2016年11月09日

アベノミクスが問われる改革の成果-金融に頼ったアベノミクス運営のターニングポイント

基礎研REPORT(冊子版) 2016年11月号

経済研究部 チーフエコノミスト   矢嶋 康次

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1――アベノミクスのターニングポイント

日銀は9月21日、金融政策の新しい枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を打ち出した。「イールドカーブコントロール」(長短期金利操作)と「オーバーシュート型コミットメント」(マネタリーベース拡大を長期的に継続すること)を設けた。今回の措置は、短期戦から長期戦へ、柔軟性・持続性を高める政策への転換を意味する。この先、経済に下向きのリスクが発生すれば、新たな枠組みの下で緩和策が実施されるだろう。ただ金融政策の限界も明らかになってきている。

この金融政策の転換はアベノミクスにとっても重要なターニングポイントを迎えたといっていい。アベノミクスの3本の矢は金融、財政、成長であった。金融、財政を投入し時間を稼ぐ間に推し進めるはずであった成長戦略に、今一度正面から取り組んでいかなければならないからだ。

2――潜在成長率低下に歯止めをかける

日本の潜在成長率は80年代に4.4%、90年代に1.6%だったが、足元では日銀の試算で0.2%程度と低下がとまらない。他の先進国と比べても極めて低い。安倍政権はこの潜在成長率を中期的に2%に引き上げることを目標にしている。政府が掲げる「名目GDP600兆円」の前提でもある。

潜在成長率は、成長会計というアプローチにより、労働投入量、資本投入の増加、技術革新の3つの要素に分けて考えることができる。

国内の日本人の人口は1億2589万人で7年連続減少、この先も人口減少ペースが加速し労働投入量は潜在成長率を引き下げる。その減少幅をできるだけ押さえ込む必要がある。それはよく言われるように女性や高齢者など多様な人材を労働市場に呼び込むことである。特に女性参画を実現するために、日本の会社で常態化してしまっている長時間労働など、働きにくい制度や慣習は変えないといけない。同一労働同一賃金などで労働者を公正に処遇する必要もある。配偶者控除など税制の見直しも当然必要になってくる。それらを通じて「誰もが働きやすく、やった仕事に対して公正に評価してくれる労働市場を作る」ことを急がなければならないことは自明だ。直近の労働市場の回復は疑いようのないものだ。全県で有効求人倍率が高まり、多くの県で過去最高を記録しているが、人手不足が成長のネックとなり始めてもいる。改革に割ける時間は少ない。

資本投入・技術革新では、新たな競争優位な産業を作り、民間の設備投資を促す必要がある。ロボットやAI、IoTなどが次世代では有望だ。しかし、世界がその覇権を狙い熾烈な競争を繰り広げており、各国以上の大胆な規制緩和などを政府が早期に実現しなければならない。

安倍政権4年目、「好循環実現のための経済対策」「未来への投資を実現する経済対策」など毎年成長戦略が打ち出されている。

安倍首相は長年タブーだった電力、農業、医療で具体的な規制緩和を実現し、「成長戦略・第三の矢は着実に放たれている」と主張する。一方で、野党からはまったく進んでいないと正反対の主張がされ、少しもかみ合わない。

経済成長論の理論、実証の面で偉大な業績をあげているハーバード大学のデール・ジョルゲンソン教授は日本の生産性を引き上げるためには、農協改革による農業の生産性の向上、さらに保護政策などにより国際競争をしていない不動産、電力・ガスなど非製造6業種について参入障壁の緩和、規制の撤廃などで生産性を引き上げるべきだと主張する。その点では安倍政権が主張する電力、農業改革は肝となる重要分野を見事に進めたという評価もありえよう。

しかし、今日本で必要なのは、「改革の成果」である。成長戦略を進めた結果、下がり続けている日本の潜在成長率に歯止めがかかるかどうかである。この点では安倍政権の成長戦略は評価できない。
潜在成長率の推移

3――成長戦略、今こそスピードアップ

安倍政権は参議院選挙後、経済最優先を高らかに主張した。七月の参院選の勝利を経て、衆参ともに安定政権となっている。やろうと思えば言葉は悪いがなんでもできるはずだ。

今までやれなかった日本の仕組みを変えることを一つずつ確実に、しかもスピードを上げて法案化し、制度を変えていかなければならない。

政権に求められるのは繰り返しになるが「改革の成果」である。

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経済研究部   チーフエコノミスト

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融、日本経済

(2016年11月09日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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