成長屈折を適切に予測できなかった、という点だ。バブル崩壊が明らかになった後も、政府は一貫して高い経済成長見通しを示し続けていた。第二は、90年代前半から半ばにかけての期間に、不良債権処理を適切に行なえなかったことだ。
3.
本論では、90年代における日本の政策危機を象徴する、「成長屈折の見誤り」「不良債権処理の誤り」(本格的な公的資金投入の遅れ)という二つの事例を対象に、かつ可能なかぎり客観的なデータに基づいて、経済論議に関する初歩的なファクト・ファインディングを試みた。
4.
成長屈折の見誤りに関しては、民間機関に比較して政府見通しのバイアスが一貫して大きい。民間も誤ったが、次第に予測の誤りを修正してきた。シンクタンクの性格別にも、予測誤差に若干の傾向が見られた。
5.
公的資金投入問題に関しては、総じて新聞における取り上げ方が極めて不十分であり、社会全体としての問題意識が希薄であった。当時の政策的関心は、むしろ対外摩擦・円高といった企業業績に直結する問題に偏っていた。世論調査において、実施新聞社によって結果にばらつきが見られた。
6.
今後は、政策決定の具体的プロセスに沿って、専門家の論議・マスコミの論議・世論の動向・政治の過程調整など、より詳細な実証分析が求められる。

(2000年03月25日「ニッセイ基礎研所報」)

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