1998年03月25日

情報通信産業の発展と課題 -その全体像からの一考察-

社会研究部 准主任研究員   青山 正治

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1.
80年代末から米国ではIT(Information Technology:情報技術)革命を背景に飛躍的な情報化が進み、日本の産業界もその影響を受けマルチメディアの情報環境構築へ向けて動いている。米国のIT革命の背景には、80年代を通して進められた「強いアメリカの再生」を実現するための、産業の国際競争力強化の動きと知的所有権保護強化の国際的な枠組み作りの二つの流れが存在した。さらに、パソコン(以降PC)を中心とする多数のベンチャー企業群の登場と90年代中期のインターネットの世界的普及がIT革命を加速した。この米国の動きに追随し、世界の多数の国が情報通信産業を中核に据えた産業政策を始動している。
2.
日本においても90年代に入り米国の情報革命が注目されるところとなり、企業の情報化やマルチメディア化を実現可能とする情報インフラ構築に一段と力が注がれる状況となっている。将来のマルチメディアの情報環境はネットワーク産業群をベースにコンピュータや半導体産業が一体となり、高度の情報インフラ環境を形成することが期待されている。この情報環境を利用したメディア産業群やコンテンツ産業群、さらに既存産業の中でもITを高度に活用する産業・企業が長期的な成長過程を迎えることが予想される。しかし、世界的な規制緩和と変化の激しい技術革新により、当該産業内においても国内外で激しい市場競争が起き、国際的なM&Aを伴った業界再編が常態化することも予想される。
3.
今後の日本における情報化の発展段階は、大きく3段階が想定されよう。その第1段階は93年前後から始まったPCとインターネット普及のブーム期であり、第2段階は2000年頃から本格化するデジタル放送やデータ放送といったワイヤレス系の膨大な情報配信ネットワークの構築期、第3段階は2010年前後にこれらケーブル系とワイヤレス系のネットワークが有機的に結ばれ、エレクトロニック・コマース(電子商取引)が本格化する時期である。この第3段階では安全性が確保された電子マネーが幅広く活用され、企業間取引や企業と個人、個人間の多種多様な経済的活動が行われる可能性が高い。IT革命はまだ入り口段階にあり、経済的な外部要因を除外すれば、多少の紆余曲折はあったとしても少なくとも今後10年は急激な技術革新の時期が続き、世界規模の情報通信産業革命が進展すると予想される。
4.
今後の日本の情報化にとっての課題をマルチメディア産業と社会の全体像から考察を加えると、2~3年前には米国などに遅れていた情報環境もかなり改善され、家庭へのPC普及率も20%を超える水準となってきている。家庭における情報化進展の課題は、一般家庭で必要とされる「生活必需情報」やアプリケーションの供給不足が挙げられる。この点では地方公共団体などによる行政サービスを提供する環境の充実や、一般家庭の生活に密着した問題解決型の情報サービス提供を強化することが有益であると考えられる。また、プラットフォーム普及の課題としてさらなる「操作性改善」や「価格改善」の必要性があり、その企業側の取り組み強化の契機となるかもしれない米国の「1000ドルパソコン」の今後の動向に注目する必要がある。
5.
産業・企業の情報化の課題としては、充実してきている情報環境を徹底的に活用し、企業の活性化や企業収益の向上を実現する活用手法を企業自らが戦略立案し、実行することが必要な段階に入っている。今後、情報化の効用を効率化や生産性の改善、新規事業の創出といったかたちで実現しなければ、折角の情報化投資を無駄にするばかりか、継続的な投資が必要な情報化投資が抑制され、ハード・ソフトは時間とともに陳腐化して投資回収不能となる可能性もあろう。このため、一例としてERP(統合業務パッケージ)などのシステム導入による業務の革新も考えられる。このほか、将来的課題としては情報化・マルチメディア化が順調に進展した場合、エレクトロニック・コマース(EC)が広く普及する可能性がある。その準備段階として企業はパイロット事業を立ち上げ小規模にEC事業を開始し、ユーザーとの双方向のコミュニケーションを緊密化し製品開発に繋げる手法や製品・サービス販売のノウハウを蓄積することが、現時点における対応策となろう。
6.
今後、産業・企業の活性化や新たな産業の成長を促進するために、情報化の進展する環境を積極的に活かすことが課題となってきている。日本の情報化をさらに促進するためには、その目的や効用を明確でかつ分かりやすい形で社会全体に浸透させる必要があり、日本の情報化を社会全体で議論する時期を迎えている。また、知的所有権を尊重することが情報化社会のルールであり、新たな創造的知的産物の創出を可能とし、その恩恵に浴することが可能となるという情報社会のための社会教育も必要であろう。 情報化自体はツールや手段であって、情報化の正負の効用を決定する責務は、情報化の主体である人や組織、その社会自身にかかっている。

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社会研究部   准主任研究員

青山 正治 (あおやま まさはる)

研究・専門分野
少子高齢社会・社会保障

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