2015年12月21日

介護施設の拡充は進むか-待機高齢者を減らすには、何が有効か?

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、1947~49年生まれの団塊の世代が全て前期高齢者となり、高齢化が進んでいる。これに伴い、特別養護老人ホーム(特養)など、介護施設への入居を希望する高齢者の数も増加している。しかし、特養の整備は十分ではなく、多くの待機者、いわゆる「待機高齢者」を生む状態となっている。

政府は、2015年9月に、2020年に向けた経済成長のエンジンとして「新三本の矢」を発表した。3本目の矢を、安心につながる社会保障としており、家族らの介護を理由に退職せざるを得ないような状況をなくすべく、「介護離職ゼロ」との目標が掲げられている。介護離職を減らすには、重度の要介護者が入れるよう、介護施設を整備することが鍵となる。

本稿では、特養の現状を概観し、それを踏まえて、介護施設整備について検討することとしたい。1
 

2――特養の状況

まず、政府の統計をもとに、特養の状況を見ていく。

1特養待機者は、増加している

近年、入所ニーズの高まりに反して施設数は不足し、需給バランスが合わなくなっている。このため、例えば、特養では入所待ちが数年以上に及び、待機者は2013年に52.4万人(うち要介護3以上34.5万人)に上っている。2009年からの推移では、待機者数が増加している。2015年4月以降は、特養の新規入所者を、原則として要介護3以上の人に限定するよう、入所基準が厳格化された2。一方、介護施設の不足を補うために、2011年より、国による補助金や税制優遇措置、住宅金融支援機構による融資制度がある、サービス付高齢者住宅(サ高住)の建設が進められている。2015年11月末時点で、5,813棟、188,595戸まで増加しており3、国土交通省は、2020年までに60万戸の建設を目指している。
 
図表1. 特養の待機者数
 
1 本稿は、「親の入院・介護に必要な『手続き』と『お金』」中村聡樹(日本経済新聞社, 2015年)、「もう限界 親を介護施設にあずけるお金がわかる本」高室成幸 監修(自由国民社, 2014年)などを、参考にしている。
2 「サービス付き高齢者向け住宅登録状況(平成27年11月末時点)」(一般社団法人 すまいづくりまちづくりセンター連合会)より。
3要介護1や2の人でも、次の考慮事項を勘案して特養以外での生活が困難な事情がある場合、入所が認められる。①認知症で、日常生活に支障を来すような症状等が頻繁に見られること。②知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状等が頻繁に見られること。③深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態であること。④単身世帯等家族等の支援が期待できず、地域での介護サービス等の供給が不十分であること。
2特養の定員数は、あまり伸びていない

待機者の増加に対して、介護施設の整備が進められている。自治体や事業者の間で特養を新設する動きが進み、施設数は増加している。しかし、新たに作られた施設は小規模のものが多く、2014年には、1施設あたりの定員数は低下した。その結果、全体の定員数は、あまり伸びていない。
 
図表2. 特養の施設数と1施設あたり定員数
3特養はこれまで利益を挙げてきたが、介護報酬の引き下げにより、経営が厳しくなるものと見られる

経営実態調査によると、特養の収支差率は、ここ数年、7~9%程度で推移している。個々の施設ごとに見れば差はあるものの、トータルで見れば、財務面では安定した事業運営となっていた。特養の事業者は、社会福祉法人であり、施設経営について、法人税が原則非課税とされる。このため、通常、収支差は内部留保される。厚生労働省の調査によると、特養1施設あたりの内部留保は、1.6億円程度となっている%;">4 。2014年6月に閣議決定された骨太の方針では、社会福祉法人の内部留保の状況を踏まえた適正化として、2015年度には介護報酬が2.27%引き下げられた。引き下げは9年ぶりであった。
 
図表3. 特養の収支状況 (1施設あたり(月額))
なお、特養施設の収支を見る際は、施設ごとの収支状況に幅がある点に留意が必要である。2014年の調査では、約2割の施設が20%以上の収支差率となる反面、3割近くの施設は赤字となっている。今後、2015年度の介護報酬の引き下げの影響で、経営が厳しくなる事業者も出てくるものと見られる5
 
4 事業体内に未使用資産の状態で留保されている額(減価償却により、蓄積した内部資金も含む。)である「実在内部留保」の金額。なお、同調査では、実際の入金を伴わない国庫補助金等特別積立金取崩額や建替えに要する積立金等を含めた「発生源内部留保」は、1施設あたり3億円超としている。
5 例えば、12月に、ワタミは、有料老人ホームなどの介護事業を損保ジャパン日本興亜ホールディングスに売却した。

3――特養の定員が増えない原因

なぜ特養の整備は進まないのか。そこには、いくつかの原因がある。順番に見ていくこととしたい。

1特養の建設費が上昇

2010年以降、特養の建設費は徐々に上昇している。福祉医療機構が2015年10月に公表した分析結果によると、2014年度の、特養の1平方メートルあたり単価は、全国平均で25.9万円、首都圏では28.6万円となっており、それぞれ、ここ数年上昇している。この上昇の要因として、2014年4月の消費税率の引上げ、2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに伴う各種施設の整備のための資材価格の高騰、建設関連の人件費の上昇などが考えられる。
 
図表4. 特養の1平方メートルあたり単価の推移(平均)
2これまで市町村は、介護施設の新規開設にあまり積極的でなかった

特養などの介護施設では、通常、介護保険制度の給付限度までの全額が給付される。この結果、在宅介護での居宅サービスと比較すると、施設サービスの方が、給付費用が高額となっている。介護保険の保険者である市町村にとっては、この給付費用は、財政負担増大の一因となっている。また、要介護者にとっては、施設ではなく居宅でサービスを受けることで、これまでと同様の社会性を保ちながら、日常生活を続けることもできるとの見方もある。このため、これまで、市町村は、介護施設の新規開設をあまり認めず、居宅介護サービスに誘導する形で、介護施策を行ってきた。近年、大都市圏を中心に、介護施設の拡充に力を入れ始めた市町村もあるが、その進捗は緩やかとなっている6
 
図表5. 要介護・要支援度ごとの介護給付費用
 
6 特養の待機者が多い首都圏では、介護施設の拡充を進める動きが出始めている。しかし東京都では、待機者数43,384人(2013年度、要介護2以下を含む)に対し、2018年度までに完成予定の特養は、40施設、3,531人分の定員数増加に留まっている。(「完成予定の老人福祉施設(特別養護老人ホーム等)の公表について」(東京都福祉保健局, 平成27年11月12日現在)より)
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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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