NEW
2025年05月02日

保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

文字サイズ

1――はじめに

先日のレポート1でも紹介したように、現在、欧州における貯蓄性保険商品や年金が、退職後資金の確保に充分役立つような政策が検討されつつある。そのため、保険や年金商品の利回りが加入者にとって満足できる水準にあることは、制度構築や政策とともに重要である。

それをみることができる資料の一つとして、EIOPA(欧州保険・企業年金監督機構)は、2025年4月15日に、保険型投資商品(IBIP : Insurance-Based Investment Products)の、2023年までの利回りとコストについての報告書2を公表した。以下、その内容を紹介する。
 
1 「年金や貯蓄性保険の可能性を引き出す方策の推進(欧州)」(基礎研レター2025.4.25)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/81818_ext_18_0.pdf?site=nli
2 COSTS AND PAST PERFORMANCE REPORT  (2025.4.15 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/06bbb472-dd90-4246-825a-f79783b7011a_en?filename=EIOPA-BoS%2025-123%20-%20Costs%20and%20Past%20Peformance%20Report%20-%202025.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)

2――保険型投資商品の現状

2――保険型投資商品の現状

1|販売量等の概況
保険型投資商品の2023年の動向は、国によって大きく異なっていた。一部の国(ベルギー、イタリア、ノルウェー)では、市中金利の上昇により、保険会社が保証利率を高くした商品を提供できるようになったため、伝統的な利益配当型保険へと販売はシフトした(利益配当型保険の総収入保険料26.8%増、ユニットリンクは減少)。その他の国では、2023年末時点で保証利率の上昇はまだ見られず、一方で金融市場の動向は良好なことから、ユニットリンク型商品に人気があった。

EEA(欧州経済領域)においては、利益配当型保険と10年未満の資産運用リスクレベルが中位のユニットリンクの商品が、最も人気のある商品であった。

また、保険型投資商品の市場では、ESG対応商品が大きく増加しており、調査対象商品の55%にESG要素が組み込まれていた。

販売チャネルをみると、フランス、ベルギー、ドイツなどの大規模市場を含む半数以上の加盟国では銀行が主な販売業者となっている。その他の国では、保険仲介者や保険代理店の販売が中核となっている。今後注目されると思われるデジタルチャネルによる販売は、まだ限定的である。
2|2023年単年、あるいは2019~2023通算の利回り
〇2023年の利回り
2022年の金融市場の低迷のあと、2023年は株式市場が大きく好転した年であった。また、EEAにおけるインフレ率は2022年の9.2%から2023年に6.3%に低下した。

全ての保険型投資商品において、利回りの上昇がみられたが、資産運用リスクレベルの違いによって、その程度には大きな差があり、純粋なユニットリンクと市場エクスポージャーの高いハイブリッド商品は、高リスク商品で14.3%、低リスク商品で6.4%となった。利益配当型保険は、2023年の利回りは2.2%とプラスで、前年よりも上昇したものの、インフレ率の水準には届かなかった。
 
〇過去4年間(2019~2023)の利回り
2019年~2023年通算では、2022年の金融市場の低迷とインフレ圧力が大きかった時期があったにもかかわらず、プラスの利回りとなった。

ユニットリンク商品は、資産運用リスクの大小によって利回りに差があり、高リスク対応商品の利回りは4.2%、ハイブリッドユニットリンクの利回りは3.2%となった。

利益配当型保険は、期間全体を通じて安定的にプラスの利回りとなっている。EU合計では1.6%となり、これは低リスク対応ハイブリッド利益配当型(1.5%)や低リスク対応のユニットリンク(0.7%)を上回っている。

しかしいずれもインフレ率を上回ることはできなかったので、実質的な利回りはマイナスと評価せざるを得ない結果であった。
 
サステナビリティ特性の有無(ESG要素の有無)で見ると、2020年から2023年にかけて、保険型投資商品の利回りは大きくばらついていて優劣は判別しにくい。ただし特に株式ファンドに投資するユニットリンク商品だけをみると、ESG対応商品の利回りは5.2%、非ESG商品は2.4%と、ESG対応商品の利回りがまさっている。
3|コスト~商品、リスク度合いにより異なる
保険型投資商品に関連するコストとしては、契約管理費、資産運用費、生体認証費、販売費の4つがある。この水準を評価するために、これらのコストが利回りをどれほど押し下げているかという指標(RIY : Reduction in Yield)を用いる。

