- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 年金制度 >
- 法改正の動向
簡易型DC制度は、中小企業での利用しやすさを意識したものである。シンプルで導入しやすい制度という選択肢が増えるのは結構なことである。しかしその利用を中小企業だけに限定する論理必然性があるのか、将来的には改めて検討が必要であろう。また、真に目指すべきは、中小企業が企業年金を持つことではなく、中小企業の従業員が老後所得確保の術を持つことであることを忘れてはならない。そのための手段が企業年金である必要は必ずしもない。従業員自身の「自助努力」へのサポートでもよいはずである。個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度はこの点を意識した施策ともいえよう。
第2の柱は、ライフコースの多様化への対応である。皆が一生1つの企業の正社員でいられるわけではない。転職するかもしれないし、非正規雇用や自営業に就くかもしれない。育児や介護で全く働けない期間がはさまるかもしれない。しかしいずれにせよ、誰にでも等しく老後はやってくる。今回の改正案には、近年の働き方、生き方の多様化への対処として、ポータビリティの拡充と個人型DC加入資格の拡大が盛り込まれた。
ポータビリティの拡充により、これまでできなかったDCからDBへの資産移換も可能となる。これ自体には何の異論もない。労使の選択肢が増えるのはよいことである。ただ、DB側の企業や基金に移換資産受入れの義務が課されるわけではない。規約で定めれば可能というだけである。むしろここでは、そもそもこのポータビリティの問題は、個人型DCの拡充でよりシンプルに対応可能だという点を強調したい。
現行法下では、第3号被保険者、企業年金制度(DB・企業型DC)の加入者、公務員等の共済制度加入者は個人型DCに加入できない。つまりこれらの人々については、老後所得確保のために個人で掛金を拠出するという「自助努力」に対する法制上・税制上のサポートが存在しないのである。このギャップを埋めようというのが改正法案の意図ということになる。
「企業」年金の制度改革の中で、「個人」による「自助努力」の重要性という視点が設定されたのは画期的なことである。今回の個人型DC拡充はまだ「小さな一歩」のように見えるが、将来振り返ってみれば、実は老後所得保障施策における大転換であったということになるかもしれない。従来の法政策は、1階・2階が公的年金、3階が企業年金、4階が自助努力という「積上げ型」の発想に立つものであった。しかし企業年金が全国民をカバーしているわけではないことを考えれば、むしろ「穴埋め型」の政策枠組みの方がよりフェアではないか。すなわち、国民ひとりひとりが老後のための「自助努力」の枠(=全国民共通の税制優遇枠)を持ち、それをそれぞれが何でどう埋めていくか、という発想である。個人型DCは、将来的にはこの全国民共通の「自助努力」枠に発展させていくべきであろう。
努力義務への「格上げ」も大事だが、今後は導入・継続を問わず投資教育の中身についても見直しを図るべきである。本当に必要なのは、一般的な投資理論を教えることではなく、その企業においてDCがどのような「労働条件」として位置づけられているかについての説明であると考える。DCであっても多くの企業では退職金制度の一部であり,労働の対価である。労働基準法等における労働条件に関する説明義務などとの連携も考慮すべきであろう。
後二者については、現在平均18本とされる商品数をどこまで減らす必要が生じるのか、現在元本確保型がほとんどのデフォルト商品につきどのような「要件」が定められるのかなど、肝心の点はまだ決まっていない。しかしいずれにしても、「自己責任」の制度であるDCにおいても、国あるいは事業主の側からある程度パターナリスティックな「お膳立て」が必要である、という立場から一定の規制強化がなされることは確かである。
このレポートの関連カテゴリ
慶應義塾大学大学院 法務研究科(法科大学院)
森戸 英幸
研究・専門分野
(2016年02月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月19日
しぶといドル高圧力、一体いつまで続くのか?~マーケット・カルテ5月号 -
2024年04月19日
年金将来見通しの経済前提は、内閣府3シナリオにゼロ成長を追加-2024年夏に公表される将来見通しへの影響 -
2024年04月19日
パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割 -
2024年04月19日
消費者物価(全国24年3月)-コアCPIは24年度半ばまで2%台後半の伸びが続く見通し -
2024年04月19日
ふるさと納税のデフォルト使途-ふるさと納税の使途は誰が選択しているのか?
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【法改正の動向】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
法改正の動向のレポート Topへ