2017年04月14日

人手不足はどこまで深刻なのか

経済研究部 経済調査室長   斎藤 太郎

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(潜在的な労働力の活用)
このように、現時点では予想されていたような労働供給力の低下は顕在化しておらず、労働需要の拡大が人手不足の主因となっている。しかし、労働需給の逼迫によって企業の人手不足感が大きく高まっていることは事実であり、これに対応するためには現在就業していない潜在的な労働力を活用することが不可欠である。

潜在的な労働力としてまず考えられるのは、就業を希望しているにもかかわらず求職活動を行っていないために非労働力人口とされている人である。2006年の非労働力人口は4,358万人だったが、このうち就業希望者が479万人(女性:354万人、男性:124万人)いた5。2016年の非労働力人口は4,432万人となり、10年間で74万人増加したが、このうち就業希望者は380万人(女性:274万人、男性:106万人)と女性を中心に大きく減少した(図7)。労働力人口が10年前とほぼ同水準を維持しているのは、少子高齢化の進展で労働力人口の減少圧力が高まる中でも、就業を希望しながら非労働力化していた人の多くが労働市場に参入したためと考えられる。
図7 非求職理由別・就業希望の非労働力人口 就業希望者の非求職理由をみると、女性は「出産・育児のため」が全体の3分の1を占めている。このことは育児と労働の両立を可能とするような環境整備を進めることにより、非労働力化している女性の労働参加をさらに拡大することが可能であることを示している。実際の労働力人口に就業を希望する非労働力人口を加えて潜在的な労働力率を試算すると、女性は20~54歳の年齢層で80%台となる(2016年時点では概ね70%台)。

男性については、25~59歳の労働力率が現時点で90%台となっているため上昇余地は小さいが、60歳以上の労働力率はさらなる引き上げ余地がある。
 
 
5 非労働力人口全体は基本集計、就業希望者は詳細集計の数値
(労働力人口の先行き試算)
ここで、4/10に国立社会保障・人口問題研究所から公表された最新の将来推計人口をもとに、今後10年間の労働力人口を試算した。男女別・年齢階級別の労働力率が2016年実績で一定とすると(悲観ケース)、高齢化の影響で全体の労働力率は2016年の60.0%から2026年には57.4%へと低下する。15歳以上人口の減少ペースは今後加速するため、15歳以上人口に労働力率を掛け合わせた労働力人口は2026年には6,200万人となり、2016年よりも473万人減少する(年平均で▲0.7%)(図8)。
図8 労働力人口の先行き試算 一方、男女別・年齢階級別の労働力率が10年後には現在の潜在的労働力率まで上昇すると仮定すると(楽観ケース)、全体の労働力率は2016年の60.0%から2026年には62.1%まで上昇する(男性:70.4%→71.3%、女性:50.3%→53.5%)。15歳以上人口は大きく減少するものの、2026年の労働力人口は6706万人となり、2016年よりも33万人の増加(年平均で+0.0%)となる。

労働力率を潜在的な水準まで引き上げることができれば、今後10年間は少なくとも量的な労働供給力は低下しないことになる。
もちろん、現在就業を希望している非労働力人口を全て労働力化することは現実的には厳しいかもしれない。ただ、過去を振り返ってみると、女性は現実の労働力率の上昇に伴い潜在的な労働力率も上昇している(図9)。このことは現時点の潜在的労働力率が必ずしも天井ではなく、様々な施策を講じることによりさらなる引き上げが可能であることを示している。
図9 女性の潜在的労働力率は実際の労働力率とともに上昇/図10 男性・高齢者の労働力率の長期推移
また、日本の男性高齢者の労働力率は国際的にすでに高水準にあり、これ以上長く働くことは非現実的という見方もあるかもしれない。しかし、かつて日本の労働者(男性)は今よりも長く働いていた。1970年代前半まで男性高齢者の労働力率は60~64歳で80%台、65~69歳で60%台半ばで、現在よりも高い水準にあった。もちろん、当時は定年がなく健康状態に問題がなければ年齢と関係なく働き続けることができる自営業者の割合が高く、現在とは労働市場の構造が異なっているが、平均寿命が当時から10歳以上延びていることからすれば、60歳以上の労働力率をさらに引き上げることは非現実的とはいえないだろう。
(構造的失業率は失業率の下限ではない)
非労働力人口の多くが労働市場に新たに参入するようになれば、労働力人口は増えるが、新たに職につけなければ失業者の増加につながってしまう。2016年の失業者は208万人となり、ピーク時の2002年(359万人)と比べると150万人以上減少した。失業率が完全雇用とされる3%台前半を下回っていることから、これ以上失業者を減らすことは難しいという見方もある。
図11 完全失業率(構造的失業率と需要不足失業率)の推移 しかし、足もとの失業率がすでに完全雇用とされる構造的失業率の水準を下回っていることからも分かるように、構造的失業率は失業率の下限ではない(図11)。また、構造的失業率は一定ではないことに留意が必要だ。筆者がUV分析をもとに推計した構造的失業率の長期的な推移を確認すると、1990年代前半までは2%台前半で推移していたが、その後大きく上昇し、2000年代前半には4%台となった。その後は一時的に上昇する局面もあったが、緩やかな低下傾向が続き、足もとでは3%に近づく形となっている。求人・求職間のミスマッチ(年齢、地域、職種等)を縮小させることなどによって、今後構造的失業率を低下させることは可能だろう。
図12 労働時間の減少が労働投入量を抑制 (正規労働者への転換、労働時間の増加も有効)
雇用者数が高い伸びとなっているにもかかわらず人手不足が解消されない一因は、雇用者数に一人当たりの労働時間を掛け合わせた労働投入量があまり増えていないことだ。前述したように雇用者数の伸びは1990年以降の景気回復局面で最も高いが、非正規化の進展などにより一人当たり労働時間が減少しているため、労働投入量の増加ペースは1990年以降で最も低い(図12)。

この問題を解決するためには、一人当たりの労働時間を増加させることも考えられる。働き方改革で長時間労働の是正が大きな課題となる中で、労働時間を延ばすことはこれに逆行する動きと思われるかもしれない。しかし、長時間労働の問題は一部の産業でフルタイム労働者を中心に過剰な残業をしていることであり、パートタイム労働者などの非正規労働者の中には就業時間の増加を希望する者も少なくない。労働力調査によれば、就業時間の増加を希望する就業者は全体では約6%に過ぎないが、非正規の職員・従業員は13%(269万人)が就業時間の増加を希望している。

また、近年は「自分の都合のよい時間に働きたいから」などの理由で自ら非正規を選択した労働者の割合は増加傾向にある。しかし、その一方で「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由による不本意型の非正規労働者も全体の15%程度(296万人)存在する(いずれも2016年の数値)。

すでに就業している人の労働時間を増やすことや、非正規から正規への転換は雇用者数には影響しないが、一人当たりの労働時間が増加することによって労働投入量を拡大させる効果がある。
ここまで見てきたように、現在の人手不足は主として労働需要の強さによってもたらされており、懸念されていた労働供給力の低下は今のところ顕在化していない。もちろん、一部の業種で人手不足が事業の継続や拡大の支障となりつつあることは事実だが、当面は賃上げによる人材の確保、非正規労働者の正規労働者への転換などで対応することが可能だろう。

人口の減少ペースは今後加速するが、潜在的な労働力を十分に活用できれば10年程度は現在の労働力人口の水準を維持することができる。人手不足による経済成長への悪影響を過度に悲観する必要はないだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査室長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2017年04月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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