2025年02月06日

PRA(英国)やACPR(フランス)が2025年の監督・政策上の優先事項や作業プログラムを公表

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3―ACPRの2025年の作業プログラム

フランスのACPR(健全性監督破綻処理機構)は、2025年1月20日に、2025年の作業プログラムを公表した。ACPRの業務分野は、フランス銀行(Banque de France)と共同で実施され、2024年12月に金融安定性報告書で公表されたフランス金融システムのリスク評価に基づいている。また、SSM(単一監督メカニズム)、CRU(Conseil de résolution unique:単一破綻処理委員会)15、EBA(欧州銀行監督局)及びEIOPA(欧州保険年金監督局)の監督上の優先事項も統合されている。

ACPR事務局長のNathalie Aufauvre氏は、「2024 年、不確実な経済的及び政治的状況に直面して、銀行と保険会社はレジリエンスを示した。この堅実さは、欧州とフランスで実施されている健全性の枠組みが有効であることを証明する一方、2025年は大西洋全域で規制が緩和される可能性など、新たな不確実性を抱えて始まる。この環境において、ACPRは監督モデルの基本を維持しながら、リスクベースのアプローチと簡素化を規制業務と行動の中心に据える。従来のリスクの監視を超えて、DORA(デジタルオペレーショナルレジリエンス法)の段階的発効、気候リスクに関する取り組みの継続、暗号資産のLCB-FT(又はAML-CFT )16の監督、及び非仲介型又は分散型金融など、私たちのプロジェクトは数多くある。」と述べている。

具体的な項目としては、監督カレッジ破綻処理カレッジについて、それぞれ以下の項目が挙げられている。各項目のうち、主として保険に関係する項目について、抜粋して報告する。
 
15 英語で「Single Resolution Board(SRB)」と呼ばれる。破綻銀行の秩序だった破綻処理を確保し、参加するEU 諸国及びその他の国の実体経済及び財政への影響を最小限に抑える役割を有している欧州銀行連合の破綻処理機関
16 LCB-FT(Lutte Contre le Blanchiment de capitaux et le Financement du Terrorisme,)又はAML-CFT(Anti-Money Laundering and Countering the Financing of Terrorism)は、マネーロンダリング及びテロの資金調達防止への闘いを意味しており、マネーロンダリングとテロ資金供与を防止すること目的とした一連の法律と規制。
監督カレッジは、以下の4つの主要業務を定めて、採択している。

1.不確実な政治、経済、金融環境において、金融セクターの健全性を確保する
増大する地政学的リスクに直面して、国際情勢の動向を監視する。マクロ金融の伝染リスクに注意を払い、市場や商品の変動に関連した金融リスクを評価する。暗号資産の開発とそれに関連するリスクもACPRによって調査される。

ACPRは、金融機関が資産価格や金利スプレッドの高いボラティリティの影響にさらされる可能性を注意深く監視する。

保険セクターでは、金利リスクと資産と負債のデュレーションギャップの管理を引き続き注意深く監視する。経済状況に最も影響を受けやすい保険会社、特に建設保険や信用保険を専門とする保険会社に注意を払う。

生命保険では、2024年に支払われる報酬・リターンの変化を調査し、中期的なものも含め、保険料収入の推移とそれらが保険会社のソルベンシーと流動性に及ぼす影響を引き続き監視する。損害保険では、保険会社のコミットメントのモデル化においてインフレが確実に考慮されていることを確認する。

また、金融セクター、特にノンバンク金融機関(NBFI)との相互接続に関連するリスクをより適切に考慮するために、ACPRはフランス銀行及び AMF17と協力して、継続的な監視をしていく。
 
17 AMF は、フランスの貯蓄、投資家の情報、金融市場の適切な機能の保護を監督する独立機関
2.リスクベースのアプローチを開発し、監督と規制を簡素化するための作業を実行する
ACPRはリスクベースのアプローチを強調し、ACPRの責任下にある監督分野を簡素化する。実効性を高めることを目的としたこのアプローチによれば、監督当局の優先順位、金融機関のリスクプロファイル、及び監督対象金融機関が破綻した場合の影響に応じて、管理手法を調整する。将来の監督ツールや管理手法の開発には、引き続きイノベーションが活用される。そのために、ACPRはデータの質を向上させ、データを最大限に活用するよう努める。

3.セクターをサポートし、構造的な脆弱性を積極的に軽減する
保険セクターについては、ソルベンシーII指令の改正と、保険会社及び再保険会社の再建・破綻処理に関する規定も注意深く監視される。

ACPRは、気候変動問題にコミットし、気候変動問題に直面する金融機関の戦略を決定する上で重要な役割を果たす移行計画の策定努力を継続する。ACPRは、2024年にフランスの保険会社を対象として実施されたストレステスト(特に、物理的リスクと保険性)の結論と、欧州金融システム全体を対象とした「Fit for 55」18テストの結論を監視する。

ACPRは、特にデジタル化の進展を背景に、監督する金融機関のビジネスモデルのパフォーマンスを監視する。また、金融コングロマリットを監視し、その構造と業績のレジリエンスを分析する。保険分野では、アウトソーシングの利用や1層以上の仲介に関連するリスクを注意深く監視し、特に、リスク・キャリアがバリューチェーン全体を適切にコントロールできるようにし、経済的均衡を評価する。

