コラム
2012年02月29日

“大介護時代”の都市~もうひとつの「高齢化問題」

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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高齢化問題は都市問題だ。これまで高齢化は地方の過疎化と表裏一体のように思われてきたが、今後の高齢化は都市部を中心に顕在化する。埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の1都3県では、今後10年間に65歳以上の高齢者が200万人以上増加し、介護需要も急増する。都市を中心とした“大介護時代”がやってくるのだ。

この都市の“大介護時代”には、人口の高齢化の他にもうひとつの重要な高齢化問題が潜んでいる。それは日本の高度経済成長を支えてきた社会資本の高齢化(老朽化)問題である。日本では60年代以降の高度経済成長期に多くの都市基盤(道路、橋梁、上下水道、浄水場・下水処理場など)が整備された。64年の東京オリンピック前後の高速道路建設ラッシュを記憶している人もいるだろう。それら都市基盤が間もなく建設後50年を経過するのである。

平成21年度国土交通白書によると、建設後50年を経過する社会資本の割合は、「道路・橋」では2009年度で約8%だが、2019年度には25%、2029年度には51%に達するとしている。また、国土交通省の所管する社会資本(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸の8分野)の維持管理・更新費は、2010年度現在で投資総額の約50%を占めており、2037年度時点では投資可能総額を上回ると推計されている。これには2011年の東日本大震災の災害復旧費は見込まれていない。

数年前にアメリカ・シカゴ市を訪れた時のことである。市内を流れるシカゴ川にかかる橋が老朽化のために一部通行止めになっていた。また、市内随一の繁華街であるミシガン通りの路面の舗装は、あちこちに穴が開いた状態だった。アメリカを代表する大都市・ニューヨーク市でも同様の光景を目にしたことがある。アメリカでは1929年の大恐慌後に大規模な公共投資が行われ、それら社会資本が建設後50年を過ぎた80年代以降にあちこちで老朽化の影響が表れているのである。

日本ではこれまで都市基盤の維持管理が比較的適切に行われており、時折、水道管の破裂による道路の陥没が報道されることがあるものの、我々が日常生活において著しい不具合を感じることは少ない。しかし、今後、維持管理財源の確保が難しくなる一方で耐用年数を超えた道路や橋梁、下水道施設が大量に発生する日本の都市にあっても、アメリカの大都市と同様の状況が起こる可能性は高いのである。

筆者は東日本大震災後に、東北自動車道をバスで走ったが、震災の影響で路面が損傷し、今まで日本の高速道路では経験したことのない揺れが続いた。これは震災による損傷であるが、今後財源不足から適切な維持管理が行われなかった場合、都市基盤がどのような状況になるのかを示唆しているように思えた。

現在、社会保障と税の一体改革が議論され、消費税を財源に少子高齢社会の新たな社会保障制度の再構築が構想されているが、それは我が国の社会資本ストック(ここでは上記の都市基盤と教育・文化施設、行政施設、福祉施設などの公共施設を指す)の高齢化にも当てはまることなのである。人口減少社会において新たな公共投資を抑制することはもちろんのこと、既存の社会資本ストックを適切に維持管理・更新していかない限り経済・産業活動や国民生活の水準低下は避けられないのである。

このような状況を打開するためには新たな財源の確保と社会資本ストックのあり方の見直しが必要だ。特に、人口が減少する中で重複する公共施設の統廃合や適正再配置、広域行政の中での施設の共有化やネットワーク化による有効活用、そして適切な予防保全による耐用年数の伸長などが不可欠である。また、公共施設の民営化や非所有(賃貸)化、社会資本の維持管理における民間資金を活用したPFI事業の検討も必要だろう。

今後の社会資本整備は人口・世帯構造変化や社会環境変化にも柔軟に対応し、あわせて大震災への備えを行うべきである。また、社会資本ストックの高齢化問題は、人口減少時代の都市の縮小政策(Shrinking Policy)として居住地の集約等の土地利用、都市計画上からも検討されなければならない。人口の高齢化対応はかなり早い段階から予測ができたにもかかわらず制度的対応が遅れてしまったが、“大介護時代”を迎える日本の都市のもうひとつの「高齢化問題」である社会資本ストックの高齢化対応では同じ轍を踏んではならないのである。

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

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