2016年09月23日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~当面は消費主導の成長、輸出はL字型の緩やかな回復へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表7)インドネシアの実質GDP成長率(需要側) 2-3.インドネシア
インドネシア経済は、国際商品市況の下落や中国経済の減速を受けて2015年まで4年連続で減速したが、16年4-6月期の成長率は前年同期比5.2%増と、昨年7-9月期(成長率は同4.7%増)に底打ちして以降、景気は緩やかな回復傾向にある。この景気回復の原動力は予算執行の迅速化による政府支出の拡大と昨年9月から矢継ぎ早に政府が打ち出してきた計12本の経済政策パッケージの実施である。さらに足元ではGDP の約6 割を占める民間消費も拡大に転じている。15年11月に燃料補助金削減に伴う物価上昇圧力が剥落し、また今年2月には原油価格が底打ちして通貨が堅調に推移していることを背景に、6月のCPI上昇率は前年比3.5%と昨年6月の同7.3%から半減し、消費者の購買力が向上している。またインフレ圧力の後退と経常赤字の縮小を背景に中央銀行が16年上半期に4度の利下げ(計1.0%)を実施したことも民間消費の回復に寄与したと見られる。

16年後半は、5%を若干上回る横ばい圏の成長を予想する。低インフレ環境の継続と9月の中銀の追加利下げを追い風に民間消費の回復は続くだろうが、これまで景気を押上げてきた政府支出は年前半の予算執行の前倒しや税収不足に伴う歳出削減によって伸び悩むと見込まれる。また主力の資源関連産業は、資源価格の低迷と中国の構造改革に伴う資源需要の減少を背景に輸出と設備投資の減少傾向が続き、景気の重石となるだろう。

17年は緩やかな景気回復を予想する。資源関連産業は引き続き勢いを欠くものの、資源価格の上昇や海外需要の拡大によって輸出がプラスに転じるなかで企業業績が改善し、またこれまでの経済政策および金融緩和の効果が浸透して民間投資も持ち直すだろう。民間消費は、雇用・所得の改善と追加的な経済政策パッケージの実施が物価上昇による実質所得の押下げの影響を相殺して底堅い推移が続くと見込む。一方、政府はインフラ事業を推進して成長をサポートするものの、財政余力が乏しいことは変わらず、公共部門全体としてみれば景気の後押しは期待できないだろう。

金融政策は、当面は8月の政策金利指標の見直しと9月の利下げの政策効果の波及を見るために様子姿勢を続け、その後は物価が上昇に転じるなかで追加利下げには慎重になると予想する。

結果、成長率は16年が前年比5.1%増、17年は同5.3%増と緩やかな回復を予想する(図表7)。
 
当面のリスクは16年度の税収の下振れだ。今年7 月、ジョコ大統領は昨年に続いて内閣改造を実施し、財務相としてスリ・ムルヤニ世銀専務理事を迎えた。スリ氏はユドヨノ政権下で、国家開発企画長官や経済調整相、財務相を歴任し、国内における評価も高い人物だ。現在はスリ新財務相のもとで第2 次補正予算の編成に入っている。財政赤字を拡大させることでインフラ事業は優先的に継続されるが、国防や農業予算など歳出全体では133.8兆ルピアが削減される見込みだ。また7月から来年3月にかけて実施されている租税特赦法は、海外へ逃避した資産の国内還流や税収の増加などの効果が期待されるが、9月8日時点の加算税収額は目標の165兆ルピアに対して4.5%に止まっている。今後さらに財政リスクが高まり、通貨が下落する展開もあるだろう。
(図表8)フィリピンの実質GDP成長率(需要側) 2-4.フィリピン
フィリピンの16年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.0%増と、前期の同6.8%増から一段と上昇し、直近3年間で最も高い伸びを記録した。4-6月期は5月の正副大統領選を含む統一選挙の特需を受けて、民間・公共部門が揃って好調だったことが高成長の主因となった。選挙特需のほか、民間消費は低インフレと雇用・所得の改善による家計の購買力向上、また投資はインフラプロジェクトの加速による建設投資の大幅増加(同14.1%増)も景気の追い風となっている。さらに輸出はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシグ)が好調でサービス輸出が同20.4%増を記録するともに、財輸出も同4.1%増の緩やかな拡大基調を維持している。しかし、力強い内需の拡大によって輸入が同20.9%増の大幅な増加が続いているために、純輸出の寄与度は大幅なマイナス(▲6.6%ポイント)を記録している。

16年後半は、内需主導の堅調な景気がやや減速するだろう。年後半は政府の予算執行が鈍ると予想され、公共投資と政府消費は鈍化するだろう。また民間消費は干ばつの影響が和らいで農業所得が持ち直すも、選挙特需の反動や海運不況による海外就労者の送金の減少などを受けて鈍化しそうだ。さらに民間投資は官民パートナーシップ(PPP)によるインフラ整備の進展などによって拡大基調が続くものの、政権交代による企業の投資の見極め姿勢が重石となるだろう。一方、サービス輸出は先進国経済の緩やかな拡大を受けて好調を維持すると共に、輸入がやや鈍化することから、純輸出の成長率に対するマイナス寄与は縮小するものと見ている。

2017年は年前半まで選挙特需の剥落の影響が残ることから、成長率は実力よりも低い水準に止まるが、年後半には再び景気が上向くだろう。まず財・サービス輸出は海外経済の緩やかな拡大を受けて堅調に推移するだろう。また17年度予算案は財政赤字拡大と税制改革に伴う税収増によって、歳出が前年度比11.6%増の大型予算が編成される見込みであり、インフラ事業と教育分野の支出拡大など公共部門は引き続き景気の追い風となりそうだ。こうした新政権の積極的なインフラ投資と外資規制緩和などビジネス環境の改善が進むに連れて、民間投資は再び加速すると見込む。もっともドゥテルテ大統領の強権的な治安対策や外交面の失言を受けて、同国の信用格付けが引き下げられれば、反対に企業の投資意欲が急速に萎むリスクもあるだろう。このほか、民間消費は緩やかな物価上昇によって実質所得が鈍化するものの、GDPの約1割に相当する海外就労者の送金の回復が下支えとなって堅調を維持するだろう。

金融政策は、先行きのインフレ率が中銀目標の範囲内(1~4%)で推移することから、現行の緩和的な政策は維持されると予想する。また中央銀行は6月に政策金利コリドーを導入している。今後、政策金利と市場金利の連動性が高まり、金融政策の実効力が強まることが期待される。

結果、成長率は16年が前年比6.4%増、17年は同6.2%増と周辺国に比して高めの成長が続くと予想する(図表8)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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