新技術に関連するリスクは引き続き注意深く監視する。サイバーリスクの予防を強化し、ITサービス・プロバイダーの管理を強化するため、DORAの実施を優先する。同時に、ACPRは業務上のリスク(AIを使用したアプリケーションや不十分なデータ品質に関連するリスク等)を監視する。
 
18 2030年までに温室効果ガス排出量を55%削減するためにEUで策定された気候変動政策パッケージ
4.不正行為リスクとLCB-FTシステムの監督を強化する
個人保護の観点から、当局はAMFや公的機関と協力して金融詐欺を防止する取り組みを継続する。銀行及び保険商品の設計とマーケティングにおける顧客の利益を尊重することは、常に注目すべき点となる。損害保険については、特にアフィニティやパラバンキングなど付加価値の低い商品が詳細な分析の対象となる。生命保険に関しては、当局は、この分野における業界のコミットメントに従い、特に販売される口座単位の費用対効果に照らして、経済的利益(バリュー・フォー・マネー)に関する取組みを継続する。

破綻処理カレッジは、以下の3つの優先事項を特定して、採択している。

1.CRU(単一破綻処理委員会)の 2028 年戦略に参加する
ACPR は、新しいツールの導入を、破綻処理部門のダイナミクス、特に現場検査ミッションの開始に統合する。

2.保険破綻処理におけるACPRの専門知識を強化する
保険破綻処理における権限の一環として、またこのテーマに関する専門知識を強化するために、保険当局は、2024 年 4 月に欧州議会が決定した保険組織の再建・破綻処理に関する欧州指令IRRD(保険再建破綻処理指令)の実施の準備を引き続き進めていく予定である。

3.ACPRの影響力戦略を継続する
ACPRは、特に銀行部門(分離可能性とグループ内支援メカニズムに関する作業の開始)、保険部門(単一又は複数のエントリーポイント戦略)、金融コングロマリット部門における新たな水平的分析によって、その影響力戦略を追求する。

なお、2024年においては、破綻処理カレッジについては、同様な優先事項が掲げられていたが、監督カレッジの主要な作業プログラムとしては、以下の項目が挙げられていた。

1.マクロ経済・金融・地政学的リスクに直面する銀行・保険セクターの安全性と健全性の維持・強化

2.構造的な脆弱性に対処し、新たなリスクや発生途上のリスクの特定、予防、監督に積極的に取り組む

3.不正行為リスクの特定と是正、質の高い LCB-FT19システムの維持
 
19 LCB-FT(Lutte Contre le Blanchiment de capitaux et le Financement du Terrorisme,)は、マネーロンダリング及びテロの資金調達防止への闘いを意味しており、マネーロンダリングとテロ資金供与を防止すること目的とした一連の法律と規制。
4.ACPR の近代化と効率化の継続及びフランス銀行の戦略的計画への貢献

その中で、特に保険に関するテーマとしては、以下が挙げられていた。

・金利リスクと資産・負債のデュレーションギャップの管理を引き続き注意深く監視する。

・生命保険では、2023年に向けて支払われるリターンの変更、特に貯蓄者にとって魅力的なリターンを維持するために、近年積み立てられた利益配分準備金の段階的な再配分を検討する。

・2023年に抑制されている生命保険の解約の動向と、それが保険会社のソルベンシーと流動性に及ぼす影響を監視する。

・損害保険では、保険会社の収益性とともに、負債のモデリングにおいてインフレがどのように考慮されているかについても検討する。

・(信用リスクに関係して)経済情勢の影響を最も受けやすい組織、特に保証会社部門(信用保険、完成保証)、及び保険料の下落の影響を受ける可能性のある医療・年金保険部門に警戒が集中する。

・2024年には、保険会社を対象とした第2回気候ストレステストの実施の結果とこのガバナンスに関する作業が公表される予定である。

・ソルベンシーII指令及び保険・再保険会社の再建・破綻処理に関する指令の改正のための実施文書など、国際レベルで進行中の規制作業を引き続き監視する。

・銀行商品と保険商品の設計とマーケティングが顧客の利益を尊重することを保証する。生命保険と損害保険においては、顧客にとっての商品の経済的利益(バリュー・フォー・マネー)と、適用される手数料の水準に細心の注意を払う。

したがって、2025年においては、基本的には2024年における主要な作業プログラムが引き続き採用されているが、「ACPR の近代化と効率化の継続及びフランス銀行の戦略的計画への貢献」に代わって、「リスクベースのアプローチを開発し、監督と規制を簡素化するための作業を実行する」が大きなテーマとして取り上げられており、リスクベースのアプローチを開発しつつも、金融業界の負担等を考慮した監督・規制の簡素化への取組みに注力することを述べている。

保険においては、引き続き、「金利リスクと資産・負債のデュレーションギャップの管理を引き続き注意深く監視する。」としており、気候変動やデジタル化の進展や新たなテクノロジーに関連してのサイバーリスクへの対応強化が掲げられている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、PRAやACPRの2025年における監督・規制上の優先事項や作業プログラムについて、報告してきた。

今回のレポートで報告したPRAやACPRの監督・規制上の優先事項や作業プログラムが掲げている課題の多くについては、EIOPAが公表している2025年の作業プログラム20における課題を含めて、基本的には世界各国の保険業界に共通する課題であり、そのためグローバルレベルでのIAIS(保険監督者国際機構)においても、同様のトピックに関する検討が行われてきている。

これらの課題は、日本の保険会社にとっても極めて重要な課題であることから、これらの検討を巡る動向等については、今後も引き続き注視していくこととしたい。

(2025年02月06日「保険・年金フォーカス」)

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