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2025年10月23日

EIOPAがソルベンシーIIのレビューに関する技術基準とガイドラインのセットの新たな協議を開始等

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1―はじめに

EU(欧州連合)におけるソルベンシーIIの見直し(レビュー)を巡る動きに関しては、基礎研レポート「EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化-」(2025.1.21)で、「レベル1」のソルベンシーIIの改正指令が最終化したことを報告した。また、そのレポートの中で、「レベル2以下」の委任規則、実施基準、ガイドライン等の改正等についても、欧州委員会やEIOPA(欧州保険年金監督局)における検討状況等について報告した。さらに、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIのレビューに関する助言のいくつかを提出-欧州委員会からの要請に対する回答-」(2025.2.19)で、EIOPAが1月30日に、欧州委員会からの要請事項のいくつかに対して提出した助言について報告した。これらの意見も踏まえて、欧州委員会は7月18日に、委任規則の改正案を公表している1。加えて、EIOPAは、7月14日に、ソルベンシーIIのレビューに関する最初のRTS(規制技術基準)(案)と改訂ガイドラインのセットを欧州委員会に提出しているが、これについても、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIのレビューに関する最初のRTS(案)等のセットを欧州委員会に提出等」(2025.8.4)で報告した。

EIOPAは、10月9日に、ソルベンシーIIの見直しに関する新たな協議を開始し、新規及び改訂された技術基準とガイドラインの案を公表2した。また、10月14日に、ソルベンシーIIの見直しを通じて導入された法改正に対応して、新たなガイドラインと既存のガイドラインの改訂を公表3した。

今回のレポートでは、これらのEIOPAによる提案及び最終化されたガイドラインについて、EIOPAの公表内容に基づいて、その概要を報告する。

2―EIOPAによる新規及び改訂された技術基準とガイドラインの案

2―EIOPAによる新規及び改訂された技術基準とガイドラインの案

今回、EIOPAは、改訂されたITS(実施技術基準)2件、改訂されたガイドライン2件、新たなRTS(規制技術基準)1セット、新たなガイドライン1セットの合計6件の協議を開始している。

技術基準の見直しは、指令2009/138/EC(ソルベンシーII指令)の見直しの結果及び欧州委員会委任規則 (EU) 2015/35の修正案との整合性を確保するために必要となっている。また、ソルベンシーII指令の見直しに関連して、EIOPAは同指令に関する既存の全てのガイドラインを見直す。ただし、これらのガイドラインの数が多いことから、見直しは順次行われる。見直しの主な目的は、ガイドラインが最新で、ソルベンシーIIの見直しによって修正された法的枠組みに沿っていることを確保することにある。さらに、特にガイドラインが(再)保険会社に関連する場合に、ガイドラインを簡素化及び短縮することにある。ソルベンシーIIに関するガイドラインは年々拡大しており、ソルベンシーIIの見直しにより、EIOPAは追加のガイドラインを発行することが義務付けられている。EIOPAは、ガイドラインは、ソルベンシーIIの健全かつ一貫した適用を確保するために厳密に必要なものに限定されるべきであると考えている。

この一連の協議における全ての改訂は、EIOPAの規制簡素化と負担軽減に向けたバランスの取れたアプローチに沿ったものであり、特に、改訂されたガイドラインに関する提案には、ガイドラインの数を少なくとも25%削減することが含まれている。

なお、以下の提案は、欧州委員会が7月18日から9月5日まで諮問した欧州委員会委任規則の改正案を考慮に入れており、最終的な技術基準は、欧州委員会委任規則の最終的な改正に基づくことになる。

また、これらの提案に対するコメントの提出期限は2026年1月5日となっている。コメントを踏まえての最終案のうちの技術基準については、欧州委員会に提出されていくことになる。
1|監督当局向け開示テンプレートに関するITSの改訂4
欧州委員会実施規則 (EU) 2015/2451は、指令2009/138/ECに従って、監督機関による特定情報の開示のテンプレート及び構造に関するITSを定めている。この ITSに関する協議で、EIOPAは、新しい比例枠組みの適用に関して監督当局からの追加開示を要求する等、ソルベンシーIIの進行中の見直しにおいて欧州委員会が行う予定の改正を含む、近年の関連規制文書に加えられた改正を反映した、対象を絞った調整を提案している。

