コラム
2009年05月19日

新型インフルエンザと今後の景気

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.景気の出鼻をくじく新型インフルエンザ

世界的な景気後退の影響から急速に悪化を続けてきた日本景気は、このところ持ち直しの兆しもみえるようになってきた。急速な落ち込みを見せていた鉱工業生産は、3月には前月比1.6%の増加となり、企業の生産計画では先行きも増加が見込まれている。本格的な回復にはまだ時間が掛かるとしても、定額給付金の支給が本格化し、政府の経済危機対策の効果が出てくれば、4-6月期以降の景気へは少しは期待も持てる状況となってきた。
   こうした矢先に起こったのが、今回の新型インフルエンザだ。16日に日本国内で初めての人から人への感染が確認されて2日も経たないうちに、確認された感染者数は100人を超えた。感染を恐れて人ごみが避けられて、デパートや地下街などへの人出が減り、消費が落ち込む恐れがある。社会的な影響では、現時点では、感染拡大防止のために大阪、兵庫で学校の休校が実施されているが、感染が拡大すれば工場や事業所でも操業を縮小したり、停止したりするところも出てくるだろう。

2.SARSとサリン事件

新型の感染症で思い起こされるのは、2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)のケースだ。この際には、全世界で感染者は8,098名にのぼり、死者は774名となったが、幸いなことに日本国内での患者の発生は無く、7月にはWHOがSARSの終息を宣言するなど、短期間で問題が収まった。4月には鉱工業生産が前月比で▲1.4%の減少となっているが、実は3月19日にはイラク戦争が勃発しており、生産の減少はSARSのためだけではない。商業販売額(小売業)は前月比▲1.4%の減少となっているが、5月には前月比0.9%の増加と持ち直している。はっきりとした影響が見られるのは、日本からの海外旅行が大きく減ったということぐらいだ。イラク戦争は当初の大規模な戦闘が早期に終結し、夏にはSARSもおさまったことで、日本の鉱工業生産は再び増加傾向をたどっている。中国では日本から進出した企業の工場の操業停止が報道されたが、今振り返るとSARSによる経済への影響を確認することは難しい。
   阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件のあった1995年初めも、直後には事件による影響とみられる消費の減少が見られるが、景気低迷による影響と区別が難しい。社会的には大きな事件でも、短期間で収束してしまえば経済的な影響は意外に小さい。

3.当面の景気は新型インフルエンザ次第

さて、今回の新型インフルエンザはどうだろうか?新型インフルエンザは、今のところ毒性はSARSのときよりははるかに低いようだが、感染拡大の勢いはすさまじい。日本はこれから夏に向い、大規模な感染が短期間でおさまる可能性もある。しかし、秋以降に再びインフルエンザの流行期になったときに、大流行となるかも知れない。新型インフルエンザへの対応は、強毒性の鳥インフルエンザを想定した対策よりは緩やかなものになるだろうが、それでも大流行となれば企業活動の縮小は避けられまい。
   日本経済の本格的回復が、海外経済の持ち直し次第という他力本願なのと同じように、当面の景気動向も新型インフルエンザ感染の行方次第ということになりそうだ。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

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マクロ経済・経済政策

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