コラム
2008年06月26日

法人税引下げのすすめ ~国家戦略の全体最適化のために~

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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経済協力開発機構(OECD)は、今年4月に発表した「対日経済審査報告書2008年版」の中で、我が国に対して、成長促進につながる包括的な税制改革の実施を提案している。OECDは加盟国に対する政策提言を定期的にまとめており、我が国に対しては2年ぶりの報告となる。

今回の提言では、サプライサイドへポジティブな影響を与える政策が盛り込まれている点が重要である。なかでも、OECD諸国の中で最も低い消費税率を引き上げる一方、逆に約40%と最も高い法人税率(法定実効税率)をOECD平均(29%)に近い水準まで引き下げることを提案している点が注目される。各経済部門に分配される付加価値(GDP)は企業部門により創出されることから、サプライサイドの強化なくして経済成長はありえないと言っても過言ではない。

筆者も企業立地を調査研究する立場から、我が国の立地競争力を抜本的に強化するためには、法定実効税率の引き下げが検討課題であると主張してきた。拙稿「スマイルカーブ現象の検証と立地競争力の国際比較」『ニッセイ基礎研所報』2007年Vol.46において、法定実効税率、減価償却制度、自治体の企業立地優遇措置など企業立地に関わる制度面では、いずれも国内立地がアジア主要国に対して不利であり、特に法定実効税率を中心に法人課税制度での格差が大きいことを示した。

一方、昨年後半以降、シャープや東芝など大手電機メーカーにより、液晶や半導体の最先端の大型工場を国内で新設する計画が相次いで打ち出された。なぜ税制面で不利な国内立地が選択されたのだろうか。

半導体や液晶パネルの先端ラインの立上げには、プロセス技術者やオペレーターの高い熟練度を要する。また技術の世代交代とともに我が国が強みを持つ部材・装置技術の重要性が高まっており、部材・装置メーカーとの連携が欠かせない。国内立地には、部材・装置メーカーの集積や熟練労働力の活用の他、開発と生産の一体化による技術開発の加速化、製造技術のブラックボックス化などの比較優位な側面がある。また、自社の既存事業所との近接性を追求すれば、拠点間の連携も図りやすい。

合理的な企業であれば、国内立地のこれらの優位な側面と税制面での劣位を比較検討して、グローバルな視点から立地最適化を図っているとみられるため、国内立地の比較劣位な側面が比較優位な側面を上回れば、海外移転を進めざるをえない。政府には、付加価値創出力の強い比較優位企業を国内に引き止めるべく、産業集積や産業人材など比較優位な側面を維持・強化する施策とともに、税制面での劣位を抜本的に解消していく施策が求められる。アジア主要国では、国が描く産業構造ビジョンの中で強化すべき産業領域に対しては、国際的に比較優位な法人課税制度を設定するという、産業政策と租税政策の一体化を図った明確な国家戦略が採られている。

我が国の税制改革論議は、歳出と歳入、とりわけ社会保障と税の一体改革に重点が置かれている。国家戦略の全体最適化のためには、国として強化すべき産業領域を明確化した上で、産業構造ビジョンと法人所得課税体系の整合性を取ることがさらに求められる。法人税引下げは、企業のみを利するための政策との誤解を招かぬよう、単発の政策としてではなく、国全体のグランドデザインの中で必要性が議論されるべきである。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

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