コラム
2007年05月24日

注目される保険会社の負債評価を巡る動向

  荻原 邦男

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保険会社の負債評価の話を紹介したい。
   保険会社の負債は、ほとんどがお客様の将来の給付をなすためのもの(責任準備金と呼ばれる)であり、わが国の生命保険業界全体で言えば約175兆円である。その責任準備金は、ある種の評価、計算により求められるのであるが、国際会計基準審議会(IASB)はこの保険負債評価に関する会計基準を継続的に検討してきた。起草委員会を立ち上げたのが1997年だから、もう10年になる。フェーズIと呼ばれる暫定基準の作成を経て、フェーズIIと呼ばれる本格基準が検討されてきたが、このほどディスカッションペーパーが公表された。

ディスカッションペーパーの基本的考え方をごく大雑把に言えば、将来の給付などの支払予定額から保険料収入予定額を差し引いた額を、現時点の金利で割り引いて再評価すべし、というものである。従来のわが国の評価方法は、保険料を定める際の予定利率や死亡率などを継続して使用して評価するものであっただけに、影響は大きいものと考えられる。今後、国際会計基準へのハーモナイズが求められるなかで、関係各層からの積極的な関与が求められよう(コメントレターの締め切りは11月中旬)。

ところで、こうした動きとどの程度関連しているのか定かではないが、2006年度の生保決算のなかで、追加の責任準備金を積み立てる会社2社の動きが報道され、注目されている。このところ運用環境が整ってきたことを背景に、逆ざやとなっている年金保険を中心に、その契約の予定利率より低い利率(評価利率)で再計算することにより、責任準備金を追加で積立てようというものである。新聞報道によれば、S社は「07年3月期からは責任準備金を毎年300億円を積み増す」予定とされ、N社は、「今後5年間で個人年金の責任準備金を約1兆2000億円積み増す方針も固めた。初年度は2800億円の積み増しを予定」とのことである。

私見では、本来的にこうした準備は企業判断に基づき、より早期になされるべきであったと考える。従来は、保険計理人の責任準備金確認に基づいて追加責任準備金を積み立てることが求められてきたが、そしてそれはそれで重要なのだが、あたかも経営困難を背景にしていると受け止められかねない仕組みになっている点が問題であったといえよう。そうした環境を脱したことは喜ばしいことではあるが、保険計理人といういわば監査機能の発揮としてではなく、企業の会計政策の一つとして、このような政策が可能となるような環境を整えることも必要ではなかろうか。

そしてもう一つの重要なポイントは法人税法上の取扱である。この追加責任準備金積立は有税で積み立てなければならない仕組みであり、法人税を課されていなかった簡保がすでに同様の仕組みにより、8兆円にも達する追加責任準備金を積み立てているのと対照的である。民間とのイコールフッティングの観点からも、追加積立の一定程度を損金として認められるような制度を検討すべきではなかろうか。

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