2016年05月23日

【東南アジア経済】ASEAN6ヵ国の消費者物価(5月号)~原油安要因の一巡と干ばつによる食品価格の上昇は継続

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表1)ASEAN6ヵ国消費者物価上昇率 16年4月のASEAN主要6カ国の消費者物価指数(以下、CPI)の上昇率(前年同月比)は、直近で上昇傾向が見られたマレーシアとインドネシアが食品価格の上昇ペースの鈍化や公共料金の値下げ、自国通貨の上昇傾向などによって低下した一方、タイとベトナム、シンガポールの3カ国が上昇した(図表1)。

各国のCPI上昇率は国際商品価格の低迷を受けて依然として低水準にあるが、昨年後半以降は原油安による物価下押し要因の一巡や干ばつによる食品価格の上昇などを受けて緩やかな上昇傾向が見られる。
 
(図表2)インドネシアCPI上昇率(寄与度) インドネシアの16年4月のCPI上昇率は前年同月比3.60%増(前月:同4.45%)となり、4ヵ月ぶりの3%台まで低下した(図表2)。

主要品目別に見ると、まずガソリン価格の値下げや公共交通機関の運賃値下げ(4月)を受けて交通・通信・金融が同1.52%減(前月:同1.88%増)、住宅・電気・ガス・燃料が同1.45%増(前月:同1.81%増)とそれぞれ低下したことが全体を押下げた。また食材価格の上昇ペースが和らいで食料品(同8.92%増)と加工食品・飲料・タバコ(同6.04%増)がそれぞれ小幅に低下した。

一方、食料品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率については同3.41%増(前月:3.50%増)と7ヵ月連続の低下となった。
 
(図表3)タイCPI上昇率(寄与度) タイの16年4月のCPI上昇率は前年同月比0.07%増と、前月の同0.46%減から大きく上昇して16ヵ月ぶりのプラスに転じた(図表3)。

主要品目別に見ると、まず食品・飲料は同1.57%増(前月:同0.97%増)と上昇した。これは干ばつによって果物や野菜などの供給が乏しいなか、ソンクラーン(タイ正月)によって食品の需要が増加したために上昇したものと見られる。また交通・通信は同2.85%減(前月の同4.28%減)と、原油価格の底打ちを受けてマイナス幅が縮小してきている。さらにタバコ・酒類は同13.13%増と、2月のタバコの物品税引き上げを受けて二桁増が続いている。一方、住宅・家具は同0.54%減(前月:同0.50%減)と低下した。

また生鮮食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同0.78%増(前月:同0.75%増)と、3ヵ月連続の上昇となった。

インフレ率は昨年後半から上昇傾向にあるものの、依然としてタイ銀行(中央銀行)のインフレ目標の範囲内(1-4%)を下回り、低い水準に止まっている。政府は雨季に入れば農作物の供給量が増えること、また原油価格が現在の水準を大きく上回ることはないとし、2016年は0.0%~1.0%で推移すると予想している。
 
(図表4)マレーシアCPI上昇率(寄与度) マレーシアの16年4月のCPI上昇率は前年同月比2.1%増と、前月の同2.6%増から大きく低下した(図表4)。

主要品目別に見ると、食品・飲料が同4.2%増(前月:同5.0%増)、住宅・光熱が同2.6%増(前月:同3.1%増)、その他財・サービスが同2.6%増(前月:5.1%増)とそれぞれ低下した。一方、酒類・タバコは同20.1%増と、昨年11月のタバコ税と今年3月の酒税の見直しによって大幅に上昇し、全体を0.5%ポイント押し上げた。また交通は同5.5%減(前月:同8.2%減)と、4月のガソリン価格の小幅値上げを受けて若干マイナス幅が縮小した。

また食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同2.3%と、前月の同3.6%増から低下した。
 
(図表5)シンガポールCPI上昇率(寄与度) シンガポールの16年4月のCPI上昇率は前年同月比0.5%減と、住宅費の上昇を受けて前月の同1.0%減から上昇した(図表5)。

主要品目別に見ると、給油ポンプ価格の大幅下落や車両購入権価格の緩やかな下落傾向を受けて交通(同5.4%減)が4ヵ月連続で低下したものの、住宅・光熱費が同1.9%減(前月:同4.2%減)と、住宅購入に係る割戻金制度(S&CCリベート)が低水準だったために住宅修理・メンテナンス価格が上昇した。食品は同2.3%増と、生鮮食品中心に前月の同2.2%増から上昇した。

また自動車と住宅を除いたMAS(シンガポール金融管理局)のコアCPI率は同0.8%増と、5ヵ月連続で上昇した。
 
(図表6)フィリピンCPI上昇率(寄与度) フィリピンの16年4月のCPI上昇率は前年同月比1.1%増と、前月の同1.1%増から横ばいとなった(図表6)。

主要品目別に見ると、まずウェイトの大きい食品・飲料(酒類除く)が同1.6%増(前月:同1.6%増)、住宅・水・電気・ガス・燃料が同1.5%減(前月:同1.5%減)、交通が同0.0%減(前月:同0.0%減)と、それぞれ横ばいとなった。4月は選挙期間中につき、消費需要が拡大しているものの、コメは輸入量を増やすことで価格上昇が抑えられているようだ。また酒類・タバコが同5.2%増(前月:5.0%増)、飲食店・その他財・サービスが同2.1%増(前月:1.9%増)、娯楽・文化が同1.3%増(前月:同1.1%増)といったように、いくつかの項目では小幅な上昇が見られた。

また食品とエネルギーの一部を除いたコアCPI上昇率は同1.5%増と、前月から横ばいとなった。
 
(図表7)ベトナムCPI上昇率(主要品目別) ベトナムの16年4月のCPI上昇率は前年同月比1.9%増と、前月の同1.7%増から小幅に上昇した(図表7)。CPI上昇率は6ヵ月連続の上昇となったものの、依然として政府目標の5%を大きく下回る水準に落ち着いている。

主要品目別に見ると、食品が同2.0%増(前月:1.5%増)と、干ばつと塩害の影響や輸出拡大によって値上がりしたコメを中心に上昇した。保健・ヘルスケアは26.8%増と、3月からの医療費の値上げの影響を受けて大幅上昇となった。一方、交通は同11.0%減(前月:同10.3%減)、住宅・建材は同2.1%増(前月:同2.2%増)とそれぞれ低下した。

また食料品とエネルギー、政府の価格統制品目(医療・教育)を除いたコアCPI上昇率は同1.8%増と、前月の同1.6%増から小幅に低下した。年明けから概ね横ばい圏の推移が続いている。
 
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年05月23日「経済・金融フラッシュ」)

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