2024年03月11日

2023~2025年度経済見通し-23年10-12月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2023年10-12月期の実質GDPは前期比年率0.4%へ上方修正

3/11に内閣府が公表した2023年10-12月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.1%(年率0.4%)となり、1次速報の前期比▲0.1%(年率▲0.4%)から上方修正された。

2023年10-12月期の法人企業統計の結果が反映され、設備投資が1次速報の前期比▲0.1%から同2.0%へ大幅に上方修正されたことが、実質GDPがマイナス成長からプラス成長に転じた主因である。その他の需要項目では、民間消費(前期比▲0.2%→同▲0.3%)、民間在庫変動(前期比・寄与度▲0.0%→同▲0.1%)、公的固定資本形成(前期比▲0.7%→同▲0.8%)が下方修正された。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 企業収益が好調を続ける中、設備投資の回復ペースは緩やかにとどまっていたが、2023年10-12月期は法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを含む)が前期比10.4%の高い伸び、GDP統計の設備投資も名目・前期比2.9%、実質・前期比2.0%の増加となり、これまでの遅れを取り戻す形となった。

また、日銀短観などの設備投資計画の強さに対し、GDP統計の設備投資は、資材価格高騰や人手不足による工事進捗の遅れや投資計画の先送りなどを要因として、弱さが目立っていたが、両者の乖離は大きく縮小した。

一方、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い社会経済活動の正常化が進む中でも低迷が続く民間消費は、2023年4-6月期から3四半期連続で減少している。物価高の悪影響が続いていることに加え、コロナ禍で高水準となっていた家計貯蓄率がほぼゼロ%まで低下し、貯蓄率の引き下げによる押し上げ効果が一巡したことも消費の停滞につながっている。
(2024年の春闘賃上げ率は4.30%と予想)
2023年の春闘賃上げ率は3.60%(厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と30年ぶりの高水準となった。2024年の春闘を取り巻く環境を確認すると、有効求人倍率は低下傾向にあるものの引き続き1倍を大きく上回る水準となっており、失業率が2%台半ばで推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益(季節調整値)は過去最高に近い水準にあり、消費者物価上昇率は鈍化傾向にあるものの2%を上回る水準で推移している。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。

消費者物価は2%台前半まで伸びが鈍化し、2023年春闘の時期(2024年1月は4.3%)より低くなっていることが賃上げに逆風との見方もある。しかし、2024年春闘ではこれまで物価上昇に賃上げが追い付かなかった分を取り戻すことが重視されるだろう。

連合は「2024春季生活闘争方針」において、2024年春闘の賃上げ要求を前年の5%程度から5%以上に引き上げていたが、3/7に発表した「2024年春季生活闘争 要求集計結果」によると、「平均賃金方式」で賃金引き上げを要求した傘下の3102組合の賃上げ率は平均5.85%と、2023年の要求集計(4.49%)を大きく上回り、1994年春闘(5.40%)以来、30年ぶりに5%を上回った。

こうした状況を踏まえ、今回の見通しでは、2024年の春闘賃上げ率を4.30%と前年を0.70ポイント上回り、1992年(4.95%)以来の4%台となることを想定した(2024年2月時点の4.00%から上方修正)。

実質賃金は消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落はしばらく続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率が2%を割り込むことが見込まれる2024年度後半と予想する。
春闘賃上げ率の長期推移/名目賃金と実質賃金

2.実質成長率は2023年度1.3%

2.実質成長率は2023年度1.3%、2024年度1.0%、2025年度1.1%を予想

2023年10-12月期のGDP2次速報を受けて、2/16に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2023年度が1.3%、2024年度が1.0%、2025年度が1.1%と予想する。2023年10-12月期の実績値が上振れたことを受けて、2023年度の成長率見通しを0.1%上方修正した。2024年度、2025年度の見通しは修正していない。
(2024年1-3月期は再びマイナス成長に)
2023年10-12月期の成長率が上方修正されたことで、2四半期連続のマイナス成長は回避されたが、2024年1-3月期は再びマイナス成長となりそうだ。
自動車生産・販売の推移 景気循環との連動性が高い鉱工業生産は2023年10-12月期に前期比1.3%と2四半期ぶりの増産となったが、2024年1月は自動車メーカーの不正問題発覚に伴う生産停止と能登半島地震による一部工場の稼働停止が重なったことで、前月比▲7.5%と急速に落ち込んだ。2024年1-3月期の鉱工業生産は自動車の大幅減産を主因として前期比でマイナスに転じることが予想される。
自動車販売台数は2024年1月が前月比▲10.2%、2月が同▲8.4%(当研究所による季節調整値)と大きく落ち込んでおり、生産停止の影響が販売にも表れている。物価高による下押し圧力が続く中、新たな供給制約の影響もあり、消費は当面弱い動きとなることが見込まれる。2024年1-3月期は、2023年10-12月期に高い伸びとなったサービス輸出の反動減などから、財貨・サービスの輸出が前期比▲0.7%と減少に転じること、民間消費が前期比▲0.1%と4四半期連続で減少することから、前期比年率▲0.4%と2四半期ぶりのマイナス成長となることが予想される。

2024年4-6月期は前期比年率1.6%とプラス成長に復帰することが予想されるが、家計の実質可処分所得が明確に増加するのは、2024年春闘の結果が反映され、所得・住民減税が実施される2024年夏頃となるため、それまでは消費の本格回復は見込めない。また、インバウンド需要を中心にサービス輸出は増加するが、海外経済の減速を背景に財輸出が低迷するため、輸出が景気の牽引役となることは当面期待できない。2024年前半は内外需ともに下振れリスクの高い状態が続くだろう。

所得・住民減税は2024年6月に実施されることが予定されており、7-9月期の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.7%の高成長となるだろう。減税の効果は一時的なものにとどまるが、2024年度後半以降は物価上昇率鈍化に伴う実質賃金の増加が消費を下支えするだろう。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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