2016年04月25日

【ASEAN経済】直近の物価動向(4月号)~原油価格の底打ちで緩やかな上昇が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表1)ASEAN6消費者物価上昇率 ASEAN主要6カ国の16年3月の消費者物価指数(以下、CPI)の上昇率(前年同月比)は、国際商品価格の低迷を受けて依然として低水準にある。しかし、足元では原油価格が底打ちし、エネルギーによる物価の下押し圧力は後退しつつあり、タバコや酒類の値上げ、食品需要の増加なども押上げ要因となって、物価は緩やかな上昇傾向にある。
国別に見ると、インドネシアとタイ、フィリピン、ベトナムの4カ国が上昇する一方、マレーシアとシンガポールが低下した(図表1)。
(図表2)インドネシアCPI上昇率(寄与度)/(図表3)タイCPI上昇率(寄与度) インドネシアの16年3月のCPI上昇率は前年同月比4.45%増と3ヵ月連続で上昇したが、前月からの上昇幅は0.03%ポイントと小さく、物価上昇圧力は落ち着いてきたといえる(図表2)。
主要品目別に見ると、食料品が同9.09%増と、前月(同7.55%増)を大きく上回ったが、加工食品・飲料・タバコが同6.20%増(前月:同6.46%増)、住宅・電気・ガス・燃料が同1.81%増(前月:同2.17%増)、交通・通信・金融が同1.88%増(前月:同2.89%増)と低下したことから、全体として概ね横ばいとなった。
また食料品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は、同3.50%増と6ヵ月連続の低下となった。

タイの16年3月のCPI上昇率は前年同月比0.46%減と、15ヵ月連続のマイナスとなったものの、マイナス幅が縮小傾向にある(図表3)。 主要品目別に見ると、ガソリン販売価格をはじめ電気や調理用ガスといったエネルギーコストの減少は続いているものの、原油価格が底を打ちしたことから交通・通信は同4.28%減と前月の同4.80%減からマイナス幅が縮小し、全体を押上げた。また2月のタバコの物品税引き上げを受けて、タバコ・酒類は同14.43%増の二桁増を記録した。一方、食品・飲料は同0.97%増(前月:同1.26%)、住宅・家具は同0.50%減(前月:同0.41%減)とそれぞれ低下した。
また生鮮食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同0.75%増と、2ヵ月連続の上昇となった。
(図表4)マレーシアCPI上昇率(寄与度) マレーシアの16年3月のCPI上昇率は前年同月比2.6%増と、5ヵ月ぶりに低下した(図表4)。
主要品目別に見ると、交通は同8.2%減(前月:3.6%増)と、3月のガソリン価格の値下げを受けて3ヵ月ぶりのマイナスに転じ、全体を押下げた。一方。酒類・タバコは同22.7%増と、昨年11月のタバコ税と今年3月の酒税の見直しによって大幅に上昇し、全体を0.6%ポイント押し上げた。このほか食品・飲料(同5.0%増)、その他財・サービス(同5.1%増)についても高めの伸びが続いた。
また食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同3.6%増と、前月から横ばいとなった。
(図表5)シンガポールCPI上昇率(寄与度) シンガポールの16年3月のCPI上昇率は前年同月比1.0%減と、自動車保有コストの減少を受けて前月の同0.8%減から低下した(図表5)。
主要品目別に見ると、給油ポンプの価格下落を背景に自動車保有コストが下がったことから、交通が同4.3%減(前月:同2.9%減)と低下し、全体を押下げた。一方、食品は同2.2%増と、生鮮食品中心に前月(同:2.0%増)から上昇した。
また自動車と住宅を除いたMAS(シンガポール金融管理局)のコアCPI率は同0.6%増と、4ヵ月連続で上昇した。
(図表6)フィリピンCPI上昇率(寄与度) フィリピンの16年3月のCPI上昇率は前年同月比1.1%増と、前月の同0.9%増から小幅に上昇した(図表6)。
主要品目別に見ると、食品・飲料(酒類除く)が同1.6%増(前月:同1.5%増)、酒類・タバコは同5.0%増(前月:4.9%増)、飲食店・その他財・サービスが同1.9%増(前月:1.5%増)、娯楽・文化が同1.1%増(前月:同1.0%増)となり、それぞれ小幅に上昇した。一方、住宅・水・電気・ガス・は同1.5%減(前月:同1.2%減)とマイナス幅が拡大した。
また食品とエネルギーの一部を除いたコアCPI上昇率は同1.5%増と、前月から横ばいとなった。
フィリピン中央銀行は、4月22日に2016年第1四半期のインフレーション・レポートを公表した。物価見通しは、2016年がインフレ目標(3~5%)の下限、2017年がインフレ目標の半ばで推移すると示した。
(図表7)ベトナムCPI上昇率(主要品目別) ベトナムの16年3月のCPI上昇率は前年同月比1.7%増と、前月の同1.3%増を上回り、5ヵ月連続の上昇となった(図表7)。CPI上昇率は、依然として政府目標の5%を大きく下回る水準に落ち着いている。
主要品目別に見ると、食品が同1.5%増と、前月の2.4%増から低下した。2月はテト(旧正月)需要で食品価格が上昇していたことから、3月はその反動で低下したものと見られる。また住宅・健在が同2.2%増(前月:同2.4%増)、交通が同10.3%減(前月:同7.2%減)とそれぞれ低下した。なお、保健が26.4%増(前月:同1.7%増)と、3月からの医療費の値上げの影響を受けて大幅に上昇し、全体を押上げた。
また食料品とエネルギー、政府の価格統制品目(医療・教育)を除いたコアCPI上昇率は同1.6%増と、前月の同1.9%増から低下しており、物価の安定が見て取れる。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年04月25日「経済・金融フラッシュ」)

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