2014年04月07日

東日本大震災から3年経た日本列島で生き延びる-「長尺の目」の薦め

  鎌田 浩毅

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東日本大震災から3年が過ぎたが、今でも時おり地震が起きている。今後「首都直下地震」や「南海トラフ巨大地震」の発生は避けられないと言われる中で、日本列島はどうなるのかは気になるところだ。
   東日本大震災は私たち地球科学者の予想をはるかに超えたもので、1000年に1回発生するかどうかという非常に稀な巨大地震が引き起こしたものだった。私が専門とする地球科学のデータをくわしく解析すると、マグニチュード(M)9の巨大地震を引き起こした地殻変動はまだ終わっていないことが分かる。すなわち、「3・11」以後の日本は地震と噴火の活動期に入り、今後の数十年に渡ってさまざまな自然災害が予想される。


「大地変動の時代」に突入した日本

東日本大震災の特徴のひとつは、海で起きる余震が激しく、異常といえるほど長く続いている点だ。たとえば、M8クラスの大型地震が数年たってから海域で発生し、さらに震源域が南の房総沖や北の三陸沖北部へ広がる可能性もある。つまり、東北地方で地震と津波の災害が再発する恐れは消えていないのだ。
   これに加えて、何百キロメートルも離れた内陸部で直下型地震が発生している。このタイプの地震は震源が浅く、発生直後から大きな揺れが襲ってくるため逃げる暇がほとんどない。東日本の内陸部では首都圏も含めて直下型地震が起きる確率が高まっている。
   私がもっとも心配しているのは、西日本の太平洋沿岸で起きる「南海トラフ巨大地震」である。国の中央防災会議は最大で34万3千人の犠牲者と220兆円を超える激甚災害を予測した。東海・東南海・南海が同時発生するM9クラスの「連動型地震」という最悪のシナリオで、「西日本大震災」とも呼ばれている。これが日本人全員に課せられた大きな課題であることは論を俟(ま)たない。
   発生の時期を年月日までのレベルで正確に予測することは現在の技術では不可能だが、古地震の記録やシミュレーション結果を総合判断して、私は西暦2030年代に起きると予測している。ちなみに、東日本大震災と同じタイプの貞(じょう)観(がん)地震(869年)が東北沖で起きた18年後に、南海トラフ沿いで仁和(にんな)南海地震と呼ばれる巨大地震が起きている。
   西日本大震災が太平洋ベルト地帯の経済・産業活動を直撃することは必定だ。自然が引き起こす巨大災害を完全に防ぐことは不可能なので、技術的にも予算的にも、災害をできるかぎり減らすこと、すなわち「減災」しかできない。減災の成功を支えるキーフレーズは、「いま自分ができることから始める」である。誰かの指示を待って行動すればよい、という受身の考え方でなく、自らが動かなければならないのだ。


日本列島に動かないものはない

日本は世界有数の火山国であり、いったん噴火が起きれば様々な災害が起きる。2010年4月にはアイスランドの活火山から噴出した大量の火山灰によりヨーロッパ中の航空便が欠航し、1600億円を超える被害を出した。
   「3・11」で起きたようなM9クラスの巨大地震は、活火山の噴火を誘発する。実際、東日本大震災以後に地下で地震活動が増加した活火山が約20個ある(図1)。噴火する可能性としては、世界文化遺産に登録された富士山も例外ではない。1707年に起きた宝永地震(M9クラス)の49日後にマグマを噴出し、江戸の街へ大量の火山灰を降らせたのだ。
   日本列島には永遠に動かぬものは何一つ存在しない。「動かざること山のごとし」という言葉があるが、地球科学的には正しくない。たとえば、富士山の「山体崩壊」がその例であり、大地震や噴火を引き金として発生する(図2)。現在の富士山は穏やかで美しい山だが、時として大災害をともなう面があることを忘れてはならない。我が国に110個ある活火山には山体崩壊を起こしたものが少なからず存在するため、「想定外をできるだけ排除する」という立場からも十分検討する必要がある。


