コラム
2005年04月18日

企業は誰のもの~配当性向引上げ株主に利益還元を

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

文字サイズ


1.株主を重視した経営

ニッポン放送の経営権をめぐるフジテレビジョンとライブドアの争いは、オセロゲームのように目まぐるしく情勢が変わる。直接関係のない見物人にとっては、次の展開はどうなるのか、ハラハラ・ドキドキで、まるでドラマを見ているようである。こうした野次馬的な興味だけではなく、そもそも会社は誰のものなのかという点についても国民各層の議論を呼んでおり、今回の問題は考えさせられるところが多い。

今回の買収劇を機に、企業経営者には敵対的買収への防衛策づくりを急ぐ動きも目立つ。専門家らを招いて対策指南を受けたり、買収者の議決権比率を低下させるポイズンピル(毒薬)条項の導入を検討したりするなど具体的な取り組みも始まっているようだ。

フジテレビジョンもライブドアによる買収を防ぐため、年間配当を大幅に増やして5000円にすることを決めたという。こうした企業防衛としての増配や復配の動きが広がりをみせており、東京証券取引所1部上場企業の中には、2004年度に増配や復配を決めた企業が多数ある。業績が回復した企業ばかりでなく、減益や業績を下方修正した企業でも増配に踏み切るところがあり、敵対的なM&A(企業の合併・買収)に対する防衛策という性格がかなりあると言えるだろう。企業は一斉に、「株主を重視した経営」に舵を切り出したように見える。


2.求められる配当性向の引き上げ

企業経営者が株主に報いる方法としては、しばしば株価の上昇が挙げられる。確かに保有している株の価格が上昇すれば株主は利益を得るが、それは実現された利益ではない。株主が株価上昇の利益を現実に手にするためには、保有している株を売却して株主をやめなくてはならない。株価の上昇だけでは必ずしも多くの株主を満足させることにはならないのではないか。

配当が増えれば、株式を保有することで今までよりも多くの利益を手にすることができる。株主は株を売却しなくても実際に利益を手にすることができるようになるから、今までよりも長期にわたって株を保有することになるだろう。十分な配当で利益を株主に還元せずに必要以上に企業内部に資金をため込めば、買収のターゲットになりやすいから、適切な配当を行うことは買収の誘因を少なくすることにもなる。配当を増加させることで、買収のリスク自体を低下させるとともに安定株主を増加させることにもなり、企業にとって買収を防ぐ一石二鳥の効果が期待できる。

高度成長期のように、設備投資によって企業の売上げや利益の高い伸びが期待できた時代には、利益が上がってもそれを配当として株主に還元してしまうよりは、企業内にとどめて設備投資資金に充てれば次の年にはより多くの利益を上げることができた。株主にとっても受け取った配当を預貯金などで運用するよりは、そのまま会社に再投資してもらった方が収益率は高かったということも事実である。しかし、日本経済もそして企業も成熟し、成長速度が低下してきた現在では、配当によって株主に利益を還元することを企業も日本経済全体としても、もっと重視すべきではないか。

バブル景気の時期には企業は高い利益を上げたのだが、それらは多くは内部留保に回された。企業の内部に残った資金が有効に活用されて更なる利益を生めば問題はなかったのだが、それらは土地、株式などの購入に使われたり、設備投資に使われたものの結局利益には結びつかなかったりして、株主が当然受けるべき配当金としては株主の手元に戻ってくることはなかったのである。


3.配当二重課税の解消を

メインバンク制の下で、金融機関や事業会社の株式の持ち合い構造が堅固であったために、日本では株主への利益還元問題はともすれば軽視されがちであった。持ち合いが崩れつつある現在でもこの状態が改善されず、米国企業に比べて配当性向が明らかに低いという状況につながっていると考えられる。バブル崩壊によって日本企業は過剰債務問題に苦しむことになり、これまでは過剰債務解消のために利益を債務削減に当てざるを得なかったということもあったが、過剰債務問題は大幅に改善してきている。企業の利益をどうやって株主に還元するかという問題は、企業収益の改善をどうやって家計所得の増加につなげ、消費の拡大にまで結びつけるかという、日本経済全体の運営に関わる問題でもある。

 


企業の買収がすべてに問題があるわけではないし、むしろ日本経済の活力の維持のためには正当な手段で企業の買収や合併が進むような制度の整備も必要である。しかし、日本企業が株主に対して配当で報いるということをしてこなかった背景には、配当に対する二重課税問題があり、これが必要以上に配当を避けて内部留保に向かわせてきた原因となっていることも確かだろう。敵対的買収の問題は、法律の整備など制度の議論が中心だが、経済的な側面についても議論や見直しが必要ではないだろうか?


 

このレポートの関連カテゴリ

42_ext_01_0.jpg

経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

レポート

アクセスランキング

【企業は誰のもの~配当性向引上げ株主に利益還元を】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

企業は誰のもの~配当性向引上げ株主に利益還元をのレポート Topへ