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2025年07月28日

インバウンド消費の動向(2025年4-6月期)-四半期で1千万人超・2兆円超が続くが、割安感が薄れて単価減少

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~2024年のインバウンドは外客数・消費額ともに過去最高、2025年も拡大傾向が続く

前稿では、2025年1-3月期までのインバウンドの動向について報告した1。2024年通年の訪日外客数は過去最高の3,687万人に達し、消費額も8.1兆円と過去最高を記録した。この勢いは2025年に入ってからも衰えることなく、引き続き拡大傾向が続いている。

2025年1-3月の実績を見ると、訪日外客数は前年同期比で23.1%増、消費額は28.4%増と、いずれも大幅に伸びている。外客数以上に消費額が増えている背景には、1人当たり消費額(22万1,285円、同+4.8%)の増加がある。インバウンドの拡大を支える要因としては、為替の影響が引き続き大きい。円安の進行は一時期より落ち着いたものの、依然として水準は低く、加えて、日本のインフレ率は諸外国と比べて比較的穏やかである。このことが、訪日客にとって日本での買い物やサービスの割安感につながっていると考えられる。

また、1-3月期の国別の動向を見ると、訪日外客数で最多は韓国、消費額で最多は中国であり、いずれも全体の約4分の1を占めていた。

こうした背景を踏まえながら、本稿では観光庁「インバウンド消費動向調査(2025年4-6月期)」を中心に、最新のインバウンド消費の実態を分析していく。
 
1 久我尚子「訪日外国人消費の動向(2025年1-3月期)~四半期初の1千万人越え、2025年の消費額は10兆円が視野に」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/5/28)

2――訪日外客数

2――訪日外客数~2025年4-6月期は引き続き1千万人越、首位は中国21.4%、僅差で韓国20.7%

2025年4-6月の訪日外客2数は1,098万228人(推計値)に達し、前年同期(922万3,939人)と比べて19.0%の増加となった(図表1)。また、前期に続き四半期で1,000万人を超えている。
図表1 月別訪日外客数の推移
国籍・地域別に見ると、最多は中国(235万2,989人、全体の21.4%)であり、僅差で韓国(227万7,272人、20.7%)、次いで台湾(166万1,038人、15.1%)、米国(98万4,542人、9.0%)、香港(62万3,549人、5.7%)が続き、構成比は前年とおおむね同様である(図表2)。なお、2024年10-12月期、2025年1-3月期は韓国が首位であったが、今期は中国がやや上回るようになっている。

また、香港を除く外客数の上位国では、いずれも外客数が前年同期を上回っており、なかでもロシア(+122.7%)、スペイン(+66.2%)、イタリア(+58.3%)、インド(+51.1%)における増加が顕著である。
図表2 国籍・地域別訪日外客数
 
2 訪日外客とは、外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のこと。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

3――訪日外国人旅行消費額

3――訪日外国人旅行消費額~拡大傾向が続くも、割安感の低下で1人当たり消費額は減少

1|全体の状況~2025年4-6月期は引き続き2兆円越も、割安感低下で1人・1日当たり消費額は減少
2025年4-6月期の訪日外国人による旅行消費額は2兆5,250億円(一次速報)であり、前年同期(2兆1,402億円)と比べて+18.0%の増加となった(図表3)。消費額は2023年7-9月期以降、コロナ禍前を上回るペースで増加が続いており、2024年4-6月期には四半期として初めて2兆円を突破した。今期はそれをさらに上回る水準となっている。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
なお、前期までは訪日客の増加を上回って消費額が伸びており、1人当たりの消費額の増加が確認されていた。しかし、今期は訪日客の伸び(前年同期比+19.0%)に対し、消費額の伸び(同+18.0%)はわずかに下回っている。実際、1人当たりの消費額は、2024年4-6月では23万9,028円だったが、2025年4-6月では23万8,693円(▲335円、▲0.14%)へとわずかに減少している。

また、平均宿泊日数は2024年4-6月期の8.5日から、今期は9.4日(+0.9日)へと増加しており、これを踏まえると、1人1日当たりの消費額は減少していることになる。

1人1日当たりの消費額は、2024年4-6月では2万8,121円だったのに対し、2025年4-6月では2万5,393円(▲2,728円、▲9.7%)と、約1割の減少となっている。

この要因としては、外客数の多い中国や香港などで、1人当たりの消費額が減少していることがあげられる(図表4)。たとえば、中国では、1人当たりの消費額は、2024年4-6月では28万3,946円であったが、2025年4-6月には24万8,481円(▲3万5,465円、▲12.5%)へと約1割の減少となっている。なお、中国ではコロナ禍からの回復以降、1人当たり消費額の減少傾向が続いている。

また、香港でも前年同期と比べて2割弱の減少が見られ、2024年4-6月の26万6,388円から、2025年4-6月には21万9,990円(▲4万6,398円、▲17.4%)へと、約2割減少している。
図表4 外客数が上位の国籍・地域の1人当たり消費額の推移
そのほか、米国や韓国においても1人当たりの消費額は前年より減少しており、全体の平均額を押し下げる一因となっている。

この背景には、2025年4-6月が、前年同期や前期と比べてやや円高傾向にあったことがあげられる(図表5)。これにより、日本で買い物をする際の割安感がやや薄れたと考えられる。

また、近年では特に欧米諸国のインフレの影響を受けて、高級ブランド品の値上げが相次いでいる。これまで日本では、そうした値上げが相対的に遅れていたため、訪日客にとって割安感が強かった。しかし、昨年頃から日本国内でも高級ブランド品の値上がりが加速しており、このことも割安感の低下につながった可能性がある。

実際、これまでインバウンド消費の恩恵を大きく受けてきた百貨店の売上高には、やや陰りが見られている。日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」によると、百貨店におけるインバウンド売上(免税売上)は、2025年2月まで35カ月連続で前年を上回っていたが、2025年3月以降は減少に転じている。特に2025年5月は、高額商品の購買が減少したことで客単価が下がり、前年同月比で▲40.8%と大幅な減少となっている。これは、前年の高伸に対する反動も含まれているが、インバウンド消費の構造的な変化が、売上動向にもあらわれ始めている兆しとも言える。

こうした状況を背景に、次節で詳しく述べるが、消費内訳に占める「買い物代」の割合も低下傾向にある。
図表5 各国通貨の対米ドル為替レートの推移(2019年=100)/図表6 各国の消費者物価指数の推移(2019年=100)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月28日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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