災いは短く、恵みは長い

日本列島が1000年ぶりの変動期に入ったという認識は、地球科学者が伝えたい重要なメッセージである。こうした状況では、自然災害に対する正確な知識を事前に持ち、起きつつある現象に対してリアルタイムで情報を得ながら準備することが不可欠である。
   災害を防ぐ最大のポイントは、前もって予測し備えることである。不意打ちを受けたときに被害は増大する。もし事前に知識を持っていれば、助かる確率は一気に上がるのだ。もうひとつのポイントは、「自分の身は自分で守る」ことである。国や自治体を頼りにするだけではなく、日頃から個人や家庭で備えておくことが大切である。
   一方、火山は災害を起こすだけではない。噴火をしばらく休んでいるときの火山には、数多くの魅力がある。火山の作る地形には美しいものが多く、日本の国立公園の9割は火山地域にある。風光明媚(めいび)な大地を生み出し、そこには温泉も湧く。さらに、火山の広い裾野は果樹の栽培に適している。たとえば、ローマ人がワイン用のブドウを栽培し始めた場所は、イタリア・ナポリに近いヴェスヴィオ火山の麓だった。すなわち、火山は災害を起こす噴火中を除いて、むしろ恵みや癒(いや)しをもたらしてくれるものとも言えよう。
   こうした恵みは、噴火と噴火の間に私たちが享受できる火山の贈り物といってもよい。つまり、災害の一時期を過ごした後、ふたたび長期間の恩恵を受けることができるのだ。私は「災いは短く、恵みは長い」と説明するが、こうした見かたが活火山とつきあう上で大事なポイントとなる。事実、恵みに比べると短期間に起きる災害は、「火山学」など科学の力を用いてうまく避けることができる。ここで成功すれば、その後には長い恵みがくることを忘れてはならない。災害から身を守るための科学的知識を持つことが重要であることも分かっていただけると思う。




「長尺の目」で大地を見る

西暦2030年から2040年ころの発生が確実視されている南海トラフ巨大地震は、約300年に1回の頻度で起きてきた。また、東日本大震災を起こしたM9の地震は1000年に1度であった。このように日常生活では考えもしない時間軸で動く日本列島に、我々は住んでいる。私は「長尺(ちょうじゃく)の目」と呼んでいるが、100年や1000年などの時間軸で日本の大自然を捉えていただきたい。こうした長期の視点で判断することが、災害列島で生き延びることにつながるからである。
   実は日本人はこうした「長尺の目」で考えるのが本当は得意なのではないか、と私は考えている。ここで日本列島の巨大噴火の歴史を見てみよう。今から7000年ほど前、日本の大部分が噴火による火山灰で覆われたことがある。カルデラ型の巨大噴火であり、大規模火砕流に襲われた地域の縄文人が絶滅してしまった事件だ。
   そのひとつ前の巨大噴火が2万9000年前であり、日本では12万年に18回ほど激甚災害に見舞われてきた。すなわち1000年に1度の大地震だけでなく、1万年に1回の大噴火でさえいつ来ても不思議ではない。このような変動地域に暮らしていても、我々の祖先は死に絶えることなく現在まで発展を続けてきた。いわば、巨大地震と巨大噴火の中で生き抜くDNAを持っているとも言えよう。よって、徒(いたずら)にうろたえることなく「長尺の目」と科学の力によって、数千年の時間単位で起きる地球イベントを上手にかわそうというのが、日本列島を長年見つづけてきた私からのメッセージである。
   こうした大変動期の渦中にあって、2020年の東京オリンピックが決まったことは、非常に良かったのではないかと私は思う。それは、原発事故の収束を含め東日本大震災からの復興を大きく進めるとともに、2030年代の西日本大震災にむけてオールジャパン体制で、安全対策としてのインフラ整備をワンステップ進めることになるからである。私は自然と共存してきた日本人の生きかたに期待を持ちたいと思う。なお、本稿の理念は、『地震と火山の日本を生きのびる知恵』(メディアファクトリー)と『京大人気講義 生き抜くための地震学』(ちくま新書)にくわしく解説したので参考にしていただければ幸いである。


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