NEW
2025年08月08日

トランプ関税後の貿易状況(25年8月更新版)

経済研究部 主任研究員 高山 武士

文字サイズ

1.トランプ関税を巡る概況

まず、前回のレポート1執筆後のトランプ関税を巡る状況を整理する(図表1、前回以降の主な変化は赤字で記載)。
(図表1)第二次トランプ政権下での関税政策(概要)
大きな動きとして、日本、EU、韓国、インドネシア、フィリピン、タイ、カンボジアと貿易交渉が合意されたと報じられた。日本、EU、韓国はいずれも米国への投資や米国からのエネルギー購入などを増やし、米国は相互関税のほか自動車関税を引き下げる(いずれも相互関税で15%)。インドネシア、フィリピン、カンボジアは対米関税率を基本的にゼロに、タイは米国産トウモロコシなどの無関税輸入枠の設置や米国からのエネルギー購入などを増やし、米国は相互関税を引き下げる(いずれも19%)。ただし、総じて詳細については不明な点が多く、米国と貿易相手国の主張が異なる部分も少なくない2

また、米国は相互関税の上乗せ税率の一部修正した上での再開、銅の半製品などへの関税付加、カナダへの関税強化(違法薬物対策の強化が不十分であることが根拠)、ブラジルへの関税強化(米企業や人権侵害による国家安全保障・外交・経済への緊急事態であることが根拠)、インドへの関税強化(ロシア産石油を輸入していることが根拠)、少額貨物輸入の関税免除(デミニミスルール)の適用停止などを公表、一部実施している。
 
1 高山武士(2026)「トランプ関税前後の貿易状況」『基礎研レター』2025-07-07
2 例えば、日本の場合は相互関税が15%になるとされたが、既存の関税に上乗せされるのか、既存関税と15%の高い方を採用するのかで日本側の説明と米国の説明で祖語がある。

2.米国の貿易収支、輸入額、関税収入

まず、米国の貿易統計から輸出入全体の動向を確認すると、25年6月の米国の貿易収支(図表2)は859億ドルの赤字で5月(▲973億ドル)から赤字幅が縮小した。6月も3月までの駆け込み輸入による増加は剥落している状況が続いているが、一段の輸入減は回避されている。
(図表2)米国の輸出入・貿易収支/(図表3)米国の輸入(金額ベース、前年比、寄与度)
次に輸入の推移を品目別に確認する(図表3・4)。

6月は自動車関税の対象となっている車両等(HS2桁コードで87)のほか1-3月期に駆け込み輸入が大きかった医薬品(30)・有機化学品(29)が前年比マイナスとなった。一方、機械類(84)や電子機器等(85)の輸入は前年比で大幅プラスの状況が継続している(図表3・4)。
(図表4)米国の輸入伸び率と寄与度(品目別、25年6月期)
(図表5)米国の輸入(金額ベース、前年比、寄与度) 続いて主要地域別3に輸入動向を確認すると、5月に続き6月も中国やカナダからの輸入減少をASEAN(特にベトナム)やNIEs(特に台湾)といったアジアからの輸入増が相殺している構図が続いている(図表5・6)。また、6月は5月時点で前年比プラスを維持していたEUがマイナスに転じている。
6月の米国の地域別輸入額は、減少が大きい地域では対中国の前年比▲44.5%、対南アフリカが▲30.6%、対ドイツが▲14.5%、対カナダは同▲13.7%、対アイルランドが▲10.9%、一方で増加が大きい地域では対ロシアの116.7%、対台湾の71.6%、対インドネシアの56.8%、対ベトナムの54.4%となっている(図表6赤丸)。
(図表6)米国の輸入伸び率と寄与度(主要地域別、25年6月期)
(図表7)米国の関税収入、関税率 続いて関税収入の動向を確認すると、6月の関税収入は財務省のデータでは266億ドルとなり5月(222億ドル)から増加した。国勢調査局が公表している推計値(Calculated Duty)では236億ドルと5月(242億)とほぼ同水準だった。推計値による関税率(=関税収入推計値/輸入金額)は8.9%となった(図表7)。
品目別や地域別の関税率を見ると4(図表8・9)、上昇している品目や地域の方が多く、品目別には鉄鋼製品(73)やアルミニウム・同製品(76)は関税率が25%から50%に引き上げられたこともあって大幅に上昇した。一方、中国からの輸入比率が高い品目である傘(66)や履物(64)などの日用品の関税率は、中国の関税率が引き下げられたために低下した。

なお、自動車を多く輸出している地域(日本、ドイツ、韓国)の関税率は高めだが、USMCA適合品の例外が設けられているカナダやメキシコにおける関税率は比較的抑制されている。6月の実際、米国の両国からの車両等(87)輸入のほとんど(カナダは90%以上、メキシコは60%以上)の関税率がゼロであり、車両等(87)にかかる6月の実効関税率はカナダで2.5%、メキシコで8.3%にとどまる。そのため、車両等(87)全体にかかる実効関税率も16.2%程度にとどまる。
(図表8)米国の関税率(品目別、25年4-6月期)
(図表9)米国の関税率(主要地域別、25年4-6月期)
また、各品目、地域別がどの程度全体の関税率の押し上げ(≒関税収入の増加)に寄与したのかを見ると(図表10・11)、品目別では自動車(87)、電子機器等(85)、機械類等(84)、地域別には中国、メキシコ、日本、韓国、ドイツの押し上げ寄与が大きい(関税収入の増加に寄与している)ことが分かる。
(図表10)関税率の変化に対する各品目の寄与(25年6月期)
なお、中国は関税率が大きく引き上げられる一方で、輸入が減少したことで輸入シェアが低下したため、輸入シェアが変化しなかった場合と比較して関税率の上昇がかなり抑制されている(図表11、貿易ウエイト変化および交差項の寄与がマイナスになっている)。
(図表11)関税率の変化に対する主要地域の寄与(25年6月期の前年差)
 
3 G20構成地域(EUおよびAUを除く)および米国の輸入シェアが大きいアイルランド、スイス、台湾、タイ、ベトナムを対象とした。
4 米国の輸入データから計算。なお、HS2桁コードで抽出しているため、実際に関税が課されている品目とは一致しない。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月08日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【トランプ関税後の貿易状況(25年8月更新版)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

トランプ関税後の貿易状況(25年8月更新版)のレポート Topへ