コラム
2016年07月12日

縁側とベランダに魅せられて-「内」と「外」つなぐアナログ空間

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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私は海辺のマンションに住んでいる。家の中でどこが一番のお気に入りかと聞かれれば、迷わずに「ベランダ」と答えるだろう。猫の額ほどの狭いベランダだが、さまざまな鉢植えやプランターが並び、小さなテーブルとイスもある。趣味のランニングの後、ベランダで心地よい風に吹かれて、海に沈む夕陽を眺めながら飲むビールは、私に至福のひと時を与えてくれるからだ。

私が子どもの頃住んでいた家は、2階建ての和風木造住宅だった。そこには庭に面して細長い廊下のような「縁側」があった。縁側は「内」と「外」をつなぐ緩衝的な空間である。縁側にはガラス戸があり、それを開けると外の庭につながり、閉じると部屋の一部になった。

夏に縁側のガラス戸を開け放つと風鈴の音とともに心地よい風が吹きぬけた。縁側で家族そろってスイカを食べたり、花火に興じたりした記憶も残っている。冬の晴れた日には閉じたガラス戸の内側はまるで温室のように暖かく、心地よい陽だまりの中で午睡を楽しんだこともある。

マンションは、今では日本で広く普及した住宅様式だ。ベランダが設けられることが多く、それは縁側と同様に、屋内と屋外をつなぐ緩衝的な空間として位置する。建物の構造体の内部に取り込んだ屋内に近いベランダもあれば、構造体から跳ねだした屋外に近いものもある。避難経路として細長い通路状が一般的だが、近年では奥行きのある半居住空間のような広々としたベランダも増えている。

欧米でよく見られる組石造の住宅は、分厚い外壁と気密性の高いサッシで内部と外部が厳密に区分されている。これを「内」か「外」かのデジタル空間だとすると、日本の木造住宅やマンションは、縁側やベランダという屋内と屋外をつなぐ中間領域を有するアナログ空間といえる。屋内の人間と屋外の自然が微妙に融合する伝統的な日本家屋のあり方かもしれない。

かつて縁側は、お年寄りが将棋を指したり、近所の人が世間話に興じたりするコミュニケーションや交流の場だった。今日の縁側やベランダも、話しをする、お茶を飲む、食事をする、音楽を聴く、本を読む、昼寝をするなど、用途を特定しない多様な日常生活シーンの舞台になっている。

家をデザインするとは、ライフスタイルをデザインすることだ。マンションのベランダを「内」と「外」をつなぐ中間領域を有するアナログ空間である「現代の縁側」としてうまく活用すると、なんとも言えない居心地のよい暮らしが創造できる。歪が少ないデジタル音源が主流の時代にあって、ぬくもりを感じさせるアナログレコードが再び人気を博しているのも頷けるのである。

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2016年07月12日「研究員の眼」)

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