コラム
2009年06月10日

20年後の日本~20年後のことを言うと鬼は笑うか

櫨(はじ) 浩一

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1.明日のことが一番分からない

「来年のことを言うと鬼が笑う」とよく言われるが、確かに将来は不確実でどうなるか分からない。弓や射撃で遠くの的を射抜くのは大変難しく、できるだけ近くにある的の方が当たりやすい。経済や社会の将来予測も、時間的に遠い先のことであるほど予測するのが難しく、近ければそれだけ当たりやすいと思われるだろう。ところが長年経済予測をやっている経験からすると、どうも遠い将来のことは予測し難く、近い将来のことは当たりやすいという常識は成り立っていないようだ。

例えば、日本の株価である。このところデフレ状態にあって物価は下落気味だが、よほど政府が政策的な失敗をし続けない限り長期的には物価は上がる。個々の会社の株はともかく日経平均のような平均値でみれば日本の株価は、こうした物価の上昇を反映して数年経てば相当な確率で上昇し、数十年という期間を考えれば確実に上がるはずだ。しかし明日の株価はというと、上がるか下がるか、どちらになるかは全く分からない。明日のことを言うと鬼は笑うが、20年後のことを言っても、鬼は笑わないかも知れない。

2.予測が未来を変える

予測には、「遠くよりも近くが当たるとは限らない」という以外にも様々なパラドックスがある。安部公房の小説の「第四間氷期」に未来を予測する機械が出てくるが、作者はストーリーの展開上でこの機械のパラドックスに苦労したように見える。未来が分かるという類の小説は、この小説に限らず多かれ少なかれ同じ問題に直面する。それは、「今日交通事故に遭う」ということが予測されていれば、交通事故に遭わないようにと、家から外に出ないなど別の行動をとるので、結果として「今日交通事故には遭わない」ことになるだろうということだ。

そういう意味では、将来の危機についての予測は、「危機が起こる」と予測すれば危機が回避されることになって危機は起こらず、「危機は起こらない」と予測すると危機が回避されないので危機が起こるということになるはずだ。危機が起こると予測しても、危機が起こらないと予測しても、どちらにしても予測ははずれることになるはずなのだ。ところが実際には、以前から問題が指摘されていたにも関わらず、結局問題が起こってしまうことが多い。

3.予測される危機

さてこの度当研究所が出版した「図解20年後の日本」(日本経済新聞出版社)では、執筆した各研究員はこのパラドックスをどう扱ったのだろう。「ある程度の対応はなされるが、問題の本質的な解決には至らない」という予測が多いようだ。筆者の担当した分野の予測にもこうしたものがある。

我々はもちろん将来をできる限り正しく予測しようとする。しかしその一方で、危機に関する予測については、できることなら自分の予測が外れて欲しいという複雑な思いも持っているのだ。
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