これまでの傾向と同様に、利益配当型保険は、長期の資産運用を要望する顧客にとって最もコストが手頃となっている一方、純粋なユニットリンク型やハイブリッド型など投資リスクが高い商品においては、特に資産運用費コストが高い。2023年は市場環境が好調だったため、利回りも高水準だったが、今後も同様の成果が得られるとは限らない。
 
コストは商品によってバラツキがあり、ESG対応ユニットリンク型商品は、非ESG型よりもコストが平均+0.4%高かった。

また一部の国では手数料や継続費用が高いことから、そうした国を含むクロスボーダー商品はコストが高い。

ここ数年、インフレや経費の増加があったにもかかわらず、コストは比較的安定している。2023年にはユニットリンク型商品ではわずかながら(+0.2%)上昇、利益配当型では-0.3%低下した。消費者のためにもコストパフォーマンスの向上にむけた取り組みを継続する必要がある。

3――個人年金商品の現状

3――個人年金商品の現状

1利回り
欧州の多くの国で、サステナブルな年金制度への懸念は依然として重要な課題である。それを補う保険会社の個人年金商品(PPP:Personal Pension Products)は、2023年は利回りがプラス(2.1%)となり、2019~2023の4年通算でも利回りは1.2%であった。
 
2コストのトレンド
個人年金商品のコストは2023年には1.9%で、比較的高い水準で推移している。保険型投資商品同様に、利益配当型はユニットリンクよりもコストが低い傾向はある。ただし近年この差は縮小している。
 
3国による違い
個人年金商品は各国の規制が異なるので、一律に比較することは難しいが、国によって以下のような特徴がみられる。

・ハンガリー、スペイン、スロベニアなど一部の国では、資産運用リスクレベルが高いようであり、利回りも高かったが、コストも高い。

・ドイツなどでは、コストが低いうえに利回りも平均以上で良好な成績である。

・フランスでは、利益配当型商品が、平均的なコストであるにもかかわらず、高い利回りをもたらしている。

4――退職年金制度(IORP)の現状

4――退職年金制度(IORP)の現状

退職年金制度は、欧州の年金制度全体の重要な柱のひとつである。EU全体での統一基準は一部導入されているが、例えば税制や加入方式(強制、任意、自動)など、各国毎の制度の違いも大きい。2022年から2023年にかけて年金基金の総数は、-2%の微減となった。また、スペイン、オランダ、イタリアなど、一部の国に集中している実態もある。

退職年金制度は、確定拠出型であるか確定給付型であるかによって、加入者と年金受給者にとっての資産運用リスクが異なる。最終的な給付額が(基金や会社がリスクを取ることによって)保証されている確定給付型よりも、確定拠出型の方が加入者等は、高い資産運用リスクにさらされる。

2023年末における、年金基金の加入者は3,530万人(対前年+2%)、運用資産は2兆7,200億ユーロ(+8.8%)となった。運用資産で見ると、確定拠出型は13.3%増であったが、確定給付型は7.6%増にとどまっており、確定拠出型への移行が顕著である。

EEAにおける確定拠出型全体の2023年の運用利回りは8.54%と、市場環境が好調であったことから過去数年に比べてはるかに良好である。

5――おわりに

5――おわりに

2023年は資産運用環境がよい時期だったので、その直前の年度も含めた長い期間でみても、平均的には、良好な運用成果をもたらすことができたようだ。その結果、利回りを押し下げるものとしてのコストはあまり問題にならないで済んだとも見える。今後好況と不況が繰り返される中で、好調時はその成果を享受し、悪い時でも一定程度期待に応えられる成果を出せるよう、リスク管理面、コスト設定面などで、設計が改善された商品が提供されることが望まれるだろう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月02日「保険・年金フォーカス」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介)のレポート Topへ