2018年02月21日

中国経済見通し~マクロプルーデンス政策の強化で「安定成長」へ軟着陸、リスクの所在は住宅バブル崩壊

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率と消費者物価 中国国家統計局が1月18日に公表した2017年の国内総生産(GDP)は82兆7122億元(日本円換算では約1372兆円)となった。実質成長率は前年比6.9%増と16年の同6.7%増を0.2ポイント上回った。2011年以降6年連続で前年の伸びを下回る状況が続いていたが、7年ぶりに前年の伸びを上回ることとなった。また、17年の消費者物価は前年比1.6%上昇と16年の同2.0%上昇を0.4ポイント下回った(図表-1)。
GDPの内訳を見ると中国の経済構造は静かに変化している。産業別に見ると、17年の第1次産業の実質成長率は前年比3.9%増と16年の同3.3%増を0.6ポイント上回った。第1次産業としては極めて高い伸びを実現したが、その維持は徐々に難しくなるだろう。第2次産業の実質成長率は同6.1%増と16年の同6.3%増を0.2ポイント下回った。2010年の同12.7%増をピークに伸びが鈍化、15年の株価急落時には景気減速の主因となったが、16年には同6.3%増、17年には同6.1%増とほぼ横ばいの伸びを維持している。また、第3次産業の実質成長率は同8.0%増と16年の同7.7%増を0.3ポイント上回った。5年連続で第3次産業の実質成長率が第2次産業を上回ることとなり、中国経済の牽引役は第3次産業へと移行してきている(図表-2)。

一方、需要別に見ると、最終消費は4.1ポイントのプラス寄与と16年の4.5ポイントを0.4ポイント下回った。但し、成長率への寄与率は58.8%と4年連続で最大のプラス要因となった。また、総資本形成は2.2ポイントのプラス寄与と16年の2.9ポイントを0.7ポイント下回った。2009年の8.1ポイントをピークに低下傾向が続いている。このように最終消費と総資本形成が寄与度を下げるなか、実質成長率を押し上げたのは純輸出だった。17年の純輸出は0.6ポイントのプラス寄与と16年の▲0.7ポイントからプラスに転じた(図表-3)。
(図表-2)中国の実質成長率(産業別)/(図表-3)中国の実質成長率(需要別)

2.消費の動向

2.消費の動向

中国の消費は底堅い。消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、17年は前年比10.2%増と16年の同10.4%増を0.2ポイント下回ったものの2桁の高い伸びを維持している。
(図表-4)電子商取引(EC)の推移 その内訳を見ると、自動車は前年比5.6%増と16年の同10.1%増を大きく下回った。これは小型車(排気量1.6L以下)を購入する際に掛かる自動車取得税を引き上げた(5%⇒7.5%)影響と見られる。しかし、その他の消費は概ね堅調で、飲食や化粧品は16年の伸びを上回っており、住宅販売の好調を背景に家具類は同12.8%増、家電類も同9.3%増と高い伸びを維持している。また、消費支出の内訳を見ると、食品や衣類など生活必需品から教育文化娯楽などサービスへと需要のシフトが起きている。その背景には経済発展に伴い中間所得層が増加中なことがある。また、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)と言われるIT企業が新たな消費を生み出しネット販売は急増、17年は前年比32.2%増となり小売に占めるシェアは2割近くに達した(図表-4)。このように中国の消費は、中間所得層の増加に伴う消費のサービス化という「長期トレンド」と、ネット販売化が消費を刺激するという「中期トレンド」がプラス寄与する状況となっている。
今後の消費を考えると、景気対策の縮小という「短期トレンド」がマイナス要因となる。これまで消費の支援材料だった小型車減税は昨年末で撤廃(自動車取得税は7.5%⇒10%)、景気テコ入れのための金融緩和で高い伸びを示していた住宅ローンも中国政府が住宅バブル抑制に乗り出したことでピークアウトしてきた。そして、住宅販売の鈍化は家具や家電などの消費にも悪影響を及ぼすことになるだろう。しかし、企業利益の底打ちや雇用の安定で、消費者信頼感指数は高位を維持しており、前述の「長期トレンド」と「中期トレンド」は引き続き消費のプラス要因になると見ている。従って、2018年以降の消費は伸びの加速こそ期待できないものの10%前後の高い伸びを維持できると予想している(図表-5)。
(図表-5)消費の主なプラス要因・マイナス要因

3.投資の動向

3.投資の動向

(図表-6)産業別の投資動向(2017年度) 中国の投資は構造改革が進展する中で二極化してきた。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、17年は前年比7.2%増と16年の同8.1%増を0.9ポイント下回った。景気対策で急増したインフラ投資や金融緩和で持ち直した不動産開発投資が16年を上回る伸びを示したものの、過剰設備・過剰債務問題を抱える採掘業や鉄精錬加工は前年割れに落ち込んだ。一方、新興産業では投資を増やす動きもある。製造業ではコンピュータ・通信機器等や自動車が高い伸びを示し、製造業以外でも教育や文化・体育・娯楽など消費サービス関連は高い伸びを示した。このように構造不況業種(鉄鋼、採掘など)の投資は落ち込んだものの、新興産業(IT、自動車など)では積極的な投資が見られる(図表-6)。
18年以降の投資は、マイナス要因とプラス要因が拮抗して、全体では7%前後の伸びに留まると予想している。マイナス要因としては、①構造不況業種が抱える過剰設備・過剰債務の整理、②景気対策縮小に伴うインフラ投資の鈍化、③バブル抑制策に伴う住宅着工の鈍化などが挙げられる。一方、プラス要因としては、①企業利益の底打ち、②「中国製造2025」や「インターネット+」に対する手厚い政策支援、③それに伴う新興産業の投資の盛り上がりなどが挙げられる。

なお、新興産業の投資が期待どおりに伸びず景気が失速しそうになれば、官民連携(PPP)のプロジェクトを推進して、失速を回避するだろう。中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)1」に伴う交通物流関連の需要が大きいため、新興産業の投資が鈍化した場合には、17.8兆元(約300兆円)とされるPPPの着工を急ぐことが可能である(図表-7)。
(図表-7)投資の主なプラス要因・マイナス要因
 
1 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
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三尾 幸吉郎

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