2003年12月16日

情報通信技術が支える新しいワークスタイル -テレワーク増加とオフィス需要への影響

  松村 徹

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「2003年問題」をきっかけにビル事業のあり方が見直されているが、IT(情報通信技術)によるオフィス需要の変化にも注目すべきである。そのひとつが、オフィス床や電気容量など設備仕様に対する要求水準の高度化であるのはいうまでもないが、もうひとつはITが新しいワークスタイルを生み出しつつあることだ。特に、オフィス空間や勤務時間に拘束されないテレワークという働き方は、これからのオフィス需要動向に一定の影響を与える可能性がある。

いまや、会社員が自社オフィス以外の場所、たとえば電車内やカフェ、あるいは自宅でパソコンを使って仕事をする姿はそれほど珍しい光景ではない。また、海外出張の飛行機内でパソコンを操作する会社員や、客先でパソコンを使って見積書を作成する営業担当者も、すべてテレワーカーといえる。

テレワークは1980年代後半から一部で注目されていたものの、当時は固定式電話とファックスしか情報通信手段がなく、パソコンも大型で高価だったため、ほとんど実験の域を出なかった。しかし、ポータブルで高性能なパソコンや携帯電話、インターネットが普及し、高速で低廉な情報通信網が整備されたことで、テレワークは現実のものとなった。

国土交通省の調査によれば、2002年時点で企業等の雇用者のうちテレワークを行っている者は、全国で311万人(うち首都圏は144万人)にのぼり、雇用者に占める割合は5.7%(同7.6%)と推計されているが1、今後、その割合はさらに高まると考えられる。では、このようなテレワーカーの増加は、オフィス需要にどのような影響を与えるのであろうか。

まず、現在数%にすぎないテレワーカー率が今後高まるとしても、時間や場所に制約されず個人単位で行える業務は限られている。ITの進展を前提にしても、少なくとも近未来的には、オフィスに社員が集まり、直接コミュニケーションを行いながら作業する業務が企業活動の中心であることに大きな変わりはないと考えられる。特に経営中枢的業務を行う本社においてそのような傾向が強く、交通利便性の高い都心部のオフィス需要がなくなることはありえない。そもそも、自宅やカフェなどと比べれば、執務スペースとしての利便性や快適性、安全性(情報のセキュリティも含め)でオフィスビルの方が優れているはずで、テレワークは主たるオフィスワークの補助的な位置づけとならざるをえない。

また、テレワークが通勤時間や在宅時間を使った残務処理の目的でしか利用されない場合(テレワークが労働強化に利用されており、好ましい事ことではないが)、主たるオフィススペースに影響はない。

これに対し、営業活動でテレワークが利用される場合、営業の効率化や顧客密着度の向上が期待できるうえ、在席率の低下した営業拠点スペースの削減や店舗の統廃合が進む可能性が高い。すでに、営業部門の個人用デスクをなくして共用化するフリーアドレスデスク方式を導入し、都内のオフィススペースを大幅に削減した企業がある。また、テレワーカーが企業から独立して起業するのであれば、SOHO的なオフィス需要が増加する可能性もある。

しかし、何よりも、老若男女や居住地の遠近を問わないテレワークは、優秀な人材の流出を防止し、新しい人材確保に結びつく点にこそ注目すべきである。テレワークを導入することで、出産や子育てのため会社を離れざるをえない人、病気や家族の介護などで休職を余儀なくされている人、家庭の事情で地方に転居せざるをえない人など、都心部オフィスでの通常勤務が難しい事情を持つ優秀な人材を、企業は失わずにすんだり、新たに確保したりすることが容易になるのである。

人口減少・高齢化によるオフィスワーカー数の減少を目前にした現在、家庭や地域に潜在化している人材をテレワークによってオフィス市場に招き入れる意味は大きい。また、子育て環境や居住環境を重視するテレワーカーの増加は、企業や居住者の都心回帰で地盤沈下する郊外や地方の活性化にも貢献すると期待できる。

※ 日刊建設工業新聞2003年12月15日『所論/諸論』に加筆したもの

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