2016年02月09日

スーパーアニュエーションの動向~マイスーパーを中心としたオーストラリアの年金~

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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要旨
 
世界の確定拠出年金制度の中で、成功しているものの一つと言われるのが、オーストラリアのスーパーアニュエーションである。オーストラリアの年金制度は、老齢年金とスーパーアニュエーションの二階建てで、十分な所得や資産を有する高齢者に老齢年金は支払われない。スーパーアニュエーションは老齢年金の上乗せで、被用者は強制加入であるが、拠出義務を課されていない。労働者の約9割がカバーされているとされる。従業員個人の追加拠出も可能で、自営業者も自主的に拠出することが認められている。
スーパーアニュエーションの資産合計は2015年9月末が約175兆円で、国内外の株式と不動産関連で62%の配分となっている。金融リテラシー教育の他に、外部の投資アドバイザーによる助言が活用された効果とされる。今後25年で資産残高が現在の4倍を越えるという予測がある。
マイスーパーは、2013年に導入された適格デフォルトファンドである。マイスーパーへの投資残高は、2014年6月末でスーパーアニュエーション全体に対して33%となっている。マイスーパー残高の約3割はライフサイクルファンドであり、9割弱がマルチアセット型の分散投資ポートフォリオである。投資の内訳としては、株式や不動産・インフラ投資といった成長カテゴリーに属するものが多く、中でも、外国株式や非上場株式、非上場不動産、インフラ投資の比率が高めになっている。
マイスーパーの手数料水準は、間接費・投資費用・管理費を合計して、平均で1%程度である。金利水準の低さ等を考慮に入れると、日本の確定拠出年金に要する諸費用は若干高過ぎるのかもしれない。
 
 

 
世界の確定拠出年金制度の中で、もっとも成功しているものの一つと言われるのが、オーストラリアのスーパーアニュエーションである。加入者による投資対象の選択が元本確保商品に偏っていることもなく、また、古くから存在した制度が徐々に加入対象を拡充して全国民的なものへと進化した等、日本の確定拠出年金制度とは異なることが少なくない。本稿では、最近のオーストラリアにおけるスーパーアニュエーションの動向を、2013年から導入されたマイスーパーを含めて見て行きたい。
 
オーストラリアの年金制度は、老齢年金(Age Pension)とスーパーアニュエーションの二階建てになっている。老齢年金と呼ばれる公的年金は、支給要件がオーストラリアに連続して10年以上居住していたことである。社会保障協定を締結している他国の制度加入期間も算入してくれるので、決して難しい要件ではない。しかも、年金保険料の納付は求められておらず、財源は税方式で、すべて国庫が支払う。支給開始年齢は65歳であるが、67歳開始への延長がスタートしており、支給水準の目標は所得代替率4割強とされている。ただし、老齢年金の受給に際しては、ミーンズテストが行われる。日本の公的年金でも一部導入されているが、オーストラリアの場合には所得テストと資産テストの両方が行われており、満額支給基準を上回る所得のある場合には給付額が削減され、上限額を超えると老齢年金の給付は打ち切られる。また、自宅用の家と土地を除く不動産や金融資産等を保有している場合、同様に、資産額によって年金額の削減もしくは不支給となる。所得テストによる削減と資産テストによる削減は、どちらか大きな削減が反映されるものであり、老後生活に十分な所得や資産を有する高齢者には、公的年金は支払われないのである。
 
スーパーアニュエーションは、老齢年金の上乗せとなる制度である。被用者は強制加入であるが、拠出義務を課されていない。労働者の約9割がカバーされているとされる。雇用主は賃金の9.5%を拠出することが強制されており、損金算入が認められている。賃金に対する雇用主拠出の比率は、2011年に毎年引上げられるスケジュールが設定されたものの、その後の政権交代を受けて引上げが抑制されており、2014年以降9.5%のままとなっている。現在の法律の下では、2021年に10%へ引上げられ、その後毎年0.5%刻みで引上げられて2025年に12%へ達する予定となっている。前政権下の予定では12%に達するのが2019年であり、6年遅れになっている。雇用主による強制拠出の他に、従業員個人が追加拠出することも可能で、また、自営業者も同様の観点から、自主的に拠出することが認められている。
 
