コラム
2010年08月16日

再認識されたテナントとの良好な関係づくりの重要性

  松村 徹

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不動産ファンドブームで巨額の投資マネーが不動産開発に向かった結果、各地でオフィスビルや賃貸マンションの供給ラッシュが起きた。リーマン・ショック後、東京のオフィス市場の需給バランスは大きく崩れたが、支店経済で市場規模の小さい地方都市の市況悪化はより深刻である。特に、仙台や名古屋、大阪などのオフィス市場では、過去経験したことのないほど大きな募集在庫を抱えている。

そんな中、不動産大手、もしくは不動産大手がスポンサーのJ-REIT(不動産投信)が所有するビルと比べて、新興不動産会社や投資ファンドなどが所有するビルのテナント誘致が難しくなっているといわれる。もちろん例外はあるが、たとえばJ-REITのサンプルデータをみても、ビル事業に実績のある不動産大手がスポンサーのJ-REITと、新興オーナーがスポンサーのJ-REITでは、前者の方がキャッシュフローや稼働率が安定する傾向がある。

この背景には、新興不動産会社の破たんが相次ぎ、スポンサーの信用力をテナントが重視するようになっていることに加え、好況時に賃料引上げを強引に迫った新興オーナーへの不信感があると思われる。新興オーナーの中でも、性急に収益拡大を目指す“肉食系オーナー”と、毎年のようにドライでタフな賃料改定交渉をしたくない、と考える日本企業は少なくないだろう。実際、問答無用でテナントに賃料引上げを迫って裁判沙汰となった大型ビルが、市況悪化後、割高な賃料とテナントのオーナーへの強い不満や不信感に目を付けられ、テナント引き抜きの草刈場になったといわれる。もちろん、ビルが転売されてオーナーやビル名が変わるリスクも、テナントの意思決定に影響しているはずだ。

また、不動産大手のビルは古くとも元々立地条件や設備仕様が良く、オーナーシップも明確で、長期保有を前提にした適切な改修工事が行われ、日常的な管理もしっかりしている場合が多い。特に地方都市では、不動産大手は現地に支店を構え、市況変化に迅速に対応して解約防止や新規募集に成功しているのに対し、現地情報に疎く、テナント募集やビルの維持管理が他人任せの新興オーナーは、意思決定も遅れがちで、結果としてリースアップに苦戦する構図が目立つ。

さらに、今後はオフィスビルの省エネ化推進の観点からも、オーナーが日常的にテナントと良好な関係を維持することが非常に重要になっている。なぜなら、ビル全体のエネルギー使用量はビルの利用時間やシステム負荷などで大きく異なるため、ビルオーナーが省エネ化を進めるためには、テナントの協力を取り付けることが不可欠となっているためだ。特に、短期的収益を重視しがちな投資ファンドでは、収益改善に直接結びつかない環境関連投資やテナントへの働きかけを積極的に行うとは考えられないだけに、オーナーシップによる事業格差がさらに拡大する可能性が高い。

短期間で高い利益分配を期待する投資家が求める不動産運用と、中長期の安定的な利益分配を期待する投資家が求める不動産運用では、そのあり方が異なって当然である。しかし、2、3年で転売を繰り返すような不動産マネジメントは、賃貸借契約期間が通常2年で、相互の信頼関係を重視する感覚が残る日本のオフィス市場に馴染まないともいえそうである。新興オーナーの登場が、不動産市場の近代化や透明化に果たした役割は大きく、今後の不動産投資市場の発展にもファンドの存在は不可欠である。それだけに、不動産ファンド・マネージャーの方々には、現在の逆境を奇禍として、不動産マネジメントをより洗練していって欲しい。

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