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- ECB政策理事会-2%目標を概ね達成、金利水準は「良い位置」
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1.結果の概要:7会合連続利下げ
【金融政策決定内容】
・政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)
【記者会見での発言(趣旨)】
・見通しは実質成長率を25年0.9%、26年1.1%、27年1.3%と予想(26年をやや下方修正)
(前回3月は25年0.9%、26年1.2%、27年1.3%)
・インフレ率を25年2.0%、26年1.6%、27年2.0%と予想(25・26年を下方修正)
(前回3月は25年2.3%、26年1.9%、27年2.0%)
・コアインフレ率を25年2.4%、26年1.9%、26年1.9%と予想(25年上方・26年下方修正)
(前回3月は25年2.2%、26年2.0%、26年1.9%)
・今回の決定はほぼ全会一致だった(1名反対者がいた)
・インフレ率は現在、2%の中期目標付近にあり、多くの基調的なインフレ指標は2%目標での持続的な安定を示唆している
・現在の金利は、今後に到来する不確実な状況を乗り切るための良い位置にある
・コロナ禍などの一連のショックに対応した金融政策のサイクルは概ね終了し、我々はうまく対応したと考えている
2.金融政策の評価:2%目標を概ね達成、金利水準は「良い位置」
声明文では「ディスインフレ過程が順調に進んでいる(on track)」との評価を削除、インフレ率が目標付近にあり、多くの基調的なインフレ指標も2%目標での持続的な安定を示唆していると評価した。ラガルド総裁は、「コロナ禍などの一連のショックに対応した金融政策のサイクルは概ね終了し、我々はうまく対応したと考えている」と発言しており、現時点で2%目標がほぼ達成されていることを示唆した。
今回の利下げで政策金利が預金ファシリティ金利で2.0%となり、ラガルド総裁が以前言及していた中立金利(1.75-2.25%)の中央値に達したこともあり、関心は次回7月以降の追加利下げやそのペースに移っている。質疑応答でも今後の政策金利経路に関する質問が多く見られたがラガルド総裁は、現在の金利は今後に到来する不確実な状況を乗り切るための良い位置にある、と述べる一方で、今後については従来通り会合毎にデータに基づいて決定するとの姿勢を示すにとどまっている。
また、今回は理事会に合わせて最新のスタッフ見通しも公表された。不確実性が大きいため、代替シナリオも合わせて公表されたが、現時点での関税政策が恒久化されるベースラインシナリオでは総合インフレ率が一時的に2%を割るものの、27年には2%目標に回帰し、概ね2%目標が達成されている姿となっている。ラガルド総裁も、26年の2%割れはエネルギー価格の低下とユーロ高が主因であり、基調的なインフレ率やコアインフレ率はより安定している点を強調した。
ただし、経済の不確実性は高い状況は変わらず、現時点では相互関税が実施された4月以降の状況が確認できる統計データが限定されていること、関税交渉の結果が不透明であることから、今後は、この双方が注目されるだろう。今回、「良い位置」にあるとされた政策金利は次回7月会合では据え置きがメインシナリオになると見られるが、統計データが予想以上に悪化、あるいは関税交渉が決裂し、ベースラインシナリオからの下振れ懸念が高まる場合には追加利下げも視野に入るだろう。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- 理事会は、更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、本日、特に理事会が金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利など3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
- インフレ率は現在、理事会の2%中期目標付近にある(ディスインフレ過程は順調に進んでいる(on track)という表現は削除)
- ベースラインのユーロシステムのスタッフ見通しは、総合インフレ率が25年平均で2.0%、26年で1.6%、27年で2.0%と主にエネルギー価格の低下とユーロ高を反映して25年と26年を0.3%ポイント引き下げた
- スタッフはエネルギーと食料を除くインフレ率見通しを25年平均で2.4%、26年および27年で1.9%とし、概ね3月から変更しなかった
- スタッフはGDP成長率を25年平均で0.9%、26年で1.1%、27年で1.3%とした
- 25年の成長率見通しは不変だが、1-3月期の予想以上の強さおよびその後の弱さが織り込まれている
- 貿易政策を取り巻く不確実性が、特に短期的には企業投資と輸出の重しとなるものの、防衛およびインフラへの政府投資の増加が中期的な成長の下支えとして増すと見られる
- 実質所得の上昇と労働市場の堅調さが家計の支出増加を促すだろう
- 資金調達環境の改善とともにこれが世界的なショックに対する経済の強靭性となっている
- 高い不確実性の状況下で、スタッフはまた、代替の例示シナリオとして貿易政策の違いが成長率とインフレ率への影響に及ぼす仕組みについて評価した1
- これらのシナリオはECBのウェブサイトでスタッフ見通しとともに公表される
- このシナリオ分析のもとで、今後数か月においてさらに貿易の緊張が激化すれば、成長率とインフレ率はベースラインシナリオを下回るだろう
- 対照的に、貿易の緊張が良好な結果となって解消されれば、成長率と程度は低いもののインフレ率はベースライン見通しを上回るだろう
- ほとんどの基調的インフレ率の指標はインフレ率が理事会の中期の2%目標で持続的に落ち着くことを示唆している
- 賃金上昇率は依然として高止まりしているが引き続き目に見えて鈍化しており、利益は部分的にインフレ率への影響を緩和している
- 4月の貿易の緊張で増加した不確実性と金融市場の大きな変動は資金調達環境を厳格化させる懸念であったが、緩和している
- 理事会は、確実にインフレ率を中期的な2%目標で持続的に安定させると決意している
- 特に異例の不確実性がある現状において、理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