技術基準の付属書に対しては、以下の変更が提案されている。

・主要な損失吸収メカニズムの適用に関する2019年の欧州委員会委任規則 (EU) 2015/35の附属書XXIの改正を反映。

・実施規則 (EU) 2015/2450を廃止する実施規則 (EU) 2023/894を反映し、報告テンプレートの編集上の誤りを訂正するために更新。

・国内監督機関によるオプションの行使のリストに関するソルベンシーII指令の改正を反映。
2|マッチング調整の取扱いに関するITSの改訂5
欧州委員会実施規則 (EU) 2015/500は、マッチング調整(MA)の適用の監督上の承認のために従うべき手続きに関するITSを定めている。

EIOPAは、マッチング調整の承認手続きに関して、特定の変更が必要であると考えている。これには、リングフェンスされていないMAポートフォリオによる完全な分散投資をソルベンシー評価において考慮できること、及び保険会社がMAの流動性計画と流動性リスク管理計画を組み合わせることができることを反映するための調整が含まれる。

これらの改正後、マッチング調整を利用する(再)保険会社は、対応する(再)保険債務の最良推計をカバーする資産のポートフォリオがリングフェンス型ファンドを形成している場合を除き、ポートフォリオの資産及び負債と会社の残りの資産との間の完全な分散を想定して、ソルベンシー資本要件を計算することが認められる。対象を絞った技術基準の変更がいくつか提案されている。

・リングフェンス型ファンドではないマッチング調整ポートフォリオによる完全分散化が考慮され得ることを反映。

・改正されたソルベンシーII指令が、(再)保険会社がマッチング調整のための流動性計画を流動性リスク管理計画と組み合わせることを認めていることを反映。

・ITSの文言におけるいくつかの編集上の誤りを修正。

・欧州委員会委任規則 (EU) 2015/35の改正案が、資産のマッチング調整割当ポートフォリオに含める再構築資産の適格性に関する基準を定めていることも反映。
3|技術的準備金の評価に関するガイドラインの改訂6
技術的準備金の評価に関する現行のガイドラインは2015年に発行された。ガイドラインの実際の適用に基づき、いくつかの改善点が確認されている。最良推計の評価に関するガイドラインは2022年に改訂され、2023年から適用されている。したがって、今回の改訂では、ソルベンシーIIの見直しに起因する、技術的準備金のリスクマージンの計算に関するガイドライン、即ちガイドライン50、61、62及び63、ならびに技術付属書IV及びVIに焦点が当てられている。

具体的には、ソルベンシーIIの見直しでは、リスクの時間依存性を考慮し、特に長期負債のリスクマージンを削減するために、リスクマージンの計算に指数的かつ時間依存的な要素(いわゆる「ラムダ要因」)が導入されており、これにより、金利変動に対するリスクマージンの感応度も低下している。ガイドライン62及び技術付属書IVは、このような要因の導入を考慮して改訂される。

また、ガイドラインを簡素化するため、ガイドライン61及び技術付属書VIを削除する。これは、削除されたガイドラインが提供するガイダンスがソルベンシーIIの法的規定から十分に明確であり、他のガイドラインに包含されていることによる。本文の明確性を向上させるため、ガイドライン50及び62にさらなる改訂草案が導入される。

なお、ガイドラインの改訂は、明確化及び簡素化のみを目的としており、監督上の期待を低下させる意図はなく、また法的枠組みの新たな解釈又は適用を提供するものではない、したがって、改訂は、保険契約者、保険業界又は監督当局に重大な影響を及ぼすとは予想されない、としている。
4|リングフェンス型ファンドに関するガイドラインの改訂7
リングフェンス型ファンドに関するガイドラインの見直しにより、いくつかのガイドラインの削除と、矛盾点を解消するための特定の法的参照の更新が提案され、ガイドラインの総数は29%削減される。さらに、ガイドラインの改訂は、ソルベンシーIIの見直しに伴い、全てのMAポートフォリオがリングフェンス型ファンドとして扱われるわけではないことを反映している。

リングフェンス型ファンドに関する現行のガイドラインは、2015年から適用されている。指令 (EU) 2025/2の前文第53項では、マッチング調整を使用する(再)保険会社は、対応する(再)保険債務の最良推計をカバーする資産のポートフォリオがリングフェンス型ファンドを形成する場合を除き、ポートフォリオの資産及び負債と契約の残りの部分との間の完全な分散の仮定に基づいてSCRを計算することが認められるべきであると述べている。この一般的な方向性に従い、欧州委員会は、欧州委員会委任規則 (EU) 2015/35の第70条、第81条、第216条、第217条及び第234条におけるマッチング調整ポートフォリオへの言及を削除することにより、同規則を適宜修正する予定である。法的枠組みとの矛盾を回避するために、リングフェンス型ファンドに関するいくつかのガイドラインで一貫した変更を実施する必要がある。さらに、EIOPAは、削除又は簡素化できるいくつかのガイドラインを特定している。
5|リスクマージンの簡略化された計算に関するRTS8
これらの RTSは、リスクマージンの簡略化された計算に関するレベル2規定におけるリスクマージンの一般的な計算に関して欧州委員会が実施しようとしている変更を反映している。

