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2025年08月05日

輸出減速でも揺るがぬ成長~内需主導で6%台の成長を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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インド経済は2025年1-3月期の実質GDP成長率が前年同期比+7.4%と、2四半期連続で加速した。約1年ぶりに7%台の成長率となり、高成長軌道への復帰が確認された(図表1)。
図表1:インドの実質GDP成長率
1-3月期の成長加速は投資の拡大と輸入の大幅な減少が主因である。まず投資は同+9.4%と好調だった。民間設備投資が勢いを欠いた一方、政府の資本支出(同+33.4%)が大幅に増加し、景気を牽引した。純輸出については、財・サービス輸出が同+3.9%(前期:同+10.8%)と鈍化した。ITサービス輸出は好調だったが、財輸出の停滞が全体の重石となった。財・サービス輸入(同▲12.7%)は消費の鈍化に加え、輸出の減速に伴って中間財などの輸入需要も弱まり、大きく減少した。これにより純輸出の成長率への寄与は+3.7%ポイントと、前期の+2.8%ポイントから更に拡大した。もっとも、民間消費(同+6.0%)の回復はやや鈍く、農村部を中心に消費者心理が完全には戻っていない可能性がある。
 
先行きは米国の関税政策を巡る世界貿易の混乱を受けて景気の減速が懸念されるものの、金融・財政政策の支援により内需が堅調を維持することにより、6%台半ばの底堅い成長が続くと見込まれる。2025年度の成長率は前年度比+6.4%となり、2024年度(同+6.5%)から小幅に低下する見通しである。
 
内需の柱は引き続き民間消費だ。中間所得層向けの所得税減税や、緩やかなインフレの継続が実質購買力の改善につながり、消費の回復を下支えしよう。また2025年の南西モンスーンは平年を上回る降雨量が予測されている。9~11月頃に収穫される雨季作物(コメ、トウモロコシ、豆類など)が豊作となり農業所得が増加すれば、農村部の消費も底上げされる可能性がある。投資については、公共部門の支出拡大に加え、民間投資にも回復の兆しがみられる。2025年度予算では、中央政府の資本支出が前年度比+10.2%の11.2兆ルピーとされており、インフラ関連を中心に公共投資が経済を下支えする(図表2)。一方、民間投資は設備稼働率の上昇や金融緩和策を受けて、製造業や不動産開発を中心に持ち直す動きがみられるが、企業は景気の先行きを慎重にみており、力強さには欠ける可能性がある。
図表2:インド国家予算の資本支出
外需については、ITサービス輸出が引き続き堅調に推移する一方、財貨輸出は世界経済の減速の影響を受けて伸びが鈍化する見通しである。輸入は内需拡大を背景に増加が見込まれ、外需の成長率への寄与は再びマイナスとなる可能性がある。
 
米国の関税政策を背景とする世界的なサプライチェーンの混乱は、インド経済にとって今後のリスク要因となる。しかし、インド経済は内需主導型で貿易依存度が相対的に低いため、成長の持続性という点で他の主要国経済より安定感がある。2025年上期には米国向けの駆け込み輸出が各国で加速する動きが見られたが、インドでは限定的にとどまった。これは、インドの主要輸出品に医薬品や宝飾品など出荷時期の調整が難しい品目が多いこと、生産能力や物流網の柔軟性が乏しいこと、さらにインドが中国製品の迂回輸出経路として重視されず、米国の関税政策の主要な対象国ではなかったことが要因として考えられる。
 
インドと米国は経済安全保障の観点から協力関係を強化しており、現在交渉中の米印貿易協定を契機とした中国からの生産移転の加速にも注目が集まっている。インドの貿易政策はこれまで、国内産業の育成や雇用創出を優先し、やや保護主義的な色合いが強かったが、2025年5月には英国との間でFTA交渉を完了し、現在はEUやオーストラリア等とも交渉を進めている。
 
こうした諸外国との貿易協定が次々と締結されれば、衣料品、履物、玩具といった労働集約型産業を中心に、インドの輸出拡大が見込まれる。加えて、電気自動車(EV)や半導体などの先端分野における海外直接投資の誘致も進展しており、製造業の高度化や雇用創出の動きが注目される。こうした外資主導の投資拡大と貿易自由化の進展が相乗効果をもたらせば、インド経済の成長の持続性は一段と高まるだろう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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