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保険会社の再建・破綻処理における実務基準の市中協議(欧州)-欧州保険協会からの意見

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
1 Insurance Europe responds to EIOPA’s IRRD public consultations (2025.8.13 Insurance Europe)
https://www.insuranceeurope.eu/news/3395/insurance-europe-responds-to-eiopa-s-irrd-public-consultations
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――意見書の内容
予防的再建計画とは、保険会社が経営危機に陥ったと仮定した場合の潜在的な脅威を特定し、いち早く回復を図るために事前に準備しておく対応策であるが、こうした計画については、計画が満たすべき最低限の要件について、欧州内で統一されたものが必要であると考える。しかし、今のところその要素の多くが各国の破綻処理監督機関の解釈に委ねられているのが現状である。特に、システミックなリスクへの対応を重視しすぎると、その悪影響がさほど広く及ばない保険会社にまで過度な負担となる恐れがある。この点に関してはプロポーショナリティを考慮したものにすべきである。
また規制の導入時期について、当初案では2年後にすべての規制を一斉に導入することになっているが、それは拙速であり、数年かけて順次導入していくべきであると考える。
潜在的な破綻処理シナリオにつき必要な情報を、破綻処理監督当局が入手できるようにしておくことには賛同するが、現在提案されている内容では、以下に挙げるような、保険会社に過大な事務処理負荷があると懸念される。
・破綻処理可能性を検証するための、数年に及ぶテストプログラムの実施
・自社の破綻処理可能性評価報告書の作成
・複数の計画書の作成
・複数の国にまたがる破綻処理の実施における障壁の特定
・破綻処理開始時に対象保険契約を明確化するための詳細な情報の提供
またこれら事務負担にかかるコストも定量的に分析する必要がある。
予防的再建計画の作成義務がある保険会社の範囲について、現在、「市場カバレッジが60%に達するまでの大会社」というガイドライン案となっていることには賛同する。しかし、各国の事情により、別途監督当局による対象保険会社を追加することについては、例外的な場合に限って可能であると、EIOPAが明示すべきである。
市場カバレッジの具体的な算出方法は今のところ不明確だが、複数の国にまたがる活動をしている保険会社の取り扱いに留意すべきである。また、複数の国にまたがる活動が本質的であると考えられる再保険事業は、むしろリスク分散のツールであり、リスク増大の指標とみなすべきではない。
以下のような懸念がある。
・予防的再建計画に求められる要件が広範すぎる点について
予防的再建計画に求められる内容が広範囲に及ぶことから、当初計画の策定やその後の更新作業に保険会社に多大な作業負荷をかけることになる。要求されている情報のうち、現在の継続的な監督の中で既に得られているものは不必要であり、かつプロポーショナリティが考慮されるべきである。具体的な事例の中で別の分析が必要な場合があることは容認できる。
・再建計画に必須とはいえない重要な機能
重要な機能の特定(すなわち、保険、再保険、資産運用などのどこまでを含めるか)は、破綻処理当局から通常の監督当局に提供されているので、予防的再建計画の中に含める必要はない。
・再建計画の言語
複数の国にまたがる事業を展開する保険グループの再建計画は、英語またはグループの共通言語で記載すべきである、と明記すべきである。
・保険会社単体レベルとグループレベルの範囲の明確化と重複の回避
原案においては、保険会社単体に関する要請と保険グループへの要請があいまいであり、かつ既存のソルベンシーIIにおける情報の利用可能性が考慮されないまま、新たな要件やその文書化を課そうとしているように見える。ソルベンシーIIとの整合性やプロポーショナリティの適用などを考慮するよう強く要請する。
・国際基準との整合性
保険監督者国際機構(IAIS)がすでに提示している再建計画に関する要件は、よりプロポーショナルで柔軟である。これと整合的にすることにより、過度の事務負担を回避しつつ、公平な競争条件を保つことができると考えられる。
・最初の予防的再建計画の策定時期
現在提案されている予防的再建計画の範囲が広範であるため、最初の計画の策定は、(現在予定されている2027年1月からの適用には無理があり)どんなに早くても2029年とすべきである。また、この計画は継続的な更新が必要であり、数年かけて微調整される要件も見込むべきである。
・保険グループの取り扱い
既に銀行の再建・破綻処理指令の対象となっている銀行・保険グループについては、保険サイドの計画はグループ内最上位が保険会社である場合にのみ適用されるとすべきである。でなければ、銀行と保険両方の指令を適用すると、不整合や矛盾の生じる可能性があると考えられる。その他に規定の複雑さを考慮して、保険サイドの再建・破綻処理指令の適用の簡素化が必要となるケースがでてくるのではないかと考えられる。
・その他
影響評価の定量的なコスト評価が必要である。以前にもコスト評価が実施されたことはあるが、今回の内容がより広範となっているため、新たに実施する必要がある。
各国の保険市場における重要な機能を特定するのは、各国の裁量と柔軟性を備えたものであるという点に賛同する。このことは各国における社会、金融市場における保険の役割に特徴や違いがあることから必要である。極端な場合、加盟国の事情によっては、「保険にさほど重要な機能はない2」という評価もあり得るが、それを許容することが重要である。
2 保険会社からの資金提供や資産運用などの規模が小さいなどのために、一般経済への影響が軽微、といった意味と考えられる。
3――おわりに
(2025年10月07日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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