コラム
2009年10月26日

金融サービスの地域格差

  遅澤 秀一

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政府は、日本郵政グループに金融(銀行・保険)サービスの全国一律化を義務付ける方針を固めたようだ。現在はすべての郵便局で金融サービスを取り扱っているが、将来的に不採算地域から撤退するようなことがあれば、その地域の住民が貯金・年金の引き出しが出来なくなることを懸念してのことのようである。郵政民営化が見直されるのかどうかが大きな論点であろうが、それとは別に今回の決定は金融サービスの本質について考えさせるものがあった。

金融で重要なのは情報である。有価証券のペーパーレス化が進み、もはや株式や債券はモノとしての実体のない情報として管理されている。また、「信用」も結局のところ情報である。したがって、金融はインターネットと相性がよく、銀行・証券・保険の各業態でインターネット専業の企業が存在する。特にネット証券は補完的役割をはるかに超えた存在感を示している。だが、金融において情報だけで完結しないものに、現金というモノの取り扱いと対人的なサービスがある。

まず、現金については大手証券の支店でもすでに取り扱いを止め、入出金はATMや銀行振り込みだけを使い、余力をコンサルティング等に注力するようになっている。一方で、郵便局が全国津々浦々に張り巡らしたATM網は、他の金融機関と提携する上での武器ともなっている。だから、日本郵政グループが経営戦略上ATMを重視することは今後も変わらないだろう。だが、このような状況でも、すべての郵便局で現金を通帳で入出金できるようにする必要があるだろうか。

次に、金融商品については対面販売の方が安心できるような気がするかもしれない。しかし、商品の理解度が深まるとは限らないし、対面販売でなければ買えないわけでもない。たとえば、投資信託などはネット証券でも購入できる。住宅ローンもネット・バンクで受け付けている。さらに言えば、海外のネット証券・銀行に口座を持てば日本全国一律どころか、世界一律でサービスを受けられるのだ。郵便局が提供している金融サービスは金融全体のごく一部に過ぎない。しかも、その多くはインターネットに接続できれば、居住地に関係なくどんなに交通不便であってもサービスは受けられる。

金融サービスに限らず、郵便事業も電子メールで代替可能な部分が多いだろう。こうしてみると、ユニバーサル・サービスの前提として優先すべきは、デジタル・デバイド(情報格差)の根絶だと考えられる。教育分野でも、たとえばMIT(マサチューセッツ工科大学)のようにオープン・コースウェア(http://ocw.mit.edu/OcwWeb/web/home/home/index.htm)としてカリキュラムを公開しているところもあり、これを参考に学ぶ発展途上国の学生も多いようだ。そこで、格差と言っても対処・代替不可能な地域格差なのかを再考すべきであろう。何でも東京と同じサービスを求めるだけでは、途上国の意欲的な若者に笑われるだろう。日本における地域格差の中で真っ先に是正すべきは、選挙における一票の重さの格差ではないだろうか。

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