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2025年07月08日

国民年金保険料の納付率は向上。自動引去り利用率の伸び悩みが課題~年金改革ウォッチ 2025年7月号

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は、日本年金機構の令和6年度業務実績報告書の案について議論し、修正版を了承した。年金部会は、成立した国民年金法等の一部を改正する等の法律について報告を受け、委員が所見を述べた。
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
6月13日(第78回) 日本年金機構の令和6年度業務実績、令和6年度の障害年金の認定状況
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo78_00001.html (資料)
 
6月27日(第79回) 日本年金機構の令和6年度業務実績、国民年金の加入・保険料納付状況など
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo79_00003.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
6月30日(第25回) 国民年金法等の一部を改正する等の法律、公的年金財政状況報告
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20250630.html (資料)

2 ―― ポイント解説:国民年金保険料の納付率向上の現状と課題

2 ―― ポイント解説:国民年金保険料の納付率向上の現状と課題

6月27日の年金事業管理部会では、国民年金保険料の納付率の状況が報告された。本稿では、国民年金保険料の納付に関する制度や現状、課題を確認する。
図表1 公的年金加入者の区分(イメージ) 1|制度:国民年金保険料の対象者は、自営業のほかパート労働者や無職など多様な人々
日本国内に住んでいる20~59歳の人は国民年金の加入者(被保険者)となり、将来は基礎年金を受給できる*1。国民年金の被保険者は第1~3号の3種類に区分されており、第2号は厚生年金の加入者(会社員や公務員)、第3号は第2号に扶養される配偶者(専業主婦(夫))で、それ以外は第1号となる。基礎年金に必要な費用のうち第2~3号の分は厚生年金制度から拠出されており、国民年金保険料を納付するのは第1号のみである*2
図表2 国民年金保険料対象者の就業状況 第1号には第2~3号以外のすべての対象者を含み、その内訳は、雇用者(雇われている人)が約4割、無職が約3割で、自営業は約4分の1となっている(図表2)。無職も対象であるため、本人や世帯の所得状況等によっては保険料の免除や猶予を受けられる*3
 
*1 ただし、老齢基礎年金の受給には10年以上の加入などの要件がある。
*2 保険料月額は、2024年度が16,980円、2025年度が17,510円。厚生年金加入者の賃金上昇率に連動して改定される。
*3 保険料が免除された場合は、保険料を納付した場合と比べて将来の年金額が少なくなる。例えば、保険料の全額を免除された場合、免除期間に対応する年金額は納付した場合の半額となる。
図表3 国民年金保険料の納付率 2|現状:納付率の改善傾向は継続
保険料の納付期限は対象月の翌月末だが、2年以内なら遡及して納付できる。保険料の納付率(分母から免除者や猶予者を除外した率)は、納付対象月の年度末でも2年後でも上昇が続いている(図表3)。また、当年度末から2年後にかけての納付率の向上幅は、近年10%ポイント程度で推移している。当年度末の未納者への納付勧奨が奏効した結果、と言えるだろう。
図表4 国民年金保険料の申請全額免除の割合 なお、納付率の改善要因として免除率の上昇が指摘されることもあるが、申請全額免除の割合は2021年度から17%程度で横ばいになっている*4(図表4)。
 
*4 生活保護受給者などが対象となる法定免除の割合は、2015年度8.2%、2020年度9.7%、2024年度10.8%と、小幅な上昇傾向。
図表5 納付方法別の利用者数の割合(%) 3|課題:自動引去りのさらなる進展
行動経済学に基づく研究では、将来を軽視する人ほど国民年金保険料を納めない傾向が示されている*5。このように自分の意志では納めにくい場合は、自動引去りを利用すれば窓口等での支払いよりも納付が継続しやすい。近年は口座振替とクレジットカードを合計した利用率が伸び悩んでいるが(図表5)、日本年金機構は口座振替等を周知するリーフレット等を送付しており、さらなる進展を期待したい。

また、2023年2月からは、スマートフォンのアプリ等を使ったコード決済でも保険料納付が可能になっている。2024年度には若年者を中心に利用が拡大し、前年度の約1.5倍にあたる339万月分(現年度の総納付月数の3.7%)の保険料がコード決済で納付された。コード決済は店舗に出向く必要がない点で利便性が高いが、定期的な納付につながっているかの検証を期待したい。
 
*5 例えば、中嶋邦夫・臼杵政治(2005)「国民年金の未納要因:主観的な視点の考慮」。国民年金保険料の未納要因に関する研究を整理した近年のものには、阿部由人(2017)「国民年金未納要因の計量分析」がある。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月08日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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