2016年01月18日

英国の所得補償保険-公的所得保障制度の日英の差異

小林 雅史

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1――はじめに

所得補償保険(就業不能保障保険)は、英国ではincome protection insurance(所得補償保険、従来はpermanent health insurance)、米国ではdisability insurance(就業不能保障保険)と称されることが多い。

英米における名称の差異は、所得補償保険(就業不能保障保険)の発展の歴史によるものでもある。

もともと、医療費を保障する健康保険(health insurance)の一形態として、疾病または傷害により被保険者が就業不能となった場合に定期的な給付を行い、所得を補償する保険として、permanent health insuranceが開発された。

それが次第にincome protection insuranceまたはdisability insuranceと称されるようになったという経緯がある1

本稿では、英国の公的年金制度における就業不能保障と、英国の民間所得補償保険の概要、販売動向などについて報告することとしたい。
 
1  英国金融行動監視機構(Financial Conduct Authority、FCA)ホームページ、全米保険監督官会議(National Association of Insurance Commissioners、NAIC)ホームページ、Kenneth Black,Jr.Harold D.Skipper,Jr.『生命保険(第12版)』生命保険文化研究所、1996年5月、松崎健「所得補償保険に関する考察」『生命保険経営』第60巻第4号、1992年7月。

2――公的年金制度による雇用・支援給付(Employment and Support Allowance)

英国の公的年金制度における雇用・支援給付(Employment and Support Allowance)は、従来、就労不能給付(incapacity benefit)とされていたもので、疾病や傷害のため就労することが全くできない、16歳以上年金支給年齢(男性は65歳、女性は2010年以降60歳から段階的に引き上げられ、2018年11月に65歳、2020年10月男女とも66歳になる予定)未満の者に対して支給される給付である。

雇用・支援給付のほかに、法定傷病手当(Statutory Sick Pay)があり、週当たり平均賃金112ポンド(約1万9千円)以上の者について、連続4日以上の傷病に対し最高28週間、週85.85ポンドとなっている。

この法定傷病手当の受給期間経過後に雇用・支援給付が支払われる。

雇用・支援給付は、当初13週間の審査期間中は、25歳未満は週57.9ポンド、25歳以上は週73.1ポンドが支払われる。

審査期間経過後、障害の程度により就労活動関連グルーブと支援グループに区分され、それぞれ週102.15ポンド、週109.3ポンドが、疾病や傷害のため就労することができない期間(原則として無制限)について支払われる(単身者の場合)2

このように、法定傷病手当、雇用・支援給付とも、定額かつ最低生活費レベルとなっている。

つまり、就労不能による所得の喪失に、十全に備える水準とはいえないものと考えられる。
 
2 「欧州地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向(英国)」『2014 年の海外情勢』、2015年3月、厚生労働省ホームページ。支給額等については”Statutory Sick Pay”、” Employment and Support Allowance ”英国ダイレクト政府ホームページ。

3――所得補償保険(就業不能保障保険)の概要

こうした就労不能による所得の喪失について、公的年金制度による給付に加え、民間が補完するのが所得補償保険(就業不能保障保険)である。

英国での金融監督体制の改革により、2013年4月に発足した、金融行動監視機構(Financial Conduct Authority、FCA)3の定義によれば、income protection insurance(所得補償保険)は、
・被保険者が、疾病または傷害(ill health or accident)により、就業不能(incapacity)となった期間について、収入を保障する保険契約
とされている4

所得補償保険の販売件数は2006年には約15万件であったが、2009年以降、年間10万件前後で推移している。

2014年に販売された所得補償保険104,116件の販売チャネルとしては、
 ・個人投資会社(Personal Investment):32,172件(30.9%)、
 ・住宅ローン会社(Mortgage Business):25,231件(24.2%)、
 ・損害保険募集人:16,163件(15.5%)、
 ・銀行窓販:8,911件(8.6%)、
 ・生保会社:4,701件(4.5%)
などであり、多様なチャネルで販売されている。

他の保障性商品の販売実績も合わせ見てみたい。

金融行動監視機構は、純粋保障性契約(pure protection contract)について、
 (1)死亡または疾病・傷害・虚弱による就業不能のみを保障し、
 (2)解約払戻金がなく(保険料一時払の場合は解約払戻金が一時払保険料以下)、
 (3)こうした制約に反することとなる契約内容変更の定めがない契約
と定義している。

純粋保障性契約に分類される契約には、重大疾病保障特約[Critical Illness sold as a Rider Benefit、住宅ローン保険(mortgage protection policy)や定期保険の特約として販売される]、所得補償保険、重大疾病保障単品(Standalone Critical Illness)などがあるが、その販売動向はつぎの(表)のとおりとなっており、所得補償保険の位置づけがうかがわれる5
(表)英国における純粋保障性契約の商品別販売統計
 
3  小著「英国の保険監督体制の変更-2013 年4月、新監督体制発足-」『保険年金フォーカス』、ニッセイ基礎研究所、2013年3月。http://www.nli-research.co.jp/report/focus/2012/focus130311.pdf
4  FCA規定集のうちGlossary(用語解説)、FCAホームページ。なお、permanent healthは、疾病または傷害により、就業不能となった場合の支払期間が5年以上の所得補償保険とされている。
5  “Pure Protection Contract Product Sales Data (PSD) 、FCAホームページ。
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