- 金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定)
- 預金ファシリティ金利:2.00%
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.15%
- 限界貸出ファシリティ金利:2.40%
- 25年6月11日から実施
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標で持続的に安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
1 ベースラインシナリオでは、5月時点の関税が恒久化されると想定されているのに対し、楽観(mild)シナリオでは、米国・EU間の関税が撤廃される(米国・中国間の関税も削減、その他の国は不変)との前提が置かれている。また、悲観(severe)シナリオでは、上乗せ関税の再開(中国以外は4月2日公表時点と同水準、米国・中国間は5月12日以前の100%超水準に)とEUによる対称的な報復措置が想定されている。また楽観シナリオでの成長率は25年1.2%、26年1.5%、27年1.4%、インフレ率は25年2.0%、26年1.7%、27年2.1%、悲観シナリオでの成長率は25年0.5%、26年0.7%、27年1.1%、インフレ率は25年2.0%、26年1.5%、27年1.8%とされた。
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏はユーロスタットの改定値では25年1-3月期に0.3%成長した
- 失業率は4月に6.2%とユーロ発足以来の低水準にあり、雇用は改定値によれば1-3月期に0.3%成長した
- スタッフ見通し同様、調査データは総じて短期的な見通しの弱さを示している
- 製造業は、一部は高関税期待による貿易の前倒しにより強まっているが、より域内型のサービス部門は鈍化している
- 高関税とユーロ高が企業の輸出を困難にさせると見られる
- 不確実性の高さは投資の重しになるだろう
- 同時にいくつかの要素が経済の強靭性を保ち、中期的な成長の支えになるだろう
- 労働市場の強さ、実質所得の上昇、家計部門のバランスシートの健全性、一部は我々の利下げを受けた資金調達環境の改善は、消費者と企業を世界的に変動の大きい環境から耐えるのに役立っている
- 最近公表された防衛とインフラ投資の拡充措置も成長を後押しするだろう
- 現在の地政学的環境において、ユーロ圏経済をより生産的に、競争力を持ち、強靭化する財政・構造政策をより緊急に必要としている
- 欧州委員会の競争力コンパスは行動への具体的な行動計画を提供しており、その提案は簡素化も含めて迅速に遂行されるべきである
- これには、明確で野心的な予定表をもつ貯蓄・投資同盟の完成も含まれる
- 潜在的なデジタルユーロの導入の基盤となる法律枠組みの迅速な作成も重要となる
- 政府は、EUの経済統治枠組みに沿った持続的な財源を確保し、不可欠な成長促進のための構造改革と戦略投資への優先すべきである
(インフレ)
- ユーロスタットの速報値によれば5月のインフレ率は4月の2.2%から1.9%に低下した
- エネルギーインフレは▲3.6%で維持された
- 食料インフレは前月の3.0%から3.3%まで上昇した
- 財インフレは0.6%で変化がなかったが、サービスインフレは4月の4.0%から3.2%に低下した
- サービスインフレは4月には主にイースター休暇付近での旅行サービス価格が予想よりも上昇していた
- 多くの基調的なインフレ指標は我々の2%の中期目標での持続的な安定を示唆している
- 労働コストは、妥結賃金や国別に入手可能な1人当たり雇用者報酬のデータが示す通り緩やかに鈍化している
- ECBの賃金トラッカーは25年の妥結賃金上昇率のさらなる鈍化を示しており、スタッフ見通しでは26年および27年の賃金上昇率は3%を下回ると予想している
- エネルギー価格の低下とユーロ高は短期的なインフレ圧力の下押しとして作用するものの、インフレ率は27年には目標に回帰すると予想される
- 貿易の緊張に関するニュースを受けて短期の消費者のインフレ期待は4月に上昇した
- しかし、多くの長期のインフレ期待は引き続き2%付近で推移しており、インフレ率の2%付近での安定を支えている
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- さらなる世界的な貿易の緊張激化と関連する不確実性により輸出停滞と投資・消費の鈍化でユーロ圏成長率が低下する可能性がある
- 金融市場の景況感悪化は資金調達環境の厳格化をもたらす可能性があり、リスク回避姿勢を強め、企業や家計の投資・消費意欲を低下させるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や、中東での悲劇的な紛争のような地政学的な緊張は引き続き主要な不確実性となっている
- 対照的に貿易と地政学的な緊張が速やかに解消されれば、景況感が改善し経済活動が活況となる可能性がある
- 防衛やインフラへのさらなる支出増加は、生産性向上改革とともに、成長を押し上げる可能性がある
- ユーロ圏インフレ率を取り巻く見通しは、世界的な貿易政策の変化が激しい環境のため、通常よりも不確実性が大きい
- 世界的なエネルギー価格の下落とさらなるユーロ高はインフレ率への下押し圧力になり得る
- これは、仮に関税引き上げが、ユーロ圏の輸出需要の低下や、生産過剰となった国々が輸出先をユーロ圏に変更すれば強化される可能性がある
- 貿易の緊張は金融市場の変動やリスク回避姿勢を強めるため、内需の重しとなり、低インフレをもたらす可能性がある
- 対照的に、世界的な供給網の分断化は輸入物価の押し上げを通じてインフレ率を上昇させ、域内経済の供給制約を助長する可能性がある
- 防衛とインフラ支出の増加もまた中期的なインフレ率を上昇させる可能性がある
- 異常気象や気候変動危機がより広がることで、食料品価格が予想以上に上昇する可能性もある
(2025年06月06日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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