コラム
2005年12月19日

GDP基準改定で変わった日本経済の様相

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.避けられない統計の誤差

日本では、「統計の数字は非常に正確なものだ」と考えている人が多いようで、統計のほとんど誤差に近いような変化にまで、敏感に反応しすぎるという問題がある。統計は元々ある程度の誤差を含んだものである。一部のサンプルから調査対象全体の数値の推計を行っている統計だけではなくて、全体を調査している統計でも誤差は避けられない。
今年行われた国勢調査ではニセモノの調査員が出現したり、調査を拒否する世帯が増加したりするなど、全体を調査することが難しくなっていることがしばしば報道された。日本の全世帯を調査しようとしても調査できないという問題は、今回急に発生したわけではなく、昔からあるものである。国勢調査では日本の人口が1億何千何百何十何万何千何百何十何人と発表されるが、最後の方の数字は相当な誤差があるはずなのだ。
いわんや、多数の統計を使い高度な加工を行っているGDPのような統計では、誤差は宿命とも言える。GDPに対しては最初に発表される一次速報から二次速報などその後に発表される数値への変更幅が大きいという批判があるが、ある程度は避けられないものだ。

2.大幅に下方修正された設備投資金額

GDP統計は5年に一度基準改定を行っており、今年はその年に当たっている。基準改定では、推計に利用している産業連関表や国勢調査の結果を新しいものに入れ替えたり、これまでの推計方法を改善したりするなどの変更を行っている。
今回の基準改定では実質経済成長率などの動きにあまり大きな差がなかったので、基準改定の問題が大きく取り上げられることは少ないようだ。しかし、GDPの内容を見ると、幾つかの問題点が見られる。最も大きな問題は、設備投資の水準が大幅に下方修正されたことである。2004年度の設備投資の金額は、基準改定前の旧推計では78.3兆円と発表されていたのに、新推計では71.1兆円と7兆円、約1割も下方に修正されている。内閣府にこの原因を問い合わせたところ、推計方法を変更したり、概念を変更したりしたことが原因ではなく、推計に利用している産業連関表を新しいものにしたことが原因だということである。

3.求められる推計方法の改善

もちろん、人為的な操作や推計のミスによってこの変更は発生したわけではないが、日本の経済像をかなり大きく変えるものである。例えば、設備投資の行き過ぎを判断するひとつの目安である設備投資の名目GDP比を見ると、これまでよりも1%ポイントほども低下している。設備投資は1990年代に入ってからは名目GDP比が16%程度でピークに達していた。これまでの統計では、設備投資の名目GDP比は2004年度には15.5%に達しており、このまま設備投資の拡大が続けばそろそろ設備投資の拡大が頭打ちになる可能性もあると考えられた。しかし、基準改定後の比率は14.3%に過ぎない。
 

 


GDP統計は実質経済成長率だけに目を奪われがちであるが、GDPの中身など経済の構造を分析するための重要な資料でもある。内閣府は近年積極的にGDPの推計方法の改善に取り組んでいるが、このように経済像が大きく変わってしまうことが起こったことからすれば、今後も同じことが発生しないように推計方法の見直しが必要ではないだろうか。もちろんこうした対応を行っていくために、諸外国に比べて貧弱なGDPの作成体制を強化していくことも必要だろう。公務員の削減が叫ばれることが多いが、増員が必要な分野があることも忘れてはならない。
 

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

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マクロ経済・経済政策

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