コラム
2013年10月01日

介護保険と医療保険3原則の関係性 - 介護保険の仕組みから医療制度改革を考える(1)

阿部 崇

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2014年4月からの消費税増税に向け、安倍首相による号令の下、いよいよその準備が本格化する。消費税増税の契機は、言わずと知れた「税・社会保障一体改革」にある。ここで、両輪のもう片方である社会保障制度改革をみると、年金制度や少子化対策に比して出遅れ感があった医療・介護分野では、一体改革の議論の只中からはイメージできないほどに“キチンと”検討は進められており、広範かつ詳細に亘って「改革の工程表」が示されている。

医療保険・介護保険の制度改革に関する近況は上記の通りであるが、本稿では、これとは少し違う視点から制度改革における医療と介護の関係性について整理したい。

医療保険制度については、概ね現在の形となった昭和36年の国民皆保険達成から既に50年以上経過しており、他方、介護保険制度は平成12年にスタートした比較的若い制度である。医療と介護は給付(提供されるサービス)の内容は本質的に異なるが、保険制度の基本的な骨格は類似点が多くみられる。大雑把に言えば、(1)広く一般から徴収する保険料(カネ)をもとに、(2)一定の要件にあてはまる被保険者(ヒト)が、(3)指定機関からサービス(モノ)の提供を受けることができる、という三角形の仕組みである点で両制度は共通している。

では、両制度の関係性はどうであろうか。

超高齢社会の重要なセーフティネットとして、医療機関や介護施設・事業者によるサービスまた提供体制など、現場レベルでの医療・介護両制度の結び付きは強い。特に対象が医療・介護の両方のニーズを併せ持つ高齢者となれば、両者の連携はもはや前提であり、そのことは給付規定や制度運営の場面にも現れている。そしてもう一つ、“少し違う視点から”の関係性として、「制度設計」における結び付きについて着目したい。

歴史の長い医療保険制度は、ピラミッド型の人口構造や一定の経済成長を前提とした状況下で設計されたものである。ただ、90年代以降、顕在化してきた少子高齢化や長引く経済低迷等の影響を受け、枝葉の制度修正ではもはや対応しきれないほどの制度疲労状態にあった。そのタイミングで設計・創設されたのが、5番目の社会保険としての介護保険制度であった。

介護保険制度は、高齢者介護という課題を社会全体で共有することを目的としてスタートとした一方で、医療保険制度における修正ではこれまで乗り越えられなかった構造的な課題への対応を可能にする様々な仕組みを備えた“試み”としての重要な役割も担っていた。

医療保険制度には、国民皆保険(誰でも)、フリーアクセス(いつでもどの医療機関でも)、現物給付(保険給付として医療サービスを受けられる)という3原則がある。これらの原則は医療のセーフティネットにとって理想的である反面、保険財政悪化の要因でもあった。そして、理想的であるが故に、これまでの医療制度改革では正面から踏み込んだ議論は行われてこなかった。しかし、介護保険制度では、これらの原則に対して直接・間接に影響を与える仕組みが、医療制度改革の“試み”として盛り込まれているのである。

次稿からは、介護保険制度で既に運用されているいくつかの仕組みが、医療制度の3原則に対してどのように作用する可能性を持つのかを詳説する。




 
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(2013年10月01日「研究員の眼」)

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