2016年06月20日

意外と長い、自社株買いの“賞味期限”-オオカミ少年に要注意!

金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任   井出 真吾

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■要旨

上場企業の自社株買いが増えている。自社株買いは株主還元強化やROE(自己資本利益率)を改善させるメリットのほか、不安定な株式市場を下支えする効果もあるが、その効果の持続力はどのくらいあるのだろうか。検証すると“賞味期限”は意外と長く、年間を通じて企業が自己株式を買い付けることが明らかとなった。

ただし、自己株式を買うタイミングやペースは企業によって異なり、(a)時間をかけて少しずつ買う“じわじわタイプ”、(b)予定額一杯まで一気に買う“速攻完結タイプ”、(c)公表した計画の2~3割しか買わない“オオカミ少年タイプ”に分類される。(a)じわじわタイプの銘柄は投資に活かせる一方、(c)オオカミ少年タイプの企業には要注意だ。

◆ポイント
  1. 自社株買いは年間を通じて株価を下支えしている
  2. ただし自己株式を買うペースは企業によって異なる
  3. 特に、オオカミ少年タイプの企業には要注意
自社株買いの“賞味期限”は意外と長い
■目次

1――はじめに
2――自社株買いの設定は4月・5月が多い
  1|自社株買いのメリット
  2|個別企業で買い付けタイプが異なる
3――意外と長い自社株買いの持続力、オオカミ少年に要注意!
  1|市場全体では一年を通じて買い付け
  2|個別企業で買い付けタイプが異なる
4――まとめ(投資のヒント)

1――はじめに

1――はじめに

自社株買いが増加傾向にある。東証1部上場企業が発表した自社株買い設定額(上限)の合計は、2012年度の2.3兆円から2015年度には3倍近い6.5兆円となった(図1)。背景にあるのはコーポレートガバナンスや株主還元を強化する流れ、豊富な内部留保を有する企業への“溜め込み批判”だ。

一般的に自社株買いを発表した企業の株価は値上がりする。これは計算上の1株利益が増えたり株式市場での需給が引き締まること等が理由とされる。自社株買いと株式価値の議論は他に譲り、本稿では需給の観点から自社株買いを概観し、市場や株価への影響と投資のヒントを考察する。
【図1】増える上場企業の自社株買い

2――自社株買いの設定は4月・5月が多い

2――自社株買いの設定は4月・5月が多い

1自社株買いのメリット
まず、自社株買いが企業の財務指標や株価、株式市場にどのような影響を及ぼすのか整理する。企業が自社株買いを実施すると、その分だけ発行済み株式数が減ったものとして扱われる。このため利益の総額が変わらなくてもEPS(Earnings Per Share:1株あたり利益)が増えるので、株式価値も高まるとされる。一方、財務諸表においては企業が保有する自己株式は自己資本の額から控除される(貸借対照表にマイナスの資本として表記される)。その結果ROE(Return on Equity:自己資本利益率)を計算する分母が小さくなるので、利益が増えなくてもROEが改善した格好になる。つまり自社株買いは株主還元とROE改善を同時に実現できる便利な手段として利用が拡大しているようだ。

アベノミクスによる収益拡大やコーポレートガバナンス強化の流れを受けて、上場企業には増配・自社株買いなど株主還元の強化、資本をいかに効率的に使って稼いだかを示すROEの改善が求められている。こうした中、自社株買いを活用する企業が増えている。前述のように15年度に東証1部上場企業が設定した自社株買い枠は6.5兆円で、12年度の約3倍に増えた。16年度も増加傾向にあり、4月・5月に設定された分を比べても15年度の1.5兆円から約3割増えて1.9兆円となった。

自社株買いは株価を下支えする効果もある。アベノミクス相場で株価の大幅上昇を牽引したのは海外投資家だが、海外投資家からみた日本株の魅力は昨年あたりから低下した。日本株の買い手が減った中、自社株買いの増加は株式市場の需給を支える効果が期待される。実際、5月以降の投資主体別売買動向をみると、図2のように海外投資家が売り越す一方、事業法人の買い越しが続いており、この大半は自社株買いによるものとみられる。
【図2】自社株買いが需給を下支えしている
2毎年4月・5月は自社株買い設定のピーク
企業が自社株買い計画を決定するのは毎年4月と5月が多い(図3)。中でも5月は年間で最も多額の自社株買いが計画される傾向にあり、15年度は1兆円超、16年度は1.5兆円目前に迫った。5月が多い理由は、東証1部上場企業の7割以上は3月期決算で、決算発表に合わせて自社株買い計画を公表するためだ。

というのも、自社株買いは無制限にできるわけではなく、財源の規制がある。具体的には、自社株買いや配当など株主に対して交付する金銭等の総額は、直近決算から算出した「分配可能額」が上限になることが会社法で定められている。このため、3月末の本決算を閉めた後、配当金の額と併せて自社株買い計画を検討するケースが多いのだろう。

件数ベースでは11月と2月も多い。11月は中間決算、2月は第3四半期決算を発表するタイミングであり、今期業績の着地点と財務面での余裕度が見えてくるにつれて自社株買い計画を決議しやすくなるのだろうか。ちなみに15年度の2月に1.5兆円規模の設定があったのは、ソフトバンク(5,000億円)、日産自動車(4,000億円)など大型の設定が相次いだためだ。
【図3】自社株買い計画の設定は4月と5月が多い
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金融研究部   チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資

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