2025年02月03日

ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る動き-2025年から1.00%に引き上げられるとともにDAVは2026年の1.00%の水準維持を推奨-

文字サイズ

1―はじめに

ドイツの責任準備金評価用の最高予定利率(Höchstrechnungszinses:HRZ)を巡る動向については、これまで何回かの保険年金フォーカスで報告してきたが、直近では、約1年前に、保険年金フォーカス「ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る最近の動き-DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が2025年からの0.25%から1.00%への引き上げを推奨-」(2024.2.26)(以下、「前回のレポート」という)において、DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が2025年からの0.25%から1.00%への引き上げを推奨していることを報告した。 

こうした動き等も踏まえて、ドイツのBMF(財務省)は2024年9月に、2025年1月1日より、責任準備金評価用最高予定利率を0.25%から1.00%に引き上げることを決定した。責任準備金評価用最高予定利率の引き上げは、1994年にそれまでの3.5%から4.00%に引き上げられて以来、30年以上振りのことになった。

今回のレポートでは、前回のレポート以降のドイツの責任準備金評価用の最高予定利率を巡る動きについて、報告する。

2―責任準備金評価用最高予定利率の設定ルール

2―責任準備金評価用最高予定利率の設定ルールと今回の引き上げによる影響

1|責任準備金評価用最高予定利率
責任準備金評価用の最高予定利率については、これまで通常の生命保険契約に対しては「(ECB(欧州中央銀行)によって公表される欧州のAAA格付けの)10年国債利回りの過去の平均の60%」等をベースとして決定されてきた。ただし、米国の標準責任準備金法が定める最高予定利率の場合には、利率設定ルールが明確に定められており、基本的に自動的に利率水準が決定されるが、ドイツの場合、自動的に利率水準が決定されるわけではない。

ドイツの保険監督官庁であるBaFinは専門家団体であるDAV(ドイツ・アクチュアリー会)の推奨等も参考にしながら、改定の必要性の有無や改定する場合の水準等について、独自の評価を行い、最終的にはBMF(財務省)が決定し、改定する場合には責任準備金命令の改正を行っている。

この意味で、その時々の監督当局の意図や判断等がより反映される形で水準が決定されている。改定日については、保険会社の事情等も考慮して、最近は毎年1月1日からになっているが、これもルールとして決まっているわけではない。
(参考)「責任準備金命令(DeckRV)」における最高予定利率に関する規定(第2条、第3条) (2025年1月1日時点)
 

a.ユーロ建契約 2025年1月1日以降については1.00%
他の通貨建契約 この命令の規定を考慮して、BMFの忠実な裁量で最大金利を設定

b.保険期間8年以下の一時払契約:残存期間が保険期間に対応する国債利回りの前月値の85%

c.解約返戻金のない年金保険契約:年金開始後8年間について、及び責任準備金のうち継続的な年金支払いに割り当てられる部分については、残存期間が1年から8年の国債利回りの前月平均値の85%

2|責任準備金評価用最高予定利率の意味合い
この責任準備金評価用最高予定利率は、追加責任準備金であるZZR(Zinszusatzreserve)とは異なり、その変更は既契約に対して適用はされず、あくまでも(日本における標準利率と同様に)変更後の新契約から適用されていくことになる。全ての保険会社は、この最高予定利率という規制要件の枠内で、各社の評価利率等を個別に決定していくことになる。
3|金利の状況
「ドイツ国債の利回り」や「ユーロスワップレート」は、長期にわたって低下傾向にあったが、2019年以降、2年間程度、10年の国債等ではマイナス領域で推移していた。その後、2022年に入ってから、金利が急激に反転して、例えば、ドイツ10年国債の利回りは2.8%を越える水準にもなったが、2024年に入ってからは2%から2.6%の範囲で推移している。

(参考)責任準備金評価用最高予定利率の推移
今回の引き上げに伴い、ユーロ建契約の場合の過去からの推移は以下の図表の通りとなっている。
責任準備金評価用最高予定利率の推移
4|今回の引き上げを受けての影響等
今回の引き上げを受けて、ドイツ保険会社の業界団体であるGDV(ドイツ保険協会)のマネージングディレクターのJörg Asmussen氏は、「2021年以来、急激に上昇した金利水準に対する適切な反応」であると評価し、また、「これは生命保険商品の設計にプラスの影響を与え、消費者に利益をもたらす」、と述べている。

最高予定利率が引き上げられることで、保険会社は顧客に対し、より高い保証金利を提供できるようになり、保証される年金給付額も増加することが想定されることになる。また、リースター年金への好影響も期待されることになる。

なお、GDVは、2025年1月29日に、今回の最高予定利率の引き上げによる保証給付額や年金係数(単位資金に対する毎月の保証年金額)への影響について、包括的な分析を行っている1。GDVが、11のモデルケースに基づいて、就業不能保険、定期生命保険、即時年金保険の合計232の保険料率を分析した結果によると、以下の通りとなっている。

