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インバウンド消費の動向(2025年4-6月期)-四半期で1千万人超・2兆円超が続くが、割安感が薄れて単価減少

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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2025年4-6月期の訪日外国人旅行消費額の総額について国籍・地域別に見ると、最多は中国(5,160億円、全体の20.4%)で、次いで米国(3,566億円、同14.1%)、台湾(2,915億円、同11.5%)、韓国(2,312億円、9.2%)、香港(1,358億円、5.4%)が続き、構成比は前年とおおむね同様である(図表7)。また、これらをはじめとした消費額の上位国では、おおむね前年同期を上回っており、なかでもロシア(+107.2%)、ドイツ(+70.7%)、イタリア(+64.4%)、ベトナム(+55.9%)での増加が顕著である。
例えば、韓国は2025年4-6月期の訪日外客数で首位の中国(全体の23.1%)に僅差で続くが(同20.7%)、平均宿泊日数(全目的で3.7日、観光・レジャー目的で3.3日)は全体(同9.4日、同7.4日)と比較して半分に満たない。このため、消費額は4位(全体の9.2%)にとどまっている。一方、米国は外客数では4位(全体の9.0%)であるものの、平均宿泊日数(同11.8日、同11.2日)が比較的長いため、消費額の構成比(14.1%)は外客数の割合の1.5倍程度となっている。
また、2025年4-6月期における国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、最多は英国(44万3,945円)で、次いでイタリア(39万7,911円)、ドイツ(39万6,160円)、豪州(39万5,448円)が続き、これらの4か国では40万円前後を占めている(図表略)。
4――訪日外国人旅行消費額の内訳~サービス7割超・モノ3割弱、欧米諸国はサービス消費が8割超
次に、訪日外国人旅行消費額の内訳を見ると、中国人による「爆買い」が流行語となった2015年頃には「買い物代」の割合が全体の4割を超え、消費項目の中で突出して高い水準にあった(図表8)。しかしその後、中国政府による関税引き上げに加え、サービス消費志向の高い欧米からの訪日客の増加を背景に、「宿泊費」「飲食費」「娯楽等サービス費」といったサービス消費の割合が高まっている。
一方、2024年には円安による割安感の高まりや、中国人観光客の回復が進んだこともあり、「買い物代」の割合は再びやや上昇傾向を示した。ただし、今期は(2025年4-6月)は、前述の通り、円高方向への為替変動などを受けて、「買い物代」の割合は再び低下している。
なお、インバウンド消費額が世界最大である米国においては、「買い物代」の割合は約2割にとどまり、大半が宿泊・飲食・娯楽等を中心としたサービス消費で構成されている(国土交通省「観光白書(令和6年版」)。なかでも「娯楽等サービス費」は13.5%を占め、日本の約3倍にのぼる。この背景には、特にナイトタイムエコノミー(夜間消費)に関連するサービスの不足が指摘されている3。夜間消費の拡大は訪日客1人当たりの消費額をさらに押し上げるうえで、今後の潜在的な成長余地となりうる。
3 久我尚子「インバウンドで考えるナイトタイムエコノミー-日本独自の夜間コンテンツと街づくりの必要性?」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2024/7/24)や観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」など。
2025年4-6月期の訪日外国人旅行消費額の内訳を国籍・地域に見ると、アジア諸国ではモノ消費が多く、欧米諸国ではコト消費が多い傾向が見られ、この傾向は過去も同様である(図表9)。
なお、「買い物代」、すなわちモノ消費の割合が圧倒的に高いのは中国(39.9%)で、全体平均を1割以上、上回っている(図表9)。次いで台湾〈33.3%〉、フィリピン(31.6%)、マレーシア(30.4%)、香港(30.0%)、タイ(29.7%)、シンガポール(26.9%)、インドネシア(26.5%)と続き、これらの国・地域はいずれも全体平均を上回り、「買い物代」の割合が多い傾向がある。
一方、サービス消費(「宿泊費」「飲食費」「交通費」「娯楽サービス費」)の割合が最も高いのは英国(88.8%)で、次いでイタリア(86.4%)、ドイツ(84.9%)、インドネシア(84.6%)が続いている。
5――おわりに~欧米客やリピーターの増加が促す、買い物から体験への消費構造の変化
ただし、消費単価(1人・1日当たり)は、前年同期と比べて約1割の減少となった。その背景には、2025年4-6月において為替がやや円高方向に振れ、高級ブランド品をはじめとする日本での買い物に対する割安感が薄れたことがあげられる。
実際、これまで約3年間に渡り増加傾向にあった百貨店におけるインバウンド売上(免税売上)は、2025年3月以降、減少に転じている。こうした動きも反映し、インバウンド消費の内訳では、これまで約3割を占めていた「買い物代」の割合が、今期は26%台へと低下している。
国籍・地域別に見ると、訪日客数は中国が最多で、僅差で韓国が続き、次いで台湾、米国、香港の順となった。一方、消費額では中国が最多で、以下、米国、台湾、韓国、香港と続いた。
各国の消費単価を見ると、為替変動やそれぞれの国内景気の動向などを背景に、特に消費額の多い中国や香港からの訪日客において、単価の減少が目立っていた。こうした動きが、全体としての消費単価の押し下げにつながっていると見られる。
インバウンドの消費内訳は、前述の通り、「買い物代」が26%にとどまり、サービス消費が7割超を占めている。今後は、より「日本ならでは」の体験を求める傾向が強まり、サービス志向の高まりが一層進んでいくと見られる。
こうした体験志向の高まりの背景には、いくつかの要因がある。ひとつは、近年増加している欧米からの訪日客の存在である。これらの国々では、自国においてもモノからコト(サービス)への消費構造の転換が進んでおり、日本においても、買い物よりも日本文化の体験や交流を重視する旅行スタイルが選ばれる傾向にある。
さらに、アジア諸国からの観光客の多くがリピーターとなっており、観光名所や定番土産といった初回消費を一通り経験したことで、次の訪問ではより深い体験を求めるようになっていると思われる。特に、韓国や台湾、香港ではリピーターの割合が8~9割に達しており、こうした動きが全体として体験志向を押し上げていると考えられる。
実際、旅行商品の中でも「日本ならではの体験」の選択肢が増えており、浴衣や舞妓姿での街歩きといった装い体験から、茶道・書道・座禅・和楽器などの伝統文化の体験、陶芸や寿司づくりといったモノづくり体験まで、その幅は広がっている。こうした体験は、SNSなどを通じて共有されやすい点も、選ばれる理由のひとつだろう。
今後は、欧米圏でもリピーターが増えていくと見られ、体験型消費はさらに拡大していく可能性がある。また、今期は円高方向への為替変動が見られたが、日本は依然として、質の高いサービスを相対的に割安で体験できる旅行先としての魅力を有している。訪日客数・リピーター数ともに、今後も増加の余地は大きく、インバウンド消費のなかでも、日本らしさに触れる時間への需要は、今後さらに厚みを増していくことが期待される。
(2025年07月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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