2016年01月12日

【12月米雇用統計】市場予想を大幅に上回る29.2万人の増加、前月、前々月も上方修正され、非常に強い内容。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用増加数は市場予想を大幅に上回り、労働参加率も改善

 1月8日、米国労働省(BLS)は12月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は前月対比で+29.2万人の増加1(前月改定値:+25.2万人)となり、前月から伸びが加速、市場予想の+20.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は5.0%(前月:5.0%、市場予想:5.0%)と、こちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は62.6%(前月:62.5%、市場予想:62.5%)と前月、市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:概ね労働市場の「量」と「質」両方の改善を示す内容

12月の雇用統計の結果、非農業部門雇用者数は15年の月間平均増加数が22.1万人(前年:26.0万人)となり、増加ペースは鈍化したものの、20万人超の順調なペースを維持した。さらに、12月の雇用増加数は、10月(30.7万人)に次ぐ昨年2番目の増加となり、10-12月期の月間平均増加数は28.4万人増と、7-9月期の17.4万人増から大幅に加速した。

また、失業率は、前月と同水準であったものの、失業率に関連し労働市場の「質」をみる上で重要な労働参加率が、就業者数の大幅な増加に伴い前月から改善しており、内容は悪くない。もっとも、労働参加率は依然として低水準に留まっており、労働参加率の改善基調が持続することで当面は失業率の改善は足踏みが続く可能性もある。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比では横這い(前月:+0.2%)となったものの、前年同月比では+2.5%(前月:+2.3%)と前月から伸びが加速した(図表1)。時間当たり賃金は、労働参加率の改善が持続する局面でさらに加速が予想される。

このように、12月の雇用統計は雇用増などの「量」に加え、「質」の改善した非常に良好な内容だったと言えよう。16年に入り、中国株の下落や北朝鮮の核実験など、海外要因によって米国株価市場が不安定な状況となっており、昨年夏場に続き米国の実体経済への影響が懸念される状況となっている。しかしながら、国内要因では12月の政策金利の引上げにも係わらず、現状では労働市場の改善が持続していることが確認された。

3.事業所調査の詳細:暖冬の影響もあり、建設業は前月に続き大幅に増加

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+23.0万人(前月:+20.1万人)となり、前月から伸びが加速した(図表2)。

サービス部門の中では、人材派遣が+3.4万人(前月:▲1.2万人)と前月のマイナスからプラスに転じたことから、専門・ビジネスサービスが+7.3万人(前月:+2.1万人)と大幅に伸びが加速した。一方、小売業+0.4万人(前月:+3.2万人)や、娯楽・宿泊+2.9万人(前月:+4.7万人)は前月から伸びが鈍化した。

財生産部門は+4.5万人(前月:+3.9万人)と、こちらも前月から伸びが加速した。資源関連は▲0.8万人(前月:▲1.1万人)と減少が続いているものの、製造業が0.8万人(前月:+0.2万人)と前月から加速したほか、建設業が+4.5万人(前月:+4.8万人)と前月からの好調な伸びが持続した。12月の全米平均気温は過去121年間で最高となるなど、暖冬であったことが建設業の雇用にプラスとなっているとみられる。

政府部門は+1.7万人(前月:+1.2万人)となった。内訳をみると連邦政府が+0.4万人(前月:+0.5万人)となったほか、州・地方政府が+1.3万人(前月:+0.7万人)となった。
 
前月(11月)と前々月(10月)の雇用増(改定値)は、前月が+25.2万人(改定前:+21.1万人)と上方修正されたほか、前々月も+30.7万人(改定前:+29.8万人)に2ヵ月合計で5.0万人上方修正された(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って1月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が+25.7万人(前月改定値:+21.1万人、市場予想:+19.8万人)と、前月から伸びが加速したほか、市場予想も上回った。この結果、ADP社とBLSの雇用統計が久しぶりに整合的な動きとなった。
 
12月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が25.24ドル(前月:25.25ドル)となり、前月から1セント減少した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月と同水準となった。その結果、週当たり賃金は870.78ドル(前月:871.13ドル)と、前月から減少した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が改善

家計調査のうち、12月の労働力人口は前月対比で+46.6万人(前月:+27.1万人)と3ヵ月連続の増加となった。内訳を見ると、失業者数が+2.9万人(前月: +2.5万人)増加したほか、就業者数が+48.5万人(前月:+24.7万人)と3ヵ月連続で増加した。さらに、非労働力人口は▲27.7万人(前月:▲6.6万人)と、こちらも3ヵ月連続で減少した。

労働参加率は就業者数の増加が寄与し62.6%(前月:62.5%)と前月から0.1%ポイント改善した(図表5)。もっとも、労働参加率は高齢化などの人口動態変化に伴う構造的な低下要因を考慮しても、依然として低水準に留まっているとみられるため、今後も労働市場の改善が持続するなかで労働参加率には更に改善の余地がある。

失業率については、小数第2位でみると、11月の5.04%から12月は5.01%と小幅に低下した(図表6)。
 
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、12月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、208.5万人(前月:205.4万人)となり、前月対比では+3.1万人(前月:▲7.8万人)増加した。この結果、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも、26.3%(前月:25.7%)と前月から増加に転じた(図表7)。一方、平均失業期間は27.6週(前月:27.9週)と、こちらは前月から低下した。

最後に、周辺労働力人口(183.3万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(602.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、12月は9.9%(前月:9.9%)と前月と同水準となった(図表8)。さらに、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.9%ポイント(前月:4.9%ポイント)と、こちらも前月と同水準となった。12月はU-3同様に前月と同水準に留まったものの、経済的理由によるパートタイマーなどは緩やかながら減少基調が持続しており、より労働市場の実態を反映した広義の失業率でみても労働市場の改善基調が持続しているとみられる。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年01月12日「経済・金融フラッシュ」)

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