・職業障害保険(就業不能保険)(Berufsunfähigkeitsversicherung)の保証給付額は最大9%増加し、障害年金は平均約5%増加

・定期生命保険の保証給付額は平均で約3~6%増加

・年金保険の年金係数は平均で12%増加

3―2026年の最高予定利率に関するDAVの推奨意見

3―2026年の最高予定利率に関するDAVの推奨意見

1|DAVの推奨
DAV(ドイツ・アクチュアリー会)は、2024年11月29日にポジション・ペーパー2を公表して、2026年の最高予定利率の水準を1.00%のまま維持することを推奨した。

DAVは、前回のレポートで報告したように、2023年11月30日には、2025年から最高予定利率水準を1.00%に引き上げることを主張し、この推奨をBMFとBaFinに提出していた。

今回のDAVの2026年の最高予定利率水準に関する推奨では、低金利の長期化後、2022年と2023年にインフレ率の上昇により金利が大幅に上昇し、その後インフレが落ち着き、金利もやや低下してはいるものの、それでもロシアによるウクライナ侵略戦争前の水準を大きく上回っていることから、2026年も今回の引き上げられた1.00%の水準を維持することが適当である、と主張している。

DAV会長のMaximilian Happacher博士は、「世界の危機は衰えていない。これには、ほぼ3年間続いているロシアのウクライナ侵略戦争、ますますエスカレートする中東紛争、アジア太平洋地域での緊張の高まりが含まれる。それに伴う自由な世界貿易への脅威だけでなく、公共予算の負担の増大も、中期的に一定のインフレ圧力をかけている。このような背景から、ECBの金融政策が現在の緩やかなインフレ期待により異なる方向を向いているとしても、金利は2022年以前よりも高くなることが予想される。」と述べている。

現在のモデル計算と経済分析に基づくDAVの評価では、BMFが設定した新契約に対する1.00%という最高予定利率水準は中期的に安定的に維持できる、としている。
2|DAVの最高予定利率の設定方法
以前の保険年金フォーカス「ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る最近の動き-DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が0.9%から0.25%への引き下げを推奨-」(2021.2.12)で説明したように、DAVが推奨する最高予定利率の設定方法については、2019年の推奨から、以下の通りとなっている。

(1) 生命保険会社の将来の現実的に達成可能なリターンを考慮
DAVは、2019年の推奨から、変化する状況を考慮してその方法論を適応させている。過去においては、推奨金利は、主に欧州のAAA格付け国債の過去の利回りに基づくものだったが、現在のDAV勧告は、資本市場で新たに締結される契約について、生命保険会社の将来の現実的に達成可能なリターンを考慮に入れている。

(2) 保守的な投資戦略を持つ生命保険会社の代表的な新しい投資ポートフォリオをモデル化
これを計算するために、保守的な投資戦略を持つ生命保険会社の代表的な新しい投資ポートフォリオがモデル化されている。これは基本的に、国債、政府保証債、担保付債券、社債、及び株式や不動産などのバリュー株のごく一部で構成されている。

(3) 将来の5年間の平均リターンの予測に対して、40%の割引を適用
様々な金利の動向を想定して、この投資ポートフォリオから得られる平均リターンは将来に向けて予測される。平滑化の目的で、これらのリターンの算術平均が5年間にわたって計算される。

さらに、「欧州の保険監督制度であるソルベンシーⅡが導入されるまで、立法者の要求に応じて、安全バッファーとして40%の割引が含まれていた。」ことから、最高予定利率に関するこの要件が適用されなくなった場合でも、DAVは分析でこの安全割引を引き続き適用している。

(4) 少なくとも0.4%ポイントの安全割引を適用
十分な安全性水準を確保するために、低金利の段階でも安全割引は常に少なくとも0.4%ポイントでなければならない。

4―まとめ

4―まとめ

以上、前回のレポート以降のドイツの責任準備金評価用の最高予定利率を巡る動きについて、報告してきた。

以前の保険年金フォーカスで述べたように、「監督ツールとしての最高予定利率については、当分の間(for the time being)、維持される。」が、「2018年の生命保険改革法のレビューの中で、監督手段としての最高予定利率の必要性等については検討されることになる。」となっていたが、2025年時点においても、引き続き最高予定利率が維持される形になっている。

2026年から1.00%への引き上げが行われたことにより、商品設計等の面での柔軟性が拡大したとはいうものの、他の金融商品との関係等で、この程度の水準が顧客の意識や行動に大きな影響を与えるのかについては疑問視している意見も多いようである。2022年に最高予定利率が0.25%に引き下げられたことに伴い、新しいタイプの保証商品やユニットリンク保険等へのシフトが加速してきた状況が、今回の1.00%への引き上げにより、伝統的な保証商品への回帰に変化していくのかということについては、より資本効率の高い商品に注力したいという保険会社側の経営姿勢とも関係して、懐疑的な状況にあると言える。

標準責任準備金制度における標準利率を有する日本においては、ドイツの責任準備金制度における責任準備金評価用の最高予定利率を巡る動向や、それを受けての保険会社の対応及び顧客の意識への影響等については、関係者の関心の高いテーマであることから、引き続きその動向を注視していくこととしたい。

(2025年02月03日「保険・年金フォーカス」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る動き-2025年から1.00%に引き上げられるとともにDAVは2026年の1.00%の水準維持を推奨-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る動き-2025年から1.00%に引き上げられるとともにDAVは2026年の1.00%の水準維持を推奨-のレポート Topへ