2017年08月09日

貸出・マネタリー統計(17年7月)~リスク性資産投資に底入れの兆し

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 円安によるかさ上げ効果も

8月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、7月の銀行貸出(平均残高)の前年比伸び率は3.43%と前月(同3.33%)からやや上昇した(図表1)。伸び率はリーマン・ショック後に直接調達市場が機能不全に陥り、銀行貸出需要が高まっていた2009年4月(3.53%)以来の高い伸びということになる。業態別では、都銀等が前年比3.2%(前月は3.1%)と上昇、地銀も前年比3.6%(前月も3.6%)と高い伸びを維持した(図表2)。
 
貸出の伸び率は昨年8月(1.97%)を底に順調に上昇基調を続けている。7月も引き続き、M&A向けや不動産向けが牽引役となっているほか、後述の通り、前年比での円安進行に伴う外貨建て貸出の円換算額増加が伸び率上昇に寄与している。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)国内銀行の新規貸出金利
為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を見ると、直近判明分である6月の伸び率は前年比3.21%と5月(3.20%)からほぼ横ばいとなった。見た目の銀行貸出の伸び率は5月(3.25%)から6月(3.33%)にかけて上昇しているが、上昇分はほぼ円安効果ということになる。

7月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、ドル円レートの前年比での円安幅が8.2%と6月(5.1%)から拡大しており(図表3)、見た目の伸びの為替によるかさ上げ幅はやや拡大したと考えられる。この影響を考慮した7月の特殊要因調整後の伸び率は、6月からごくわずかな上昇に留まったと推測される。つまり、直近2ヶ月の見た目の銀行貸出の伸び率上昇は殆どが円安によるかさ上げ効果ということになるが、それを除いた実勢としても高い伸びが続いているという点に変わりは無い。
 
なお、6月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.593%(5月は0.571%)、長期(1年以上)が0.816%(5月は0.709%)とそれぞれ上昇した(図表4)。単月の振れが大きい指標ではあるものの、低下はひとまず一服した形に。
 ただし、日銀の長短金利操作のもと、市場金利が極めて低位に抑制されているうえ、激しい競争環境も金利の抑制に働いているため、貸出金利の反転上昇は見通せない。
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは6月分まで。

2.主要銀行貸出動向アンケート調査: 中小企業の資金需要は増勢強まる、大企業は減少

日銀が7月20日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2017年4-6月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は3と前回(1-3月期)の4から若干低下した。D.I.は長らくプラスが続いており、依然として「増加」が優勢な状況ではあるが、勢いとしては2期連続で鈍化してきているとの実感が示されている(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが-4(前回は0)と「減少」が優勢となった一方で、中小企業向けは7(前回は4)と上昇し、増勢が強まっており、企業規模によって対照的な結果となった(図表6)。中小企業では特に製造業とその他非製造業(建設・不動産と金融・保険以外の業種)で上昇がみられる。

資金需要が増加したとする先に、その要因を尋ねた問いでは、大企業については「売上の増加」、「手許資金の積み増し」、「貸出金利の低下」、中小企業については「設備投資の拡大」を挙げた先が最も多かった。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)
個人向け資金需要判断D.I.は2と、前回の7から大きく低下(図表5)。主力の住宅ローンが0と前回の7から大きく低下したほか、消費者ローンも6と前回(10)から低下した。
昨年のマイナス金利政策導入以降、個人向けD.I.は企業向けを上回ってきたが、近頃では増勢の鈍化が鮮明となっており、資金需要が一巡した可能性がある。
 
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けが3(4-6月期実績比で横ばい)、個人向けが1(同1ポイント低下)となっている。どちらも銀行全体では、引き続き緩やかに増加するとの見立てになっているが、資金需要が今後盛り上がることは見込まれていない(図表5)。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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