スーパーアニュエーションの資産合計は、2015年9月末でA$1,995billion(1豪ドル=87.5円で換算すると、約174.5兆円)となっている。2014年6月時点の口座数は29.4百万であり、統計の公表されている加入者が5人以上のファンドを見ると、2015年9月末の資産合計は、A$1,318 billionとなっており、その資産配分は図表1のようになっている。
 
図表1 スーパーアニュエーションの資産配分(2015年9月)
国内外の株式に非上場株式を加えた構成比は49.3%とほぼ半分であり、不動産・インフラ投資を加えると、計62%を占めている。欧米の年金資産構成で伝統的に言われる60/40の構成をほぼ達成しているのである。日本の確定拠出年金の平均的な資産構成では、このように株式や不動産に対する配分が大きくはなっておらず、6割以上を預金や保険といった元本確保型商品が占めている。オーストラリアにおいては、投資を促進する金融リテラシー教育が行われていることに加えて、FP等外部の投資アドバイザーによる助言があることで、日本より積極的な資産構成になっているものと考えられる。なお、投資形態を見ると、企業や産業別の大規模なファンドで直接投資を行っている金額が35.5%、運用会社に運用を委託している金額が49.9%と半分で、14.4%が保険会社に運用を委託されている。
 
スーパーアニュエーションの原型は古くからあったものとされるが、雇用主による拠出が義務化されたのは1992年のことであり、制度の成熟度は高くない。資産残高の合計が、2040年にA$8,645billionと、現在の4倍を越える水準にまで積み上がるという予測も見られる。2013年時点で45歳以上の退職者の主な収入源は、70%が政府による老齢年金であり、スーパーアニュエーションは16%、投資収益及び取崩しが9%となっており、資産蓄積の手段としてのスーパーアニュエーションは分散投資を含めて成功していると評価できるものの、給付という面での貢献度はまだ高くない。
 
マイスーパーは2013年に導入された制度で、2014年1月からは監督官庁に登録されたマイスーパー商品のみが適格デフォルトファンドとして用いられることになった。加入者の多くが選択するデフォルトファンドの商品内容を、適切と思われるものに限定する規制である。2014年12月末でスーパーアニュエーションの商品を提供する機関164のうち、半数以上がマイスーパー商品を提供している。マイスーパー商品への投資残高は、2015年6月末でスーパーアニュエーション全体に対して21%となっており、足元ではやや停滞している。マイスーパー商品の約四分の一(残高比では約3割)はライフサイクルファンドであり、9割弱がマルチアセット型の分散投資ポートフォリオになっている。ライフサイクルファンドは、年齢を経るに連れてポートフォリオの構成変化を行うものであり、商品設計や管理コストを要する他に、単純なベンチマークとの比較に馴染まない等短所も少なからずあると考えられているらしい。
 
マイスーパーの投資対象は、株式を中心とした成長カテゴリーに属するものが多くなっている。マイスーパーの資産構成は、図表2の通りである。株式関連の投資が52.7%と半分を越え、更に、不動産・インフラ投資の合計も17%とスーパーアニュエーション全体に対して4ポイントも高い水準になっている。株式投資の中身でも、全体より外国株式と非上場株式に対する投資比率の高いところが興味深い。不動産においても、上場不動産は全体よりマイスーパーの比率が低いのに、非上場不動産とインフラ投資でマイスーパーの比率が上回る構造となっている。
 
図表2 マイスーパーファンドの資産配分(2015年9月)
なお、マイスーパーの手数料水準の分布が公表されており、間接費・投資費用・管理費の合計では、0.3~2.0%の水準に収まっている。平均を取ると若干1.0%を上回る程度のようである。マイスーパーが導入された背景の一つには、スーパーアニュエーションの手数料を引下げて、受益者の給付を増やすこともあったとされる。金利水準の低さ等を考慮に入れると、日本の確定拠出年金に要する諸費用は若干高過ぎるのかもしれない。
 
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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

経歴
  • 【職歴】
     ・1986年 日本生命保険相互会社入社
     ・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
     ・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
     ・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
     ・2021年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・日本ファイナンス学会
     ・証券経済学会
     ・日本金融学会
     ・日本経営財務研究学会

(2016年02月09日「基礎研レター」)

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