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保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
それをみることができる資料の一つとして、EIOPA(欧州保険・企業年金監督機構)は、2025年4月15日に、保険型投資商品(IBIP : Insurance-Based Investment Products)の、2023年までの利回りとコストについての報告書2を公表した。以下、その内容を紹介する。
1 「年金や貯蓄性保険の可能性を引き出す方策の推進(欧州)」(基礎研レター2025.4.25)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/81818_ext_18_0.pdf?site=nli
2 COSTS AND PAST PERFORMANCE REPORT (2025.4.15 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/06bbb472-dd90-4246-825a-f79783b7011a_en?filename=EIOPA-BoS%2025-123%20-%20Costs%20and%20Past%20Peformance%20Report%20-%202025.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――保険型投資商品の現状
保険型投資商品の2023年の動向は、国によって大きく異なっていた。一部の国(ベルギー、イタリア、ノルウェー)では、市中金利の上昇により、保険会社が保証利率を高くした商品を提供できるようになったため、伝統的な利益配当型保険へと販売はシフトした(利益配当型保険の総収入保険料26.8%増、ユニットリンクは減少)。その他の国では、2023年末時点で保証利率の上昇はまだ見られず、一方で金融市場の動向は良好なことから、ユニットリンク型商品に人気があった。
EEA(欧州経済領域)においては、利益配当型保険と10年未満の資産運用リスクレベルが中位のユニットリンクの商品が、最も人気のある商品であった。
また、保険型投資商品の市場では、ESG対応商品が大きく増加しており、調査対象商品の55%にESG要素が組み込まれていた。
販売チャネルをみると、フランス、ベルギー、ドイツなどの大規模市場を含む半数以上の加盟国では銀行が主な販売業者となっている。その他の国では、保険仲介者や保険代理店の販売が中核となっている。今後注目されると思われるデジタルチャネルによる販売は、まだ限定的である。
〇2023年の利回り
2022年の金融市場の低迷のあと、2023年は株式市場が大きく好転した年であった。また、EEAにおけるインフレ率は2022年の9.2%から2023年に6.3%に低下した。
全ての保険型投資商品において、利回りの上昇がみられたが、資産運用リスクレベルの違いによって、その程度には大きな差があり、純粋なユニットリンクと市場エクスポージャーの高いハイブリッド商品は、高リスク商品で14.3%、低リスク商品で6.4%となった。利益配当型保険は、2023年の利回りは2.2%とプラスで、前年よりも上昇したものの、インフレ率の水準には届かなかった。
〇過去4年間(2019~2023)の利回り
2019年~2023年通算では、2022年の金融市場の低迷とインフレ圧力が大きかった時期があったにもかかわらず、プラスの利回りとなった。
ユニットリンク商品は、資産運用リスクの大小によって利回りに差があり、高リスク対応商品の利回りは4.2%、ハイブリッドユニットリンクの利回りは3.2%となった。
利益配当型保険は、期間全体を通じて安定的にプラスの利回りとなっている。EU合計では1.6%となり、これは低リスク対応ハイブリッド利益配当型(1.5%)や低リスク対応のユニットリンク(0.7%)を上回っている。
しかしいずれもインフレ率を上回ることはできなかったので、実質的な利回りはマイナスと評価せざるを得ない結果であった。
サステナビリティ特性の有無(ESG要素の有無)で見ると、2020年から2023年にかけて、保険型投資商品の利回りは大きくばらついていて優劣は判別しにくい。ただし特に株式ファンドに投資するユニットリンク商品だけをみると、ESG対応商品の利回りは5.2%、非ESG商品は2.4%と、ESG対応商品の利回りがまさっている。
保険型投資商品に関連するコストとしては、契約管理費、資産運用費、生体認証費、販売費の4つがある。この水準を評価するために、これらのコストが利回りをどれほど押し下げているかという指標(RIY : Reduction in Yield)を用いる。
これまでの傾向と同様に、利益配当型保険は、長期の資産運用を要望する顧客にとって最もコストが手頃となっている一方、純粋なユニットリンク型やハイブリッド型など投資リスクが高い商品においては、特に資産運用費コストが高い。2023年は市場環境が好調だったため、利回りも高水準だったが、今後も同様の成果が得られるとは限らない。
コストは商品によってバラツキがあり、ESG対応ユニットリンク型商品は、非ESG型よりもコストが平均+0.4%高かった。
また一部の国では手数料や継続費用が高いことから、そうした国を含むクロスボーダー商品はコストが高い。
ここ数年、インフレや経費の増加があったにもかかわらず、コストは比較的安定している。2023年にはユニットリンク型商品ではわずかながら(+0.2%)上昇、利益配当型では-0.3%低下した。消費者のためにもコストパフォーマンスの向上にむけた取り組みを継続する必要がある。
3――個人年金商品の現状
欧州の多くの国で、サステナブルな年金制度への懸念は依然として重要な課題である。それを補う保険会社の個人年金商品(PPP:Personal Pension Products)は、2023年は利回りがプラス(2.1%)となり、2019~2023の4年通算でも利回りは1.2%であった。
2|コストのトレンド
個人年金商品のコストは2023年には1.9%で、比較的高い水準で推移している。保険型投資商品同様に、利益配当型はユニットリンクよりもコストが低い傾向はある。ただし近年この差は縮小している。
3|国による違い
個人年金商品は各国の規制が異なるので、一律に比較することは難しいが、国によって以下のような特徴がみられる。
・ハンガリー、スペイン、スロベニアなど一部の国では、資産運用リスクレベルが高いようであり、利回りも高かったが、コストも高い。
・ドイツなどでは、コストが低いうえに利回りも平均以上で良好な成績である。
・フランスでは、利益配当型商品が、平均的なコストであるにもかかわらず、高い利回りをもたらしている。
4――退職年金制度(IORP)の現状
退職年金制度は、確定拠出型であるか確定給付型であるかによって、加入者と年金受給者にとっての資産運用リスクが異なる。最終的な給付額が(基金や会社がリスクを取ることによって)保証されている確定給付型よりも、確定拠出型の方が加入者等は、高い資産運用リスクにさらされる。
2023年末における、年金基金の加入者は3,530万人(対前年+2%)、運用資産は2兆7,200億ユーロ(+8.8%)となった。運用資産で見ると、確定拠出型は13.3%増であったが、確定給付型は7.6%増にとどまっており、確定拠出型への移行が顕著である。
EEAにおける確定拠出型全体の2023年の運用利回りは8.54%と、市場環境が好調であったことから過去数年に比べてはるかに良好である。
5――おわりに
(2025年05月02日「保険・年金フォーカス」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/02 | 保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) | 安井 義浩 | 保険・年金フォーカス |
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