コラム
2010年07月05日

基軸通貨の3つの未来

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.3つの未来

国際通貨制度の未来には、3つの可能性がある。一つは、単独の通貨による基軸通貨体制が維持される場合だ。現在の国際金融制度に詳しい人ほど、米ドルの基軸通貨としての地位が揺るがないという考えを示す傾向があるようだが、中国などの新興国経済の発展が続けば、まだまだ時間は掛かるものの、人民元などの新興国通貨が米ドルに取って代わることは十分あるだろう。
   第二は、複数の基軸通貨が並立する体制となることである。米ドルだけでなく、ユーロや人民元、さらにはインドのルピーなど複数の通貨が、国際貿易や国際金融取引に使われるようになるというのも十分可能性がある姿だ。複数の通貨が利用されることには非効率な面もあるが、リスク分散などのメリットがそれを上回る可能性も大きい。
   第三は、米ドルや人民元、ユーロのような特定の国や地域の通貨ではなく、IMFのような国際機関が制御する「世界通貨」とでも呼ぶべきものが生まれることである。国というものの裏づけのない通貨が世界で通用するのかという懐疑論も根強いが、第二次世界大戦後の国際通貨体制を作る際にケインズが提唱したこのアイデアは、現在こそ真剣に議論されるべき国際通貨体制の未来の姿ではないか。

2.ドル基軸体制の矛盾

米ドルという特定の国の通貨を基軸通貨として利用することには、様々な問題が指摘されている。例えば、基軸通貨の価値の安定化のためには基軸通貨国である米国の経常収支が黒字であることが望ましいが、国際的な流動性の供給のためには米国の経常収支が赤字となって各国に米ドルを供給することが必要になる、という矛盾を抱えていることだ。
   また、世界各国は外貨準備として大量の米ドルを保有するが、年々各国が外貨準備のドル資産を増やす分だけ、米国は輸出で代金を稼がなくても海外から製品を輸入したり海外の資産を手に入れたりできるという、通貨発行益という特権を享受することになる。
   米国の金融危機が世界の貿易や国際金融の決済に影響を及ぼしたように、世界経済全体が米国の金融政策の影響を受けてしまうし、逆に言えば、米国の金融政策は、国際流動性の確保に配慮しなくてはならないという制約も受ける。
   将来、人民元が米ドルに替わって基軸通貨となったり、複数の通貨が基軸通貨として使われたりすることになっても、問題は本質的には解決しない。米国の役割を中国が果たすようになったり、ごく少数の国が通貨発行益を手にし、国際流動性の確保という責務を負うということになったりするだけだからだ。国際通貨の発行益は、世界が平等に恩恵を受けられるようにすべきで、その負担も世界が平等に負担すべきだろう。

3.日本という国の未来

中国に世界第二の経済大国の座を奪われることが確実となった日本には、どんな未来があるのだろうか。かつてのように、経済力にものを言わせて世界中にお金をばら撒いて存在感を示すというなどと言うことは、もう二度とできないだろう。もちろん軍事力に物を言わせるなどということもできないし、望ましいとも思えない。しかし、金も力も無くてもできることはある。それは、世界経済はどうあるべきかという理念を示すことや、それを実現するためのアイデアを出すことだ。これからの日本が世界で存在感を示しうるとすれば、こうした役割を果たすことによってではないかと思う。
   基軸通貨としての米ドルの負担の一部を肩代わりしうると期待されていたユーロがギリシャ問題でつまずき、中国の人民元が基軸通貨に成長するとしても、まだ相当な時間が必要である。真に安定した望ましい国際通貨体制を作り上げるために、世界第三位の経済大国である日本には、色々となすべきこと、できることがあるのではないだろうか。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

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