この協議は、欧州委員会委任規則 (EU) 2015/35第58条を改正するRTS案を提示している。欧州委員会は、欧州委員会委任規則第37条第1項に規定された技術的準備金のリスクマージンの計算式を変更しようとしている。第58条は、その式の構成要素に言及しており、それに応じて変更する必要がある。欧州委員会委任規則の第58条への変更案の目的は、欧州委員会が行おうとしている委任規則第37条の変更との整合性を保つことにある。
6|流動性の脆弱性に関する監督権限に関するガイドライン9
EIOPAは、ソルベンシーII見直しにより、企業の流動性管理における欠陥に対処するための監督措置に関するガイドラインを策定することが義務付けられた。この新たなガイドライン案は、監督官が企業の流動性ポジションを強化するために行使できる権限の形態、行使方法、範囲を概説し、償還権を一時的に停止できる条件を規定している。

このガイドラインは、ソルベンシーII指令の見直しに関連して策定された。指令 (EU) 2025/2により導入された新たなソルベンシーII指令第144b条第8項は、EIOPAに対し、ESRB(欧州システミックリスク理事会)との協議の後、(a) 流動性リスク管理の不備に対処するための措置、ならびに流動性リスクが特定され、事業者によって適切に是正されていない事業者の流動性ポジションを強化するために監督当局が行使できる権限の形態、発動及び較正、(b) 償還権の一時的停止を正当化する例外的な状況の存在、(c) 最後の手段としての償還権の一時的停止がEU全体で一貫して適用されることを確保するための条件、ならびに全てのホーム国及びホスト国の管轄区域において保険契約者を平等かつ適切に保護するために考慮すべき側面をさらに特定したガイドラインを策定することを義務付けている。

このような背景の下、このガイドラインは、ソルベンシーII指令第144b条の一貫した適用を確保すべきであり、特に、(再)保険会社が、ストレス下であっても、支払期日が到来したときに保険契約者及びその他の相手方に対する金融債務を決済するために十分な流動性を維持することを確保すべきとしている。

3―EIOPAによるガイドラインの新設及び改訂

3―EIOPAによるガイドラインの新設及び改訂

EIOPAは、2025年10月14日に、ソルベンシーⅡIIの見直しを通じて導入された法改正に対応するものとして、新たなガイドラインと既存のガイドラインの改訂を公表した。これらのガイドラインは、2027年1月30日から適用される。
1|AMSBメンバーの選出における多様性の概念に関するガイドライン10
ソルベンシーIIの見直しに伴う改正では、(再)保険会社に対し、AMSB(管理・経営・監督機関)における多様性を促進する方針の策定を義務付けており、これには男女比に関する定量的な目標の設定も含まれていた。さらに、この改正では、EIOPAに対し、多様性の概念に関するガイドラインの策定を求めていた。

これを受けて、このガイドラインは、AMSBの新規メンバーの選出時や継続時で、学歴や職歴、年齢、性別、地理的出身に基づいて、(再)保険会社の上級管理職の構成の多様性を促進することを目的としている。
2|市場シェア報告に関するガイドラインの改訂11
既存の枠組みをソルベンシーIIの見直しにより導入された法改正と整合させるために、監督報告のための市場シェアを決定する方法に関するガイドラインを改訂している。改訂ガイドラインには、監督当局及び(再)保険会社のプロセスと役割をさらに明確にするための修正が含まれており、これにより監督上の報告の制限及び免除を認めるソルベンシーII指令第35a条に規定されたオプションの利用を促進する。さらに、改訂ガイドラインは簡素化されている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが、10月9日に公表した、ソルベンシーIIの見直しに関する新規及び改訂された技術基準とガイドラインの協議案、及び10月14日に公表した、ソルベンシーIIの見直しを通じて導入された法改正に対応した新たなガイドラインと既存のガイドラインの改訂について、EIOPAの公表内容に基づいて、その概要を報告した。

EUのソルベンシーIIの見直しを巡る動きについては、関係者にとって関心の高い事項となっていることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月23日「保険・年金フォーカス」)

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