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2024年05月17日

マレーシア経済:24年1-3月期の成長率は前年同期比+4.2%~堅調な個人消費と輸出の回復により成長加速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比4.2%増1(前期:同2.9%増)と上昇し、市場予想2(同3.9%増)と4月にマレーシア統計局が発表した暫定値(同3.9%)を上回る結果となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大と純輸出の改善が成長率上昇に繋がった。

民間消費は前年同期比4.7%増となり、前期の同4.2%増から上昇した。また政府消費も前年同期比7.3%増(前期:同5.8%増)と上昇した。

総固定資本形成は同9.6%増(前期:同6.4%増)と上昇した。建設投資が同10.7%増(前期:同4.2%増)と加速したほか、設備投資が同9.2%増(前期:同9.7%増)と好調を維持した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同9.2%増(前期:同4.0%増)と加速したほか、公共部門が同11.5%増となり前期の同11.3%増に続いて二桁成長だった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.4%ポイント(前期:▲4.0%ポイント)となり、マイナス幅が縮小した。まず財・サービス輸出は同5.2%増(前期:同7.9%減)と回復した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同1.0%増)が小幅に増加したほか、サービス輸出(同33.8%増)の大幅な増加が続いた。また財・サービス輸入も同8.0%増(前期:同2.6%減)と大きく上昇した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、堅調な第三次産業と第二次産業の回復が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比4.7%増(前期:同4.1%増)と上昇した。運輸・倉庫(同11.0%増)と宿泊業(同12.1%増)が二桁増となり、不動産・ビジネスサービス(同8.8%増)や政府サービス(同4.6%増)、が堅調に拡大した。一方で金融・保険(同0.1%増)が低迷し、卸売・小売(同3.8%増)と食料・飲料(同3.5%増)、情報・通信(同2.9%増)が伸び悩んだ。

第二次産業は前年同期比1.9%増(前期:同0.3%減)と上昇した。まず鉱業は同5.7%増(前期:同3.5%増)となり、原油(同1.3%増)が鈍化したものの、天然ガス(同8.9%増)の好調に牽引された。また建設業が同11.9%増(前期:同3.6%増)と好調だった。製造業は同1.9%増(前期:同0.3%減)となり、3四半期ぶりのプラス成長だった。内訳を見ると、動植物性油脂(同9.9%減)が急減したほか、主力の電子機器(同0.2%減)と化学製品(同0.1%増)、石油製品(同0.4%増)、輸送用機器(同1.9%増)が停滞したが、金属製品(同10.4%増)やゴム製品(同5.6%増)、食品加工(同4.7%増)が順調に拡大した。

第一次産業は同1.6%増(前期:同1.9%増)と緩やかな伸びにとどまった。シェアの大きいパーム油(同2.5%増)や畜産(同4.5%増)、漁業・養殖業(同3.5%増)が回復したものの、その他農作物(同0.3%増)が鈍化した。
 
1 2024年5月17日、マレーシア中央銀行が2024年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は、2023年は輸出低迷やペントアップ需要の押し上げ効果の剥落による内需の鈍化により通年の成長率が同+3.7%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+8.7%から低下した。そして今回発表された2024年1-3月期の成長率は前年同期比+4.2%と、2023年10-12月期の同+2.9%から上昇、1年ぶりに4%台の成長となった。

1-3月期の成長率上昇は堅調な内需と輸出の回復による影響が大きかった。まず内需はGDPの6割を占める民間消費が同+4.7%となり、安定した雇用・所得環境やインフレ圧力の軟化を受けて堅調に拡大した。コロナ禍からのサービス業の回復が続いており、2024年3月の雇用者数が前年同月比1.9%増の1,653万人、失業率もコロナ禍前と同程度の低水準で推移するなど雇用情勢は安定している(図表3)。また10-12月期の消費者物価上昇率は前年同期比+1.7%(10-12月期の同+1.6%)と低インフレが続いており、実質所得の向上が消費の追い風となったとみられる。

また総固定資本形成は同+9.6%(前期:同+6.4%)から加速した。半導体市場の世界的な回復の動きや米中対立の激化に伴う多国籍企業のチャイナ・プラスワン戦略による投資の流入などから民間投資が同+9.2%(前期:同+4.0%)と加速した。公共投資も同10.7%増も好調を維持した。

外需の悪化が和らいだ。低迷が続いた財輸出は1-3月期に下げ止まり、5四半期ぶりのプラス成長となった。もっとも財輸出の伸びは同+1.0%と小幅であり、上向いてはいない。またサービス輸出(同+33.8%)はインバウンド需要の回復により大幅な増加が続いた。マレーシアでは2022年4月以降、入国規制が段階的に緩和されており、昨年12月には中国人とインド人に対して最大30日間のビザなし入国を認めたことで国際線旅客数がコロナ禍前の約9割の水準まで回復している(図表4)。
(図表3)マレーシア雇用統計/(図表4)マレーシア国内空港旅客数
1-3月期のGDPは市場予想を上回る結果だったが、労働市場の回復は頭打ちの兆候がみえるほか、低下が続いたインフレ率も上向きつつある。今後も緊縮的な財政政策、緩慢な輸出の伸びが続くとみられるほか、金融引き締めにより金利が高水準にあるため家計債務の膨張や新たな燃油補助制度による燃料価格の値上がりが懸念され、4-6月期以降も景気回復が続くようにはみえない。しかしながら、マレーシアはGDPに占める輸出の割合が7割強と高い国であり、輸出の底入れは好感できる。マレーシア政府の成長目標(4~5%)の達成が視野に入るかどうかは輸出の回復がカギを握るだろう。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年05月17日「経済・金融フラッシュ」)

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